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第72話、46シー


 邪甲獣ダンジョンの原因である巣と、それを守るように突っ立っている高さ20メートルくらいの巨人型邪甲獣こと、魔人。


 そいつが膝をつき、手にした岩塊を壁に叩きつけた。俺たちから離れているけど、何をやってるんだ、あいつ?


「たぶん、向こう側に冒険者がいたのかも」


 ディーが白い狼耳に手をあてながら言った。


「人の声が向こうでしました。ボクたちとは別パーティーがここにきて、それを魔人が迎え撃ったのかも」

「なるほど。じゃあ、その隙に一気にやってしまおう! 俺があのデカブツに仕掛けるから、皆はここで待機。援護はいいが、前には出るな」

「え、それは無謀じゃないですか、ヴィゴさん!?」


 ニニヤが声を上げた。アウラが笑みを浮かべる。


「まあ、見てなさい、ニニヤ。うちのリーダー、とっても凄いんだから」


 そういえば、ニニヤは俺と魔剣の組み合わせの力を見たことなかったな。


「よし、行くぜ。ダイ様」

「ちょーと待て。新技を使うに不足ないだろ。一発撃たせろ」

「新技?」


 そういえば、魔王の欠片を取り込んで力が少し戻ったって言っていたっけ。なるほど、どんな技か知らんがやってみよう。


「どうやるんだ?」

「まずは30秒ほど待て」


 ダイ様の人間体が魔剣に戻る。俺は魔剣を持ったまま待つ。


「何故30秒なんだ?」

『一撃を放つための溜めというやつだ。黙って待っておれ』

「あ、魔人が!」


 ルカが顔を引きつらせた。向こうを見ていた魔人が俺たちに気づいたのだ。立ち上がってこっち向いた!


「まだか、ダイ様!」

『20秒だ。お主、前へ出ろ。威力は凄いぞ。他の者はトンネルに引っ込んで隠れておけ。耳も塞いでおけよ!』

「くそっ」


 俺は前に出る。いったいどんな新技だ? 魔神が二歩前に出たところで、俺をその攻撃圏に捉える。振り上げられた腕――たぶんあれが落ちてくる!


『お主、いまの状態で我で受け止めようとするな。暴発するぞ!』

「はあ!?」


 ダッシュブーツ、加速! 直後、降ってきた魔人の拳が地面の岩を砕いた。――後ろに回りこんだ!


「あと何秒!」

『12秒!』

「遅い!」


 ふつうに魔剣でぶん殴ったほうが早くね? 魔人が振り向く。腕を振り回した影響で岩の塊が飛び、投石よろしく飛んでくる。


 装甲盾の裏に隠れる。岩の直撃もその超重量でびくともしない。すっぽり隠れられる大型盾でよかった。でなければやられていたかもしれん。


『よいか。盾から剣だけ出して、魔人めがけて魔法――エアカッターを飛ばす要領で一回振れ。それだけでいい』

「ようし!」

『まだだ。3……2……1……よし、やれ!』


 俺は盾の陰から右腕を出し、魔剣を魔人の頭から胴を切りつけるように思い切り振った。


 ブン、と素振りの音がした。その瞬間、凄まじい轟音が俺から音を奪い、静寂が訪れた。


 そして目の前の魔人の上半身がバラバラに吹き飛んだ。


『ええー!?』


 俺は叫んだ。と思う。声が聞こえなかったのだ。しかし魔人はまさに四散という有様で、膝をついた下半身のみが虚しく残っているだけだった。


 威力すげぇ……。だが音が聞こえないぞ? どうなってるんだ?



  ・  ・  ・



 数分くらい後、ルカたちがやってきて、ディーが俺の治療をしてくれた。


 鼓膜がやられていたらしい。


 ようやく音が戻ると、ダイ様が申し訳なさそうに頭をかいていた。


「いやあ、すまん。我の力を発動する時、お主にも保護をかけたはずなのだが、ちょっと足りんかったようだ」


 なお、その保護がなければ、俺は魔剣の力を放出した際の衝撃で死んでいたらしい。目も耳も吹っ飛び、血だらけで死ぬとか……。おっそろしい。


「いや、こっちもビビったわよ!」


 アウラがわざとらしく目を回した。


「ダイ様の言う通りに、トンネル内に隠れていなかったら、こっちもやられていたわ」


 それだけ凄まじい衝撃だったらしい。そりゃあ、あの頑丈な邪甲獣が粉々になる威力だもんなぁ。


「凄かったです、ヴィゴさん!」


 ニニヤが声を弾ませた。


「あの魔人を一振りで倒してしまうなんて。噂通りで驚きました」

「素直な感想をありがとう」


 立ち上がる俺に、ルカが近づいた。はい、いつものハグね。お胸さん、こんにちは。


「前から思っていたけど、このハグは何? 儀式?」

「激闘をくぐり抜け、生還を祝う伝統ってやつです」


 はにかむルカ。戦闘民族であるドゥエーリ族の伝統らしい。照れるなら無理しなくていいんだぞ。……俺は嬉しいけど。


「ほれ、お主。魔人は倒したが、まだ巣を取り除いておらん。あれを潰さんとまた邪甲獣が出るぞ」


 ダイ様に指摘された。そうだよな、まだ終わってねえや。


 ということで、例の銀色の壁のところにいけば、何やら淡く金色に輝く球が半分埋まっていた。黒い靄みたいなのが周りに浮かんで気味が悪い。


「……これが、巣?」

「うむ。迂闊に触るなよ。これも魔王の呪いの一部だ。我の46シーで吹き飛ばすのがよかろう」

「46シーって何?」

「さっき魔人を吹き飛ばした技だ」


 あの俺の鼓膜を吹っ飛ばした技か! 思わず震えがきた。


「心配するな。久しぶり過ぎて加減がわからなかっただけだ。今度はお主に傷ひとつつけぬ」

「そう願いたいね」


 話は決まったので、仲間たちには離れて遮蔽の陰に隠れてもらい、俺は30秒のチャージののち、新技46シーで不気味な球体と銀化した地形を完全に破壊した。

 ……それにしても、変な名前だ。

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