俺とチャルラタンが話していると別の冒険者パーティーが現れた。
天井が崩れたここに上から見下ろす彼らは、ギルドが攻略とは別に用意した連絡グループのパーティーだった。
要するに、俺たち調査組とは別に、ギルドに報告したり、ダンジョンの出入り口を観察するのが役目だ。
俺が、ダンジョンの原因となっていた邪甲獣の巣と魔人の討伐を報告すると――
「了解。じゃあ、あんたらは引き上げていいぞ。突入していた他パーティーが来たら、終了の旨はこっちで伝えておく」
「よろしく」
ということで、俺たちリベルタとチャルラタンのパーティー『ジェミオス』は、邪甲獣ダンジョンを後にした。
「……つーか、そのスライムなに? テイムしたの?」
「わからん。何故か懐かれた」
無害な黒スライムの件は、当然ながらチャルラタンたちの注意を引いた。
「で、名前とかつけたん?」
「まだ」
ダイ様が黒スライムの名前と聞いたが、当のスライム自身、名前と言われて『わからない』と言っていた。
「名前をつけないとですね!」
ルカは、もう飼う気満々だった。連れていってもいいかも、という時点でそうなるだろうな、とは思っていたけど。
そこからは仲間たちでスライムの名前を考えることで、宝石名で攻めるアウラに、黒系の呼び方を考えるルカ。ああだこうだと、和気あいあいな空気で、俺たちは王都カルムに戻った。
当然ながら、王都への入り口で、黒スライムを連れた俺らは止められるのだが、俺たちがリベルタだというのは王都を出る時にチェック済みで身元ははっきりしている。
何より、黒スライムの上にイラが大人しく座っているのを見て、安全だろうと判断してもらえた。
「人間って制服に弱いですよね」
微笑みシスターの異名を持っていたイラが言う。そりゃシスター様が魔物に平然と乗っていれば、それが危険なんて思わないわな。
「ところで、ルカさん。代わりましょうか?」
「いえ、今は結構です」
周囲の目を気にしているルカである。町中にロバくらいの大きさのスライムがいれば、当然注目されないほうがおかしい。
「イラ、町中ではしばらくそのまま乗ってろ」
「はい、ヴィゴ様」
僧侶が乗っていると見れば、文句をいう奴も現れないだろう。公然と教会を批判する人間などいないし、いたら周囲も止めるからな。
まあ、ルカがここで乗りたがらなかったのは、おそらく乗って自分の高身長をアピールしてしまうのを避けたのだろうな。
ギルドまでの道を歩いていると、好奇心旺盛な子供が寄ってきて、スライムに触りたいとか乗りたいと言ってきた。
親がいる子は止められたが、子供たちだけできた子たちは遠慮がなかった。一応、手を出した子供たちに怪我させたら困るので、スライムに大丈夫か確認はしておいた。
『いいよー』
本人はちっとも気にしていなかった。ぽよぽよのスライムの表面に触って、子供たちははしゃいでいた。
「無知ってのは怖いよなぁ」
チャルラタンは言う。
「スライムは人間を食べちゃうんだぞー!」
「よしなさいな。いい大人が」
「いや、こういう教育って大事だぜ? この黒公は大人しいけど、普通のスライムに手を出したら危ないからな」
確かに。子供たちにとっては、初めて見たスライムだろうしな。
ということで、冒険者ギルドに到着。黒スライムを連れているが、ギルドフロアに入れると、さすがに文句を言われるかもしれない。仲間たちには外で待機して、俺とチャルラタンでカウンターに行き、報告する。
受付嬢は笑顔で言った。
「お早い解決でしたね。ギルマスもダンジョン近くで、調査キャンプを作るために準備していたところでしたが、その必要なくなったかもしれません」
何でも邪甲獣ダンジョン調査に複数パーティーを使う上、その調査が長引くことに備えて拠点を用意することになっていたらしい。
ダンジョン活性化――いわゆるダンジョンスタンピードに警戒して補給拠点にしようともしていたらしく、結構大きな準備をしていたという。……その必要性は小さくなったが、少なくともスタンピードが起こるほどの規模になることはもうない。
ダンジョンコアとも言うべき巣はもうないのだから。……本当にそうかな。
ふと思った。あの巣、1個だけだったのか? もしかして、まだあったりとか? 俺たちが通ったトルタル側にはなかったけど……。
「そこは、まだ潜っている連中の報告待ちじゃね?」
チャルラタンは言った。
「オレらの調査ルートにも、その巣ってのはなかった。まあ、あのギルマスだ。その辺、抜かりないさ」
また邪甲獣とか出れば退治するだけである。……それもそうだな。
「……何か入り口が騒がしいような」
首を傾げる受付嬢。そうそれ――俺は切り出した。
「ギルマス呼んでもらえる? ちょっと相談があるんだけど」
・ ・ ・
「変異種スライムか」
冒険者ギルドの解体場に隣接する倉庫。邪甲獣ダンジョンにあった巣の説明をし、倒した魔人の下半身と邪甲獣装甲を披露した後、ロンキドさんに黒スライムを見てもらっている。
『やあ』と黒スライムが手のようなものを小さく伸ばした。ロンキドさんは淡々と眼鏡のズレを直す。
「ブラックスライムとも違うようだが……。見たことがない種類か? おい、どうだ?」
ロンキドさんは鑑定スキル持ちのギルドスタッフに問う。
「わかりません。スライム種なのは間違いないのですが」
「まさに変異種か」
ロンキドさんは、俺とダイ様を見た。
「意思疎通はできるんだな?」
「こちらの言っていることは理解しているようです。何を言っているかについてはダイ様が通訳できます」
「危険がないというなら、お前たちで保有してもいいだろう。冒険者の中には、魔獣を使役するテイマーもいるからな。スライムだからと認めないわけにもいくまい」
ギルマスのお墨付き許可を頂けた。
「テイマーには毎度言っているが、問題は起こしてくれるな。庇い立てできないからな」
ところで――ロンキドさんは俺たちを見た。
「こいつの名前は、もう決まったのか?」