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第71話、ダンジョンの巣


 邪甲獣ダンジョン探索中。


 トルタル側最深部に多数いたアーマースパイダー群は、一掃された。


 数は圧倒的に多かったが、初手に広範囲にダメージを与えるニニヤの範囲魔法と、イラの擲弾筒で減らし、それを抜けてきた敵をアウラが牽制し、残敵を俺とルカが倒す。ディーは周辺警戒と怪我人が出た時の待機要員……完璧じゃないか。


 俺たちリベルタの集団戦のひとつの形になるな。人数が増えたのだから、連携の形も作っていくのも面白い。いつまでこのメンバーでやっていくかはわからないけど。


「アーマースパイダーって強そうだけど、あくまで物理耐性のみなんだな」

「案外、魔法はあっさり通りますもんね」


 ルカが同意した。周りは背中や足の鎧のような甲殻を残し、肉体が燃えた装甲蜘蛛の死骸だらけだ。


「ダイ様、任せる」

「やれやれ我はゴミ漁りか」

「ゴミ言うなって。魔物素材はお金になるんだぞ」


 初心者冒険者にとっては、小遣い稼ぎとは言えないくらい大事な資金源だ。


「ほーい。……先ほどから我らについてきておる黒スライムが、大蜘蛛の死骸を食っとるぞ」


 本当だ。黒スライムが装甲蜘蛛を体に取り込んでいる。


「一匹くらいくれてやれよ」


 これもダンジョン内の生態系ってやつかねぇ。アウラは皮肉っぽい顔になる。


「スライムってダンジョンの掃除屋なんて言われてるのは、ああいうところかしらね」

「あとはこっちに襲ってこなければな」


 人間をスルーするなら、こっちも攻撃しないんだけど。あいつらは待ち伏せたり、急に襲ってきたりと、割と好戦的なんだよな。……まあ、あの黒い奴みたいに例外はいるらしいけど。


 回収終わったら、出発。いよいよトルタル側最深部の奥、ナハル側ダンジョンへ通じるトンネルに入る。


「思ったより広いな」

「これならラヴィーナも振り回せそうです!」


 ルカが大剣を手に、笑みを浮かべた。この大きさは、超巨大大蛇型邪甲獣『ナハル』が通れるくらい幅なんだろうな。


 道なりに進む。ワームが飛び出したり、灰色スライムが現れる。この灰色、周りに溶け込んでいて、パッと見、岩にしか見えない! 擬態して待ち伏せするタイプだ。


 変異種ってのは面倒だな。しかもこのスライム、火属性に耐性があり、最初は手間取ったが、冷気に弱いことがわかり、そこからは楽なものだった。


 さらに奥を目指す。すると、黒いオーラをまとったスケルトンウォリアーが複数現れた。装備もまちまち、薄汚れた骸骨戦士たち。


 あまり考えたくないけど、このできて日が浅いダンジョンにスケルトンって、ここ最近このダンジョンで死んだ冒険者のなれの果てじゃないか。


「すまんな!」


 俺は魔剣、ルカが大剣ラヴィーナで、スケルトンウォリアーを砕く。死体となった以上、助けようがないし、こちらはやられるわけにもいかないんだ。


 だが、あっさり砕けたようで、スケルトンウォリアーはすぐに元の形に再生した。腐ってもアンデッド。ただ攻撃しただけでは息の根を止められない。


 アウラが振り返った。


「イラ、除霊魔法は使える?」

「いえ、わたしは除霊魔法は使えません」


 教会のクレリックだから除霊魔法が使えるかと思いきや、全員が使えるものでもないらしい。


「あ、師匠! わたし、除霊魔法使えます!」


 ニニヤが挙手した。さすが母親は教会の司祭といったところか。


 除霊魔法がスケルトンウォリアーに――と、アンデッドはヒョイと後ろへと飛び退いて躱した。


「アンタは寝てなさい!」


 アウラが丸太を飛ばし、骸骨戦士を砕いた。


「ニニヤ、コイツを永遠に眠らせてやりなさい!」

「はいっ!」


 改めて除霊魔法をかける。スケルトンウォリアーから、負の魔力が抜けて、再生しなくなった。除霊成功!


 敵がいなくなって、さらに進もうと声を掛けようと思った時、急に足元が揺れた。


「地震……?」

「遠くで、崩れる音が……!」


 ディーが知らせた。このダンジョンで崩落か?


 少しして揺れも収まった。俺たちは先を急いだ。断続的に震動が起きる。これは……何かが暴れている? しかも大きい?



  ・  ・  ・



「何だこれ……?」


 トンネルの先は開けた場所だった。天井がなく、夕方の空が見えた。下をみれば天井が崩れたのだろう岩がゴロゴロしていた。


 円形に近い空間。一部の地面と壁が銀色になっていて異常性を見せるが、それよりもまず目についたのは、漆黒の巨人。


「……でけぇ」


 身長20メートルくらいか。丸太のように太い手足。邪甲獣のつけている装甲を手首足首、胴体につけている。毛むくじゃらの顔。ギラギラと黄色い目が光っている。


 邪甲獣の巨人型……?


 ジャイアントという巨人族でも数メートルと言われているが、こいつはデカ過ぎるだろう。


「魔人……」


 アウラが呟いた。マジンだって……?


「魔王の下僕。魔王城の番人――」

「マジかよ」


 なんで、そんな奴がここにいるんだよ!


「うーむ、あれは人間を取り込んだやもしれんのぅ」


 ダイ様が、漆黒の巨人を見上げて言った。


「あれも邪甲獣の一種だな。迂闊に巣に触ったんだろ」

「巣?」

「ほれ、あの銀色の壁んとこ」


 ダイ様は指さした。


「魔王の欠片の一部が変化して、邪甲獣を生み出す『巣』になる。トルタルはおそらく大昔からあそこにおっただろうが、その後出てきたヤツは、あの巣の影響で変化したものだろうな」

「ちょっと待ってダイ様」


 アウラが目を見開いた。


「ひょっとして、この辺りがダンジョンになったのって、その巣のせい?」

「そう考えるのが妥当だろうな。何と言ったか、だんじょんこあーみたいなもんかな」


 邪甲獣ダンジョン発生の原因は、その巣があったから。


「なるほど、じゃあ俺たちはあのデカブツを倒して、巣を破壊すればいいわけだな!」


 やることはわかった。あとは方法だな。


 まあ、魔剣様の6万4000トンの超重量をぶつけてやるんですけどね!

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