邪甲獣ダンジョン探索中。
トルタル側最深部に多数いたアーマースパイダー群は、一掃された。
数は圧倒的に多かったが、初手に広範囲にダメージを与えるニニヤの範囲魔法と、イラの擲弾筒で減らし、それを抜けてきた敵をアウラが牽制し、残敵を俺とルカが倒す。ディーは周辺警戒と怪我人が出た時の待機要員……完璧じゃないか。
俺たちリベルタの集団戦のひとつの形になるな。人数が増えたのだから、連携の形も作っていくのも面白い。いつまでこのメンバーでやっていくかはわからないけど。
「アーマースパイダーって強そうだけど、あくまで物理耐性のみなんだな」
「案外、魔法はあっさり通りますもんね」
ルカが同意した。周りは背中や足の鎧のような甲殻を残し、肉体が燃えた装甲蜘蛛の死骸だらけだ。
「ダイ様、任せる」
「やれやれ我はゴミ漁りか」
「ゴミ言うなって。魔物素材はお金になるんだぞ」
初心者冒険者にとっては、小遣い稼ぎとは言えないくらい大事な資金源だ。
「ほーい。……先ほどから我らについてきておる黒スライムが、大蜘蛛の死骸を食っとるぞ」
本当だ。黒スライムが装甲蜘蛛を体に取り込んでいる。
「一匹くらいくれてやれよ」
これもダンジョン内の生態系ってやつかねぇ。アウラは皮肉っぽい顔になる。
「スライムってダンジョンの掃除屋なんて言われてるのは、ああいうところかしらね」
「あとはこっちに襲ってこなければな」
人間をスルーするなら、こっちも攻撃しないんだけど。あいつらは待ち伏せたり、急に襲ってきたりと、割と好戦的なんだよな。……まあ、あの黒い奴みたいに例外はいるらしいけど。
回収終わったら、出発。いよいよトルタル側最深部の奥、ナハル側ダンジョンへ通じるトンネルに入る。
「思ったより広いな」
「これならラヴィーナも振り回せそうです!」
ルカが大剣を手に、笑みを浮かべた。この大きさは、超巨大大蛇型邪甲獣『ナハル』が通れるくらい幅なんだろうな。
道なりに進む。ワームが飛び出したり、灰色スライムが現れる。この灰色、周りに溶け込んでいて、パッと見、岩にしか見えない! 擬態して待ち伏せするタイプだ。
変異種ってのは面倒だな。しかもこのスライム、火属性に耐性があり、最初は手間取ったが、冷気に弱いことがわかり、そこからは楽なものだった。
さらに奥を目指す。すると、黒いオーラをまとったスケルトンウォリアーが複数現れた。装備もまちまち、薄汚れた骸骨戦士たち。
あまり考えたくないけど、このできて日が浅いダンジョンにスケルトンって、ここ最近このダンジョンで死んだ冒険者のなれの果てじゃないか。
「すまんな!」
俺は魔剣、ルカが大剣ラヴィーナで、スケルトンウォリアーを砕く。死体となった以上、助けようがないし、こちらはやられるわけにもいかないんだ。
だが、あっさり砕けたようで、スケルトンウォリアーはすぐに元の形に再生した。腐ってもアンデッド。ただ攻撃しただけでは息の根を止められない。
アウラが振り返った。
「イラ、除霊魔法は使える?」
「いえ、わたしは除霊魔法は使えません」
教会のクレリックだから除霊魔法が使えるかと思いきや、全員が使えるものでもないらしい。
「あ、師匠! わたし、除霊魔法使えます!」
ニニヤが挙手した。さすが母親は教会の司祭といったところか。
除霊魔法がスケルトンウォリアーに――と、アンデッドはヒョイと後ろへと飛び退いて躱した。
「アンタは寝てなさい!」
アウラが丸太を飛ばし、骸骨戦士を砕いた。
「ニニヤ、コイツを永遠に眠らせてやりなさい!」
「はいっ!」
改めて除霊魔法をかける。スケルトンウォリアーから、負の魔力が抜けて、再生しなくなった。除霊成功!
敵がいなくなって、さらに進もうと声を掛けようと思った時、急に足元が揺れた。
「地震……?」
「遠くで、崩れる音が……!」
ディーが知らせた。このダンジョンで崩落か?
少しして揺れも収まった。俺たちは先を急いだ。断続的に震動が起きる。これは……何かが暴れている? しかも大きい?
・ ・ ・
「何だこれ……?」
トンネルの先は開けた場所だった。天井がなく、夕方の空が見えた。下をみれば天井が崩れたのだろう岩がゴロゴロしていた。
円形に近い空間。一部の地面と壁が銀色になっていて異常性を見せるが、それよりもまず目についたのは、漆黒の巨人。
「……でけぇ」
身長20メートルくらいか。丸太のように太い手足。邪甲獣のつけている装甲を手首足首、胴体につけている。毛むくじゃらの顔。ギラギラと黄色い目が光っている。
邪甲獣の巨人型……?
ジャイアントという巨人族でも数メートルと言われているが、こいつはデカ過ぎるだろう。
「魔人……」
アウラが呟いた。マジンだって……?
「魔王の下僕。魔王城の番人――」
「マジかよ」
なんで、そんな奴がここにいるんだよ!
「うーむ、あれは人間を取り込んだやもしれんのぅ」
ダイ様が、漆黒の巨人を見上げて言った。
「あれも邪甲獣の一種だな。迂闊に巣に触ったんだろ」
「巣?」
「ほれ、あの銀色の壁んとこ」
ダイ様は指さした。
「魔王の欠片の一部が変化して、邪甲獣を生み出す『巣』になる。トルタルはおそらく大昔からあそこにおっただろうが、その後出てきたヤツは、あの巣の影響で変化したものだろうな」
「ちょっと待ってダイ様」
アウラが目を見開いた。
「ひょっとして、この辺りがダンジョンになったのって、その巣のせい?」
「そう考えるのが妥当だろうな。何と言ったか、だんじょんこあーみたいなもんかな」
邪甲獣ダンジョン発生の原因は、その巣があったから。
「なるほど、じゃあ俺たちはあのデカブツを倒して、巣を破壊すればいいわけだな!」
やることはわかった。あとは方法だな。
まあ、魔剣様の6万4000トンの超重量をぶつけてやるんですけどね!