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第73話、懐かれた


 邪甲獣ダンジョンの根源である『巣』を完全破壊した。


 とりあえずやったことは、魔人の下半身と、比較的形を留めている邪甲獣装甲を撃破証明のために回収した。ダイ様の7100トンの収納に、戦利品と、辺りに散らばっている天井と思われた大岩などもまとめて放り込んだ。


『こんなものを入れて、何の役に立つ? 我の収納はゴミ入れではないぞ』


 ダイ様からは小言を食らったが、邪甲獣ナハルを倒した時、奴の動きを封じるために巨大岩を口に放り込んだこともあったから、まったく使えないってことはないはずなんだ。


 いつか、役に立つよ……きっと。


『それは無駄に物を貯め込むヤツのセリフだな』


 ダイ様には呆れられたが、それでも収納してくれるのはさすが魔剣様。話がわかるー。


 帰りは、どういう経緯かは知らないが魔人が天井をぶち破ってくれたので、ダンジョン内を潜らずとも、そのまま外へ出られる。


「それで……これなんだけど」


 俺は装甲盾にくっつく大型黒スライムを見る。コイツ、結局ここまでついてきたんだよな。今も装甲盾にくっついてジタバタしている。ルカなんかそれを横から、可愛いものを見る目になっているし……。


「何したいんだ、コイツは?」

「相変わらず、敵意とかないのよね、ディー?」


 アウラが確認すると、白狼族の治癒術士はコクリと頷いた。


「よくわからないんですけど、その盾を気に入っているのは何となくわかります」

「かといって、これを置いておくわけにもいかんしな」

「つ、連れ帰りますか?」


 ルカがキラキラした目を向けてくる。気に入ったのは彼女も同じらしい。


「連れて行って大丈夫かってこともあるのよねぇ」


 アウラが同意を求めるようにイラとニニヤに向く。


「そうですねぇ……、何かのはずみで、周りを攻撃したら大問題ですし」


 イラはその豊かな胸の前で腕を組んだ。


「せめて、意思疎通ができれば話は別なのですが……」

「スライムと意思疎通ですか……? 無理じゃないですか」


 ニニヤは眉をひそめた。


「魔族じゃあるまいし」

「……確かに、魔族だったら、スライムとも交信できる術はあるかもね。ワタシはドリアードになったおかげで、植物をある程度操作できるようになったし」


 アウラは視線をダイ様を見た。


「ねえ、ダイ様。アナタ、魔王の欠片を取り込んだわよね? 何か、魔族や魔物と交信できる技とかないの?」

「……ふむ、やってみるか」


 トコトコとダイ様は、黒スライムに近づいた。


「そこのお主、我の言葉がわかるか?」


 ……何か普通に呼び掛けているっぽいんだけど。大丈夫なのかこれ。


「ふむふむ……なるほど」


 何がなるほどなんだ? 


「こやつ、知能はわらべよ。我々に敵対するつもりはないようだ」

「話せたのか?」

「うむ、こちらの言葉をある程度理解しておる。ただ、思考がかなり幼いようだ」


 そう言うとダイ様は、黒スライムに触れ、その上に乗った。


「進めー!」


 ノロノロと黒スライムがダイ様の指さした方向へ動き出した。上に乗っても取り込んだりしないんだな。


「ヴィゴ、お主、我に触れてみよ。……違う違う。剣の本体のほうだ」


 言われた通りにしてみる。いったい何だって言うんだ……。


『――あのタテ好きー。じゃこうじゅーのそうこー』


 ん? 何か声が聞こえた。


「そうかそうか、あの装甲盾は、邪甲獣の装甲でできておるからのぅ」

『じゃこうじゅー』

「ええっ!?」


 なにこれ、このとぼけた舌っ足らずな声は、この黒スライムか!?


「ど、どうしたのよ、ヴィゴ。突然」


 アウラやイラもビックリしている。どうやらあの声が聞こえたのは俺だけみたいだ。いやたぶん、ダイ様を通じて聞こえるようになったということだ。


 すまん、と周りに謝ってから、俺はスライムの横に移動する。


『じゃこうじゅー』

「ほい」


 盾でそっと当てると『わーい!』と黒スライムがぴとぴとし始めた。


「なるほど、コイツは無害そうだな」

「多少、教育は必要だろうがな」


 ダイ様は頷いた。ひょいと、スライムから飛び降りるとルカを手招きする。


「ルカよ、こやつに乗ってみるか?」

「いいんですか!?」


 胸の前で手を組みながら喜ぶルカ。ダイ様は、スライムに語りかける。


「ルカという女がお主の上に乗りたいそうだ。よいな?」

『いいよー』

「いいって」


 俺が言うと、「ありがとうございます!」とルカが黒スライムの上に乗った。


 ダイ様は、この黒スライムと交信できるようだし、魔剣に触れている間は黒スライムの声も聞こえるから、会話は可能だ。


 何か気に入られているみたいだし、連れていくか、コイツも。


 その時、ディーが口を開いた。


「ヴィゴさん、誰か来ます。たぶん、冒険者かと」


 獣人の聴覚とか嗅覚が、こちらにやってきた人間の気配を感じ取ったみたいだ。たぶん、このダンジョンの調査にきた他のパーティーだろう。


 果たしてどのルートで考えていると、警戒しながら槍戦士が現れた。


「おいおいおい、ヴィゴさんじゃねーの」

「チャルラタン!」


 以前、邪甲獣ダンジョンで大蛇型邪甲獣と戦った冒険者の生き残りである槍使いが、仲間たちとやってきた。


「おいおい、何てこった! 空が見えるぜ。ここ天井があっただろう?」

「あ、ひょっとして、俺たちの反対側にいたのって、あんたたちか?」

「でけぇ巨人がいてよ。着いたのに追い返されちまったんだよ。……まさか、やっちまったのかヴィゴ?」

「まあね。ダイ様に死体は回収してもらったけど……見るか?」

「回収したんなら、後でギルドで出すんだろ。そんとき見るよ。つか、スゲぇな、あんたは」


 チャルラタンはポンと俺の肩を叩いた。


「どうやって倒した? なんか馬鹿でけぇ爆発みてぇなもんが2回くらい聞こえたけど」

「あー、あれは俺だ。魔剣の必殺技みたいなものさ」

「マジかよ、スゲェ! おーい、お前ら。これがオレたちのヴィゴさんだぞ。行儀よくしろよ」


 自分のパーティーメンバーにそう紹介するチャルラタン。やめろよ、恥ずいだろうが。……心の中ではまんざらでもなかったけど。

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