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第79話、ヴィゴ VS シィラ


「決闘?」


 思いがけない単語に、俺は目を回す。近くに立つと威圧感ぱねぇわ、このシィラって女。


 背の高さはルカと同じくらいだから、見下ろされるのは慣れてるけどさあ。この戦いたくてウズウズしているって顔をしてやがる。


 長めの金髪。いかにも戦士っていう筋肉のついたしなやかな体。しかし胸でけぇ。


「どうした? あたしの挑戦を受けないのか?」

「何で決闘?」

「ドゥエーリ族の伝統だ。戦士の証明。強き者と戦う、それが一族の慣わしだ」


 ああその名前、聞き覚えがあるわ。戦闘民族として知られるドゥエーリ族。戦いと狩りに重きを置く戦士の一族だ。


 ちなみにルカの出身である。なるほどね、この高身長も納得。男女問わず長身の者が多いことで有名なのがドゥエーリ族だ。


「それで、俺がその決闘相手に相応しいと?」

「幾多の邪甲獣を仕留めたツワモノと聞いた。ぜひ、あたしと手合わせ願いたい」


 シィラは不敵な笑みを浮かべている。絶対的に自分の力に自信を持っているのだろう。同じドゥエーリ族のルカとは大違いだ。


「ちなみにその、決闘って、どのレベル? お互いの命を奪うようなのはごめんだぞ」


 命をかける理由がないからな。


「なんだ、腰が抜けたのか?」


 煽んなよ。


「殺し合いをする理由がないからな。模擬戦よろしく、訓練用の武器でって言うなら、付き合うけど」

「……ふん、いいだろう。ただし手加減はしてくれるな。本気での戦いを所望する」


 シィラは頷いた。よかった。煽りまくられたらどうしようかと思ったが、要は戦えればよかったらしい。


 つーか冒険者同士の殺し合いなんて、勘弁だぜ。ギルドからもストップかかるだろうし……かかるよな、その場合?


「ギルドの裏手に試験場を兼ねた訓練場がある。空いていたら、そこでどうだ?」

「異存はない。よろしく頼む」


 勝負するとなったら、案外素直になったな。


「おい、ヴィゴよぅ」


 クレイが小さく言った。


「お前、魔剣使いが魔剣なしで大丈夫なのか? このデカい姉ちゃん、体格からしてやべぇぞ」

「まあ、何とかするよ」


 俺も魔剣がない時だって戦えるように、鍛錬してきたつもりだからね。


「それで負けるなら、相手が強かったってだけだろ」


 ということで、周囲からの注目を浴びる中、受付カウンターで職員に事情を説明、裏を使わせてもらえるか確認した。


 結果は『どうぞ』と許可が出たので、俺とシィラ、そしてクレイらギャラリーがゾロゾロとついてきた。



  ・  ・  ・



「見せもんじゃねーぞ!」


 フロアにいた冒険者や手隙のギルドスタッフ、出入りの業者までが試験場に集まってきた。


 武術試験用の枠の中に、俺とシィラは対峙した。


 周りが俺を見てざわつく。シィラも眉をひそめた。


「おい、ヴィゴ。武器はどうした」

「いらない」


 準備運動とばかりに体を動かす。武器は持っていない。魔剣だったら、その重量をぶつけてだけど、模擬戦の武器ではその破壊力を活かせない。


 だったら、素手。持てるスキルを使えるオープンの状態にするのが一番いい。


「フン。お前がそれでいいなら構わないが……失望させてくれるなよ」


 シィラは槍を持った。長身に長物だと、相当、間合いが広く感じるな。踏み込むのも結構、度胸がいるだろう。


 ギルドスタッフが間に立った。


「では、審判役をさせていただきます。ルールを再度、確認します。相手を降参させれば勝ちです。気絶した場合は負け。相手を殺すのはダメなのでご注意を」


 俺、そしてシィラも頷く。


「魔法は使用不可。身体的特徴を活用した技・スキルは、相手を死に至らしめたり深手を負わせる場合は不可。そうでなければよしとします。……よろしいですね? それでは」


 はじめ!


 ダンっ、とシィラが地面を蹴り、一気に距離を詰めた。速い! 


 必殺の突きが、まばたきのあいだに迫る。手が俺の鳩尾の前によぎり、訓練用の槍を受け止めた!


「なにっ!?」


 止められると思わなかったのだろう。シィラは驚愕している。加速していたのを止められたわけで、彼女自身も壁に激突したような手応えを感じたはずだ。


 手のひらで受けてしまえば、こっちのもんだ! 左手でも槍を掴んで、ぶん回す!


「うわっ!?」


 槍ごとシィラの体が宙に浮いた。そのままぶん投げたら、枠外へ小石のように飛んでいった。


 ギャラリーたちがどよめく。


「マジかよ、あんな大女を投げ飛ばした!」

「いや、あの突きを止めるとか、人間にできるんのかよ!?」

「ヴィゴって、あんな力あったんだ……」

「そりゃおめえ、あのバカ重い魔剣を振り回す男だぞ!」


 俺は、シィラを見やる。結構離れたところに落ちたけど、怪我してないだろうか。俺は審判を見やる。


「場外って終わりだっけ?」

「そういえば、ルールになかったですね……」

「まだだっ!」


 あ、シィラが立ち上がった。槍を拾い、構えた。


「あたしはまだ、負けていない!」


 向かってくる。よしこい! 俺は格闘の構えで待つ。中々踏み込みは速いが、クルミや飛んでくる魔法に比べたら遅いんよ……!


 今度は突きではなく、振り回し。その渾身の一撃を、手のひらで当てて、弾く。持てるスキルで痛みも衝撃もない。両手を振るった結果、あらぬ方向に弾かれた結果、腹部に隙あり!


 弾いた右手ではなく、開いた左手を下から持ち上げるようにシィラの腹にぶつけ、プッシュ!


 その瞬間、シィラの体が『持ち』上がり吹っ飛んだ。


「……ヴィゴよぉ」


 クレイが自身の頭をかきながら言った。


「お前、剣なしのほうが強くね?」

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