宝物庫にあるお宝を褒美に。
俺は邪甲獣の装甲でできた重量盾を選んだ。
厚みだけで230ミリもあり、その頑丈さはハンパではない。クソ重すぎて、誰も持てず盾ではなく壁も同然だが、俺の持てるスキルならば、普通の小型盾を振り回すように扱えた。
それを見たルカのコメントは。
「もう、その盾だけで敵を殺せそうですね……」
分厚い本が凶器になる、とは聞いたことがあるが、そりゃ壁をぶん回すことができれば、余裕で人を潰せそうだ。
ロンキドさんも顎に手を当て、俺の盾を見やる。
「シールドバッシュだけで殺せるな」
ぶつけるだけで、ハンマーでぶん殴るような打撃を与えられる。体当たりしようものなら、
武器としてだけでなく、本来の防御性能だが、盾で当てる範囲の攻撃はほぼ完璧に防げるらしい。
「魔法はおろか、投石器から飛んでくる巨岩、角付き魔獣の突進すら、その盾は砕けまい」
ダイ様は太鼓判を押した。
「厚さもさることながら、素材も邪甲獣の装甲。電気も熱も冷気も通さないから、この盾の裏に隠れられるなら、ほぼ攻撃は届かぬだろうな」
つまり無敵じゃん? いやまあ、世の中完璧なものはないし、そもそも盾は一方向しか受けられないから、それ以外の方向からの攻撃には注意しなくてはいけない。
「それで、ロンキドさん、剣は見つかりましたか?」
「聖剣はないが、ドラゴンの牙で作られた魔法剣を選んだ」
うわ、マジか。いいなぁそれ。緑色の竜を模した飾りとか、いかにも名剣っぽい。人が選んだものが羨ましくなる現象。
「ルカは?」
「私も盾を選びました」
「……盾」
何か、かなり小さい。ルカの体が大きいからか、バックラータイプなのに、彼女が持つと手甲みたいなサイズに見える。それで体、守れるの?
「魔法の盾だそうです。この盾ももちろん防御できるんですけど、展開すると魔法の壁が形成されて、広い範囲をカバーするらしいです」
つまり、必要な時に展開する盾らしい。なにそれ、かっけぇギミック。ルカは両手剣持ちだから、通常の盾とは相性がよくない。必要な時に展開できる魔法盾は荷物になりにくいし、前衛として守りに徹する時には重宝するだろう。
「いいものを選んだな」
「はい!」
ルカは嬉しそうに微笑んだ。可愛い……。
アウラは、古代の魔導書を選び、イラは聖属性のナイフを選んだ。
「ディーは……?」
「え? ボ、ボクはいいです」
何故か遠慮するディー。
「ボクは、国王陛下をお救いしていませんから」
右腕の侵食と戦い、それどころではなかった。いやいや――
「敵に魔王の欠片を渡さなかったんだ。その功績は大きいぞ」
「左様。ディー君も遠慮するでない」
シンセロ大臣が、やたら温厚そうな笑みを浮かべて、白狼族の少女に言った。ネズミのような、と言われる大臣の孫に向けるような顔に、ヴァレさんとモニヤさんが少し引いていた。……やめたげてよ。可哀想でしょ、そういうの。
「じゃ、じゃあ、これで……」
ディーが選んだのは腕を守る手甲の一種。ミスリル金属製で、加護の魔法がふんだんに盛り込まれているらしい。話を聞くと、割と地味めだが、国宝だけあって効果は高いそうだ。
リベルタの面々が選んだものを見ると、なんとも控えめというか、王国の宝物庫からもらったというのは、見た目お宝臭があまりしなかった。
俺が超絶無骨な盾を選んだせいもあるのか、盾に魔導書にナイフに手甲? 効果は凄いらしいし、アウラの魔導書なんか超絶希少なんだけど、地味だよなぁ。
ロンキドさんみたく、いかにも強そうな武器って感じがない。
「まあ、よいではないか。あまりにピカピカしたものを持ち歩くのもどうかと思うぞ」
ダイ様がもっともらしく言った。それもそうだ。
なお、ロンキドさんは一家で来たが、宝物庫のお宝で選択権があるのは、ロンキドさんとヴァレさんとモニヤさんのみ。その場にいなかったマリーさんやウィル、ニニヤは見学だけである。……もっとも、モニヤさんは娘のニニヤにプレゼントするつもりで彼女に選ばせれば、ヴァレさんも息子のウィルとあれこれ決めていた。
ということで、たっぷりの報酬をいただき、宝物庫の品も選ばせてもらって、ホクホク顔で俺たちは帰宅した。
・ ・ ・
報酬をパーティー内で分配。そこでひとつの問題が発生。……いや問題ってほどでもないんだけど、イラが俺個人に対する借金を取り分で全額返済した。
思いのほか早かったけど、よかったね。これで奴隷じゃないよ!
「いえ、わたしは、このままヴィゴ様の奴隷で」
……はい?
「わたしは、人に所有されると安心するので、このまま奴隷としておそばに置いてください」
「別に、リベルタにいたいって言うなら、奴隷じゃなくてもいいんだぜ?」
借金返済までパーティーに所属。それが終わったら、さようなら――じゃないんだし。追い出したりもしないぜ?
「まあ、好きにさせてあげればいいんじゃない?」
アウラは言った。
「借金もないんだし、本人がアナタに仕えたいって言うんだから、別に困ることはなくない?」
「……そうかなあ」
首輪付きのシスターを連れ回すのは、どうなんだろう?
イラはニコニコしている。この子はこれでいいのかな……。
「せめて首輪は――」
「いえ、首輪はこのままで」
シスターは慈愛すら感じる笑みを向ける。
「首輪の形が気になるなら新しい首輪を。わたしは、あなたに縛られたいんです」
「は?」
周囲が固まった。それはいわゆる変態的な……。
なお、イラは周囲に誤解を与えたことに気づき、肉体的な拘束のことではないと弁明した。……物理で縛られたいわけじゃなかったわけね。ふう、ビックリした。