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第80話、戦闘民族の仕来り


 ドゥエーリ族の戦士シィラと決闘をすることしばし。彼女は諦めが悪く、何度も俺に挑み、そして悉く跳ね返された。


 何度投げ飛ばされても挑んでくるタフさは敬服する。恵まれた体格ってやつだな。槍、大剣、果ては拳を使った格闘になったが、持てるスキルを活かす体術を鍛えた効果が出て、すべて防いだ。


 俺の場合、手を当てさえすればいいのだが、相手の攻撃をうまく当てる身のこなしがあればこそ、である。鍛えてなかったら、防げずタコ殴りだっただろうな。


 やっぱ特技は伸ばして、活かさないと。


 というか、シィラさんよ。あんた、決闘ってのを忘れて楽しんでません? 気絶か自主的に負けを認めないと終わらないルールにしたの、マズったかな……。


 まあ、最後まで付き合ったんですけどね。ギャラリーもあまりに一方的だったから、途中で解散しちゃったからね。……おいおい、審判役も仕事に戻っちまったぞ。


 残っているのはイラと、熱心に俺たちの勝負を見ていた少年少女の冒険者くらいになっていた。


「もうそろそろ、終わりにしない?」


 倒したついでに聞けば、地面に仰向けに倒れたシィラが俺を見上げた。


「……こんな気持ちを抱いたのは、父様以来だ。お前の手が……怖い」


 さんざん投げ飛ばされたもんな。さすがにシィラも俺の手のスキルに畏怖をおぼえたようだった。伸ばした手を掴んで起こしてやる。


「満足したか?」

「ああ、ここまでやられたのは久方ぶりだ。認めよう、お前は強い」

「そりゃ、どうも」


 もっと早く終わると思ったのに、意外に時間がかかった。


「ドゥエーリ族の伝統に従い、あたしはお前の強さを認める。ヴィゴ、あたしと結婚してくれ」

「…………は?」


 俺は固まった。いま、シィラは何と言ったか?


「ドゥエーリ族の仕来りだ。 成人したら、男も女も例外なく結婚相手を探す」


 あー、それルカから聞いた。彼女も成人して、王都に出てきた口だ。シィラも、お婿さん探しでここにきて強い男を――って、名指しされてたぞ、そういえば!


「俺の噂を聞いてきたんだったな」

「邪甲獣退治の英雄と聞いた。当然、強いだろうと思って、それを確かめにきた」


 結果は……言わずもがな、合格なんだろうな。結婚を申し込まれたということは。


「ちなみに、歳は?」

「18だ! 成人して、すぐここにきた!」


 ルカと同い年だー。またしても高身長マジック。そんな成人したてに見えないよ。いや若いんだけど、言動が『姐さん』とか言われそうな頼もしさを感じちゃうわけで。


「しかしなあ……」

「もうすでに嫁がいるのか?」


 シィラはズイ、と一歩近づいた。


「ヴィゴは強いからな。当然だ」


 いや、いませんけど嫁さん……。それどころか恋人もいない状態なんですが。


「ドゥエーリ族は、強ければ複数の夫、妻も許される。反対するなら力を示せばいい。あたしはヴィゴに嫁がいようと構わない!」


 うわぉ。ドゥエーリ族の婚姻事情はそうなっているのね……。


 それはともかく、こうグイグイこられるとね。まずは恋人から始めません? いきなり結婚とは壁が高過ぎやしませんか?


「ヴィゴ様」


 イラが見かねたのかやってきた。シィラは一瞬、眉を吊り上げた。


「なんだ、お前は?」

「ヴィゴ様をリーダーとするパーティー『リベルタ』に所属するイラと申します」

「これはご丁寧に。あたしはシィラ。ドゥエーリ族だ」

「立ち話もなんですから、どこか落ち着いてお話ししませんか? 日も少し傾いてきましたし」


 もう夕方だ。けっこうギルドにいたな。


「シィラは、いまどこに住んでいるの?」

「昨日は王都の宿だったのだが、今日の分はまだとっていない」


 シィラは腕を組んだ。でかいお胸さまを持ち上げる格好だが、本人は素のようだった。イラが手を叩いた。


「では、わたしたちのホームへ来ませんか? 部屋も空いていますし。そこでヴィゴ様のことをじっくりお話ししましょう」

「ヴィゴの家なのか?」


 頷く俺だが、……この子、連れて帰って大丈夫なのかな。まだ会ったばかりでよく知らないし、俺と結婚するとか言っているし。


「……うちには、ルカさんがいるじゃないですか」


 イラが小声で囁いた。


「ドゥエーリ族のことは、ドゥエーリ族に聞きましょう。もしかしたらルカさんと知り合いかもしれませんし」


 なるほど、同郷の人間を間に挟もうというわけだな。名案だ。



  ・  ・  ・



「ただいまー!」


 リベルタの家に戻る。俺とイラ、そしてシィラが玄関からリビングへと移動すれば。


「お帰りなさい。今日は遅かったですね――」


 ルカがキッチンからやってきて。


「シィラ!?」

「ルカ! なんでお前がここにいる!?」

「あ、あなたこそ!?」


 お互いに大きな声を発した。え、何々。ひょっとして会わせてはいけなかった関係?


「あー、すまない。どうやら顔見知りのようだから自己紹介はいらなさそうだな。……ふたりは、お友達?」

「違います」

「違う」


 秒で否定された。ルカは自身の亜麻色の髪を撫でた。


「シィラは私の妹です」

「ルカはあたしの姉だ」

「姉妹……? ええーっ!?」


 いや、背格好は似ているけど、肌の色も髪の色も違うし! 姉妹!? ぜんぜん印象違うじゃん! 


 あ……、これはあれか。複婚が認められているらしいドゥエーリ族だから、お父さんは同じだけどお母さんが違うパターンか?

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