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第75話、GOM


 黒スライムの名前は、ゴムと決まった。


 命名したのは、ダイ様だった。何となく響きが気に入ったので採用した。

 というわけで、お前の名前はゴムだ。


『わーい』


 言葉を知らんやつだ。


 閑話休題。俺たちは、邪甲獣ダンジョンの変異種増加と活性化の原因と思われる巣の破壊と、魔人の討伐報告をした。


 ダイ様曰く、巣を叩いたから、新規で邪甲獣が発生することはないだろう、とのことだった。もうすでに邪甲獣化したやつはしらん。


 俺たちは巣を叩いたものの、完全調査をしたわけではないから、他にも巣があるかもと指摘しておいた。ロンキドさんも、調査隊の連中の報告を待ちつつ、確認すると答えた。


 ダンジョンの巣が俺たちの破壊したひとつだけなら、調査にさほど時間が掛からないだろうと言った。


『ないない。あそこに他にも巣があったなら、変異種どころではなく邪甲獣だらけになっておるわ』


 とは、ダイ様の発言。それを確かめるための調査だ。なければないでいいんだ、うん。


『また何かあったら知らせる』


 ロンキドさんは言った。


 そして回収品について。巣は完全破壊したのでそちらに関しては欠片もない。魔人の下半身は、撃破した証明にはなったが、ギルドとしては、素材になるかどうか微妙な反応となった。


 それについてダイ様がアドバイスした。


『あの巨体を支えている下半身だぞ。骨はさぞ頑丈だろうな』


 邪甲獣の装甲については、一般的にどう加工できるか模索している段階。


 技術がないから、加工して盾にしたのが宝物庫に収められていたのも、何となくわかるというものだ。俺の使っている装甲盾は、いわばオーパーツである。


 あとはアーマースパイダーの外皮と魔石。スケルトンウォリアーの武器や防具などだ。前者については問題ないが、後者は王都ギルドに所属する冒険者の遺品だろうから、複雑な気分。


 持ち主はお亡くなりになっていて、落とし物でもないので、所有権どうこうと文句を言われることはおそらくない。だから使える物は回収した俺たちで活用していいのだが、今回はギルドで処分をお願いした。


 査定に時間が掛かるもの以外の報酬を受け取り、その日は帰宅。


「ご苦労だったな、ヴィゴ。ゆっくり休め」


 ロンキドさんから労いの言葉を掛けてもらい、リベルタの家へ戻る。ついた時にはすっかり夜だった。


 のそのそ、のそのそ――


「土足文化でよかったのぅ、ゴムよ。土足ダメ文化圏だと、お主は家に入れなんだぞ」


 ダイ様がそうゴムに言っていた。めっちゃ自然に家に入ってきた黒スライムである。土足ダメ文化圏とはなんだ? 家に入る時、靴を脱げとでも言うのか?


 ルカが遅い晩ご飯の準備にかかれば、ディーがさっそく手伝いに入った。今日が実質冒険者初日だったニニヤは疲れたのだろう、ぐったりしていた。そんな彼女をアウラが連れ出す。


「風呂を入れるわよ。魔法トレーニング。その代わり一番に入らせてあげるわ」


 水魔法でお湯を作らせるのだろう。俺は、ダイ様とイラと居間でゴムに家にあるものについての教育をした。


 ついでに、人間社会のルールなども。



  ・  ・  ・



 翌日から、ゴムについて本格的な調査が行われた。……調査と言っても、何ができるのかなど、身体能力やスキルのようなものの確認だけど。


 まず、分離と合体能力。


 ゴムはその体を分離させることができる。魔剣に触れながら、黒スライムの声を聞いていたら、分離しても性格的なものはまったく変化がなかった。どっちかが喋れなくなるとか、さらに幼児退行するわけでもない。


『『わーい』』


 増えた分だけ、聞こえてくる数も増える。完全にコピーだ。


 その2、感覚はあるが、痛みと認識していない。


 初遭遇の時、魔法を食らっても魔剣の直撃を受けてもまったく効いていなかったが、痛かったのか確認すれば。


『イタイって……何?』


 前回、魔法をぶつけても無傷だったからとアウラとニニヤが再度、攻撃魔法を使って試してみた。


 見守るルカが、可愛そうと凄く心配していたが、当のゴムはやはり痛みを感じることなく、ダメージも受けていなかった。


 ただ感覚はあるようで、『ぽかぽかー』とか『ひんやりー』とか属性魔法に対して反応していた。光属性の魔法を使った時などは。


『ぴかぴかー!』


 ……どこに目があるんだ?


「ゴムって焼けるのかしら?」


 アウラがそんなことを言い出した。ドリアードの魔女が用意したのは鉄板。その上でゴムの体の一部を焼いてみた。


「だめー! ゴムちゃんの体ー!」


 ルカが涙目になっていた。なお焼いているのはプチサイズの分裂体なので、アウラの隣にはゴムの本体がいて、一緒に観察していた。なにこのシュール過ぎる光景。


 結果、いつまでたっても焼けず、プチサイズのゴムはまったり鉄板の上に鎮座していた。


 その3、形態変化。


 スライムの中には、姿を変えて擬態するものがいる。昨日などは、灰色スライムが岩に擬態していた。ダンジョンではよく水溜まりなどに擬態して待ち伏せしている。ゴムの場合はどうなのか?


『のびるー』


 リベルタの家の三階屋根まで、体を伸ばして棒のような細さになり、そのまま家根の上に上がった。高低差を無視?


『うにょーん』


 今度や屋根から地面まで伸びて移動。物理耐性も通常スライム以上だから、高所から落下してもダメージはないだろう。


 形の変化については球形やボックス型などはすぐできた。だが細かな変身能力はないようで、たとえば庭にあった木ゴーレムなどはうまく変身できなかった。


「いや、これはこれで可愛いと思います!」


 丸っこい寸胴ゴーレムもどきとなったゴムを、ルカは抱きしめる。すっかりこのスライムのことを気に入ってるなぁ彼女は。


 その4、食事。


 基本、何でも食べた。食べ方は、体に取り込む。溶かして消化、以上。ルカがあげた干し肉、庭にあった直径20センチほどの岩、アウラが生成した木の枝など。味覚についてはいまいちわからないが、ゴムの反応をみると感じてなさそうだった。


「どれが好き?」

『ぜんぶー』


 これである。なお、取り込むのは自分の体より小さいものを好むようだ。消化はあっという間らしいが、自分より大きいものについては少し時間が掛かっていた。


 なお、邪甲獣の装甲は取り込んでも溶かせないようだった。


「ねえ、ディー。ちょっといい?」


 アウラが白狼族の少女を呼んだ。


「あなたの右手で触ったら、ゴムの体はどうなるのかしら?」

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