「決闘?」
思いがけない単語に、俺は目を回す。近くに立つと威圧感ぱねぇわ、このシィラって女。
背の高さはルカと同じくらいだから、見下ろされるのは慣れてるけどさあ。この戦いたくてウズウズしているって顔をしてやがる。
長めの金髪。いかにも戦士っていう筋肉のついたしなやかな体。しかし胸でけぇ。
「どうした? あたしの挑戦を受けないのか?」
「何で決闘?」
「ドゥエーリ族の伝統だ。戦士の証明。強き者と戦う、それが一族の慣わしだ」
ああその名前、聞き覚えがあるわ。戦闘民族として知られるドゥエーリ族。戦いと狩りに重きを置く戦士の一族だ。
ちなみにルカの出身である。なるほどね、この高身長も納得。男女問わず長身の者が多いことで有名なのがドゥエーリ族だ。
「それで、俺がその決闘相手に相応しいと?」
「幾多の邪甲獣を仕留めたツワモノと聞いた。ぜひ、あたしと手合わせ願いたい」
シィラは不敵な笑みを浮かべている。絶対的に自分の力に自信を持っているのだろう。同じドゥエーリ族のルカとは大違いだ。
「ちなみにその、決闘って、どのレベル? お互いの命を奪うようなのはごめんだぞ」
命をかける理由がないからな。
「なんだ、腰が抜けたのか?」
煽んなよ。
「殺し合いをする理由がないからな。模擬戦よろしく、訓練用の武器でって言うなら、付き合うけど」
「……ふん、いいだろう。ただし手加減はしてくれるな。本気での戦いを所望する」
シィラは頷いた。よかった。煽りまくられたらどうしようかと思ったが、要は戦えればよかったらしい。
つーか冒険者同士の殺し合いなんて、勘弁だぜ。ギルドからもストップかかるだろうし……かかるよな、その場合?
「ギルドの裏手に試験場を兼ねた訓練場がある。空いていたら、そこでどうだ?」
「異存はない。よろしく頼む」
勝負するとなったら、案外素直になったな。
「おい、ヴィゴよぅ」
クレイが小さく言った。
「お前、魔剣使いが魔剣なしで大丈夫なのか? このデカい姉ちゃん、体格からしてやべぇぞ」
「まあ、何とかするよ」
俺も魔剣がない時だって戦えるように、鍛錬してきたつもりだからね。
「それで負けるなら、相手が強かったってだけだろ」
ということで、周囲からの注目を浴びる中、受付カウンターで職員に事情を説明、裏を使わせてもらえるか確認した。
結果は『どうぞ』と許可が出たので、俺とシィラ、そしてクレイらギャラリーがゾロゾロとついてきた。
・ ・ ・
「見せもんじゃねーぞ!」
フロアにいた冒険者や手隙のギルドスタッフ、出入りの業者までが試験場に集まってきた。
武術試験用の枠の中に、俺とシィラは対峙した。
周りが俺を見てざわつく。シィラも眉をひそめた。
「おい、ヴィゴ。武器はどうした」
「いらない」
準備運動とばかりに体を動かす。武器は持っていない。魔剣だったら、その重量をぶつけてだけど、模擬戦の武器ではその破壊力を活かせない。
だったら、素手。持てるスキルを使えるオープンの状態にするのが一番いい。
「フン。お前がそれでいいなら構わないが……失望させてくれるなよ」
シィラは槍を持った。長身に長物だと、相当、間合いが広く感じるな。踏み込むのも結構、度胸がいるだろう。
ギルドスタッフが間に立った。
「では、審判役をさせていただきます。ルールを再度、確認します。相手を降参させれば勝ちです。気絶した場合は負け。相手を殺すのはダメなのでご注意を」
俺、そしてシィラも頷く。
「魔法は使用不可。身体的特徴を活用した技・スキルは、相手を死に至らしめたり深手を負わせる場合は不可。そうでなければよしとします。……よろしいですね? それでは」
はじめ!
ダンっ、とシィラが地面を蹴り、一気に距離を詰めた。速い!
必殺の突きが、まばたきのあいだに迫る。手が俺の鳩尾の前によぎり、訓練用の槍を受け止めた!
「なにっ!?」
止められると思わなかったのだろう。シィラは驚愕している。加速していたのを止められたわけで、彼女自身も壁に激突したような手応えを感じたはずだ。
手のひらで受けてしまえば、こっちのもんだ! 左手でも槍を掴んで、ぶん回す!
「うわっ!?」
槍ごとシィラの体が宙に浮いた。そのままぶん投げたら、枠外へ小石のように飛んでいった。
ギャラリーたちがどよめく。
「マジかよ、あんな大女を投げ飛ばした!」
「いや、あの突きを止めるとか、人間にできるんのかよ!?」
「ヴィゴって、あんな力あったんだ……」
「そりゃおめえ、あのバカ重い魔剣を振り回す男だぞ!」
俺は、シィラを見やる。結構離れたところに落ちたけど、怪我してないだろうか。俺は審判を見やる。
「場外って終わりだっけ?」
「そういえば、ルールになかったですね……」
「まだだっ!」
あ、シィラが立ち上がった。槍を拾い、構えた。
「あたしはまだ、負けていない!」
向かってくる。よしこい! 俺は格闘の構えで待つ。中々踏み込みは速いが、クルミや飛んでくる魔法に比べたら遅いんよ……!
今度は突きではなく、振り回し。その渾身の一撃を、手のひらで当てて、弾く。持てるスキルで痛みも衝撃もない。両手を振るった結果、あらぬ方向に弾かれた結果、腹部に隙あり!
弾いた右手ではなく、開いた左手を下から持ち上げるようにシィラの腹にぶつけ、プッシュ!
その瞬間、シィラの体が『持ち』上がり吹っ飛んだ。
「……ヴィゴよぉ」
クレイが自身の頭をかきながら言った。
「お前、剣なしのほうが強くね?」