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第70話、黒いスライム


 変異種スライムは、火属性を無効化し、俺の魔剣の攻撃にも耐えた。


 いや、耐えたというのは違う。実際に6万4000トンの重量に耐えられず、切られた部分はバターを切るようにあっさり両断できた。


 ふつうスライムは物理耐性が高すぎて、こうも簡単に切れないから、魔剣の威力は大したものなんだけど、このスライム、分断したところで、そのまま二つになって動くというのが曲者だった。


 アウラとニニヤが、複数の属性で試したけど、どれも大した効き目なし。


「何がCランクでも対応できる変異種よ!」


 伝説のSランク魔術師様がキレた。


「こんなのCランク冒険者どころか上級冒険者でも対処できないじゃない!」

「何か弱点はあるはずなんだがな……」


 じりじりと後退。打つ手なしではな。……いや本当、この黒スライム対処した奴いんの? しかしこれ以上下がってはな。


「この野郎め!」


 俺は超装甲盾で突進を仕掛ける。ダイ様も匙を投げる超装甲盾で押してやる。見た目はこれだが、超圧縮された盾は見た目以上に超重量だ!


 案の定、黒スライムを押し込む。このまま押し返す――と、地面に盾が引っかかり、ゴリッと地面が削れた。重量があり過ぎて、引っかかりすら粉砕してしまった。だがブレーキが掛かったのも事実。


 盾の向こうで、スライムが弾かれる。と、そこにいた黒スライムたちが集まりだした。


「おいおい、今度はひとつに合体か!?」

「なら、私がラヴィーナで!」


 ルカが魔法剣を構えて前へ出る。あの氷の大技で一気に凍らせようというのか。スライムを凍らせられるなら、悪くない!


「ヴィゴさん、ルカさん! 待ってください」


 ディーが声を張り上げた。


「そのスライム、様子が変です」

「変……?」

「敵意を感じないっていうか……」


 それ、どういうこと? 敵意がないってことは、別にこっちを襲うつもりがないってことか?


「わかるのか。そういうの」

「はい。全てではないですが、大体なら」


 ディーは頷いた。擲弾筒を構えていたイラが、アウラに聞いた。


「本当なんですか……?」

「さあ。白狼族のことはよく知らないけど、亜人や獣人は人間より、そういう感情を敏感に感じ取るって話は聞いたことがあるわ」

「あの、どうしますか!?」


 ニニヤが杖をスライムに向けたまま、指示を求めている。俺は魔剣を鞘に収めた。


「敵意がないってことは、襲ってこないってことでいいのかな?」

「さあ。スライムにそもそも知性とかあるか疑わしいけど」


 アウラは腰に手を当て、様子を窺う。


 大きくなった黒いスライムは2メートルほどの大スライムになっていた。俺に近づくと装甲盾にへばりついて、ブルブルと震えている。


「……なあ、ダイ様。これスライムに溶かされるなんてことはないよな?」

「それはあるまいよ」


 魔剣を収めているので、少女姿で現れるダイ様。


「そもそも、それで溶けるなら邪甲獣に苦労などすまいて」

「何やっているんだろ、これ」

「コヤツ、盾を押そうとしておるのではないか?」


 だが、この装甲盾は見た目以上にクソ重だから、ビクともしない、と?


「はわっ」


 ルカが変な声を出した。どうした?


「可愛い……!」

「は?」

「押せない盾を一生懸命押そうとしているなんて、可愛くないですか?」


 何か言い出したぞ、この人。ルカが剣を下ろし、スライムに手を伸ばした。


「ルカ、素手でスライムを触るのは危ない――」

「何ともないみたいです」


 ルカがスライムの表面を撫でた。アウラは半睨みになる。


「気をつけなさいよ。単に鈍くて、気づいていないだけかも」

「いや、さすがにそれはないだろ」


 スライムといったら、生き物に反応して襲ってくるんだから。触れられるまで気づかないなんてのは考えにくい。


「わからないわよ。変異種だもの」


 まあ、そうだけどさ。


「何でもいいよ。こうまで近づいて、攻撃してこないんなら」


 有効打を与えられない時点で、無理に倒す必要ないだろう。俺たちはダンジョンの奥を調査するのが目的で来ているんだ。


 というわけで、この黒スライム君はスルーして先に進んだ。後衛のイラとニニヤは振り返る。


「……ついてくるわね」

「ですね」


 若干遅いのか、距離が開きつつあるようだが、黒スライムが俺たち一行の後についてきていた。


「何なんだろうな?」

「懐かれたんじゃないですか?」


 ルカは言った。アウラは難しい顔をする。


「もしかしたら、他のモンスターと連携してワタシたちの罠にかけるつもりかもしれない」


 さっきからネガティブな感想が多い気がするのは気のせいか?


「ディー、どう思う?」

「やっぱり敵意は感じないです。でも、ルカさんの言う通り、懐いているような雰囲気はあります」


 何事もなく終わるなら、それでいいか。


 さて、ダンジョンだが、ここにきて変異種モンスターがいくつか襲ってきた。

 鎧のような硬い外装の大蜘蛛、黒く元の倍はありそうな大きさのワームなど。こちらは明確に敵意を以て攻撃してきた。


 俺は魔剣を、ルカは魔法剣で対応。ニニヤの攻撃魔法でモンスターにタメージを与え、アウラが生き残りを仕留めた。


 こっちはちゃんと通用する。ギルドで聞いた通り、Cランク冒険者でも問題ないレベルだ。


「それにしても、このアーマースパイダーの装甲が粉々って、魔剣ってエグいわね」


 アウラが、砕けた大蜘蛛の死骸を見下ろす。一撃で真っ二つだが、本来、剣などを弾く装甲が激しくヒビ割れているのだから、その威力の高さがわかる。


 やがて、トルタル側ダンジョンの最深部へとたどり着く。

 ワサワサとアーマースパイダーが集まってくる。ここは大蜘蛛のテリトリーか。


「やっつけよう!」

「擲弾、撃ちます!」


 イラが擲弾筒を発射。ニニヤも範囲魔法を用いて、複数敵を吹き飛ばした。おお、割と敵の数が減った。


「ルカ、行くぞ!」

「はい! ヴィゴさん!」


 俺たち前衛も突っ込んだ。装甲蜘蛛も向かってくるが、魔剣の敵ではなかった。

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