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第68話、拡張ダンジョン


 冒険者ギルド。ロンキドさんの執務室で、俺とアウラは説明を受けた。


 大型邪甲獣が現れた後で出来たダンジョン2カ所が繋がり、モンスターが多数発生しているらしい。


「ダンジョンが繋がった?」


 聞き違いかと思った。


「邪甲獣ダンジョンって、トルタルが出てきた大穴と、あの丘陵地帯の大蛇――」

「『ナハル』、そう付けたが、そいつが穴だらけにした場所もダンジョン化した」


 ロンキドさんは、手書きの地図を広げた。


「両方とも王都から南に位置している。トルタルが手前、ナハルがその南南西方向だな。で、その間も地下が繋がっている。ナハルが行き来したせいでトンネルが複数あって、それがトルタルのダンジョンと繋がったというところだ」

「よくわかりましたね」

「ナハル側の空洞を探索した冒険者が、トルタル側の最深部と思われていた場所に出た」

「なるほど」


 アウラが地図を見下ろした。


「それで、厄介事というのは?」

「いつものように探索専門の冒険者が地図作りを開始したが、モンスターが多くて、難儀している」

「邪甲獣でも出た?」

「いいえ。ただ、そこに出てくるモンスターが変異種なんですよ」


 変異種! モンスターの中でも独自進化した希少種だ。元になったモンスターより強く、中には特殊能力を身につけていたりする。


「変ね。変異種だなんて」

「南の平原は、もともとそんなに魔獣などが出没するような場所でもないんだけど……」


 俺も疑問に思う。ロンキドさんの眼鏡が光った。


「つまり、この邪甲獣ダンジョンに、モンスターを変異させる何かがあるのだろう」

「まるでダンジョンコアね」


 アウラが口をへの字に曲げる。


「ダンジョンコアって?」

「ダンジョンと呼ばれる場所に存在する、ダンジョンを生み出す源よ。まるで意思を持っているようにモンスターを操り、自分のテリトリーを形成するのよ」

「どうして?」

「さあ、わからないわ。そこにどんな意味があるのか、ワタシたちも知らない」

「邪甲獣が出てきた場所がダンジョン化するのも謎だが、もしかすればダンジョンコアかそれに類するものが存在している可能性は高い」


 ロンキドさんは、俺たちを見た。


「そこでお前たちに依頼だ。この邪甲獣ダンジョンを捜索し、ダンジョン化を促す何かを探し出して、これを破壊する」


 これ以上、変異種が増えるのは危険な上、また邪甲獣が現れるかもしれない。王都に近いこともあり、活性化すれば脅威にさらされる。


「今回は上級冒険者パーティーが複数参加する。双方のダンジョンにある複数の入り口からパーティーごとに探索する」

「上級冒険者」


 アウラがニヤリとした。


「変異種はそんなに強いの?」

「いや、現状Cランク冒険者辺りで対応可能なレベルです」


 そう言いながら、ロンキドさんの目は笑っていない。


「ただ場所が場所ですから。邪甲獣が出てくる可能性も充分にあります。ここ最近の王都冒険者の犠牲者の数は例年より多い」


 これ以上、バカスカやられて、人数不足に陥るなんて可能性もある……。王都ギルドマスターはそのように感じているようだった。


「それとヴィゴ。話は変わるが、お前、冒険者ランクAだ」

「え……Aランク?」


 つい最近、Bランクに上がったばかりだけど、もう!?


「国王陛下のお命を救ったんだ。当然だ」

「あれー、陛下の命を救ったのに、A程度で済ませてしまうのー?」


 アウラが煽るように言った。


「もどきとはいえダークリッチを倒した勇者にAはないんじゃない?」

「陛下のお体に呪血石を埋め込まれた一件を公表できたならば、Sランクだったでしょうね」


 ロンキドさんは事務的な態度を崩さなかった。


「あれが部外秘になったから、ヴィゴの功績が差し引かれたところもある」


 化け物化させる呪いの石。俺の持てるスキルで体外に抜き取れたが、呪いというものに過敏に反応するのが世間だ。陛下は呪われていないか、あるいはまた呪いが発現するのではないか、などと疑いの目が集まってしまうのだという。


 Sランクは惜しいが、まあ、この短期間でDからAに上がったと考えるなら、大出世と言える。


「これはこれで、ありがたく受け取っておきます」

「うむ。それでリベルタのメンバーの冒険者ランクだが、ルカがBランク、アウラはCランクにアップ」

「えー、C?」

「最近登録したばかりで、試験もなしにCランクですよ。EとDをスルーですよ。おめでとうございます」

「はいはい、どうも」


 反射的に口から出てしまったのだろう。アウラは深くは追及しなかった。


「あと、ディーもCランクだ」


 治癒術士でありながら、白狼の魂こと魔王の欠片を敵に奪われないように奮戦した。その代償に右腕が呪われてしまったが、その働きは評価に値すると思う。


「イラは?」

「彼女は元々Cランクだったからな。今回は役目を果たしたが、目覚ましい活躍だったわけではない」


 となると、あの場にいなかった新人のニニヤも現状維持か。最近登録したばかりで、一番下のFランクだが、きちんと実力を発揮できれば昇級も早いだろう。


 一応リーダーということになっている俺がA。ルカがB。アウラ、ディー、イラがCランク。充分、中堅冒険者パーティーと言ってもいいだろう。


 あれ? 参加は上級冒険者パーティーでは? では俺たちリベルタは、上級冒険者パーティー扱いか?



  ・  ・  ・



 俺はアウラと共に、リベルタメンバーに今回のクエスト内容を説明した。場所は邪甲獣ダンジョン。モンスターを変異させている原因を突き止める――


「相手は変異種モンスターらしい。そこらのモンスターの上位版だ。また邪甲獣との遭遇も考えられる。危険な任務だ。よって、俺は強制しない。今回抜けたい者は、家で留守番してしてくれ。……ルカ」

「行きます」

「イラ?」

「お供します。もちろん」


 うん、まあこのふたりは間違いないと思ってた。問題は、ディーとニニヤなんだよな……。

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