何か空気が修羅ってんな……。
俺たちのホームであるリベルタの家。そのリビングといえば、くつろぎ空間のはずなのに。
いまでは長身美女ふたりが、ソファーとリビングチェアに座って対峙している。……温厚なルカが、いつになく冷めた目をしている。何かゾクゾクしてきた。
「成人おめでとう」
「ありがとう」
……。感動の姉妹再会、というわけではなさそうだ。
俺とイラは、両者を見守る。なおキッチンカウンターからディーも様子を見守っている。
「それで、あたしより3か月先に成人したルカは、婿を見つけられたのか?」
「今も探しています。余計なお世話です、ありがとう」
笑顔が怖い。姉の態度に、シィラは来客用カップをとった。
「フン、アタシはもう見つけたぞ。なあ、旦那様よ」
旦那様って俺? 流し目を送ってくるシィラである。決闘がプロポーズっていうのはさすが戦闘民族だぜ。
キッと、ルカが俺を睨んだ。どうしてそんな怖い顔するの? 何か恋人の浮気を咎めるような目をしているが、俺らパーティーメンバーで、友達かもしれないけど恋人じゃないぞ? 好きだったっていうなら嬉しいけど、ルカの好みって長身男子だろ?
「ルカは鈍臭いところがあるからな。言えよ」
「何をです……?」
「お前も、ヴィゴに惹かれているのだろう?」
「な、なっ……!?」
カッと赤面するルカ。……え、そういう反応するの? 俺のこと、マジで好きだった説。
「ここに他に男がいるのか? そうでなければ、お前がここにいる理由がわからん」
「ヴィ、ヴィゴさんは同じパーティーのメンバーなんです!」
ルカが虚勢を張るように胸を張った。
「ふうん、婿探しもしないで、男のところに転がり込んでいると?」
「む、婿探しはしています!」
ルカは言い返す。
「ヴィゴさんには、命の借りがあります。ドゥエーリ族の伝統に従い、恩返しするのは当然のこと」
「命の借りか。それはすまなかった。それなら仕方ない」
シィラは肩をすくめた。
「それにしても、旦那様よ。ルカの命をを救ったのか? さすがだな」
何がさすがなんだ?
そこでイラが俺の隣にくっつくくらい密着して囁いた。
「姉妹ですけど、どっちがお姉さんかわかりませんね」
由緒正しいお嬢様な雰囲気のルカと、いかにも『姉御!』な言動のシィラである。
「姉妹っていっても、たぶん母親が違うんだろう。成人になった差が3カ月じゃ、あまり姉妹感ないかもな」
「ヴィゴさん」
「はい!」
ルカが俺を見た。
「それで、シィラの求婚、受けられるのですか?」
どこかむくれているようなルカと、当然だよな、と言いたげなシィラ。……うん、おかしいな。俺、フリーなはずなんだけど、ルカさんの視線が意味不明だ。お前、本当は俺のこと好きなんじゃないの?
というのは、ひとまず置いておいて。
「それなんだけどな。シィラが声をかけてくれたのはありがたい、つーか嬉しいけども」
女性から告白されたことはなかったから、そこは素直に嬉しいと言っていい。ただ、そう、ただね――
「いきなり結婚ってのは俺にはちょっと重いっていうか……。その恋人からはじめて、好きになって、相性とかよくて、結婚したいって思ったら、かなって思ってる」
いきなりは、ちょっと思考が追いつかない。即断していい話じゃないと思うんだ。一生の問題だろ? 衝動で「はい」っていうもんじゃねえだろ。
「正直、ドゥエーリ族のことはよく知らんから、そっちからしたら優柔不断な答えかもしれないけど、俺はドゥエーリ族じゃないし。……すまん」
「ヴィゴさん……」
「あたしは構わないぞ、旦那様……いや、ヴィゴよ」
シィラはぜんぜん余裕だった。
「あたし自身の強さを、まだお前に見せられていないからな。あたしのいいところを見てもらって、好きになってもらうさ」
俺より年下のはずなのに、年上の貫禄のようなものを見せられてしまう。本当に成人したばかりの18才?
「と、言うわけであたしも、ヴィゴ、お前のパーティーに加えてほしい。あと、住むところだが……ここ、部屋に空きがあるなら、同居したいんだが」
「部屋は空いてるよ」
ただ……ね。俺はルカを見る。ぷいっ、とそっぽを向かれてしまった。
「リーダーはヴィゴさんです。ご自由に」
「イラ……」
「わたしはいいと思いますよ。ヴィゴ様がお決めになってください」
決定委譲1、賛成寄り委譲1か。一応、同居だから、他の面々にも確認しよう。
「ディー」
「はい! ヴィゴさん」
カウンターから様子を窺ってディーが顔を上げた。
「皆を呼んできてくれ。紹介がてら、パーティーのことも聞くから」
・ ・ ・
ということで、アウラ、ニニヤ、ダイ様、ついでにゴムも交えて、シィラの加入、同居の件を相談する。
「――へえ、ルカの妹か。いいんじゃない?」
アウラは、好意的に迎え入れの方向。
「わたしもいいと思います!」
師匠がいいと言ったのか、自分も新参ゆえか、ニニヤは賛成した。ダイ様は――
「我は我だ。お主で好きにすればよい」
こちらはリーダー決定に判断を委譲。
「ゴムは?」
「こやつに、そんな高度な判断なぞできるか」
ダイ様から突っ込まれた。ルカがゴムに抱きついて、何か言いたげな顔をしている。拗ねているのかな? 可愛い。
「ディーは?」
「ボクもいいと思いますよ」
敵意などの感情に敏感な白狼族的にもシィラから害意を感じなかったのだろう。あまり人付き合いしたがらない方だろうディーが、そういうなら問題なさそうだ。
あとは、ルカか。
同い年の姉妹。これが仲良しだって言うならよかったんだけど、年の近い兄弟姉妹って仲が悪いことが多いって聞くし、そこだけ不安だよな……。