王都カルム襲撃事件から1週間が経過した。
その間に起きたことと言えば、まずは襲撃者たちのアジトが発見され、騎士団によって制圧された。
もっとも、中はもぬけの空であり、所属を臭わすものは残っていなかった。では何故、アジトかとわかったかと言えば、アジト内に王都の地図と、壁に『魔王様、万歳』の文字が残っていたからだそうだ。
現場検証に呼ばれたロンキドさんから聞いた話では、地図には複数の円が記されており、そこは初手の爆破が起きた場所とピタリと合致したそうだ。どこに仕掛けをするか、敵は調べ上げた上で実行したらしい。
壁の『魔王様、万歳』だが――
「これは、ダミーだな。あからさま過ぎる」
魔王を崇拝する者たちの仕業に見せかけたもの。あわよくば魔族の犯行に見せれたらという、敢えて残されたものと判断したらしい。
守備隊は王都内の捜索を続けるが、おそらく敵は王都から脱出しただろうというのが、王城、そしてセイム騎士団の結論だった。
次、俺たちが、ダークリッチから国王陛下を救ったとして表彰された。邪甲獣トルタルの時はなかったが、今回ばかりは盛大な表彰式などをやり、勲章と褒美をもらった。
なお、俺たちだけでなく、王都防衛に尽力した冒険者や守備隊で目覚ましい活躍した者も同時に勲章などを授けられた。
王都襲撃という災厄で消沈した民の気分を盛り上げ、勝利をアピールするという意味合いも含まれていたらしい。
ちなみに、俺たちのパーティーにようやく名前がついた。その名も『リベルタ(自由)』である。
なあなあで来ていたけど、そろそろ名前をつけろとギルドや王城からも言われ、皆で話し合った結果そうなった。
「名前ねぇ……。そんなもの、アナタたちで決めなさいな。……え? ああ、任せるわ。アナタたちで『自由』に決めなさい」
「じゃあ、それ採用。パーティー名は『自由』で」
「……は?」
言い出しっぺは、アウラということになるのかな。
閑話休題。
表の勲章授与の後、俺はロンキドさん同伴でシンセロ大臣とお話タイム。
「すまんな。国王陛下はまだ体力が戻られておらんのでな。治癒魔法で傷は治せても、ままならないものよ」
「お早いご快復をお祈りします」
「伝えておこう。陛下だけでなく、私から礼を言わせてもらうよ。ありがとう」
シンセロ大臣は、俺たちを呼び出した理由を話し始めた。
先日、ダイ様とアウラが話していた通り、魔王の欠片を巡っての今後の展望について。
聖剣の一族には伝令を出し、魔王に関わる災厄に備える方向で、俺たちと意見の一致をみた。
「今後は各国の魔王の欠片にも注視していくことになるだろう。もしもの時は、君たちを頼ることもあろう。よろしくお願いする」
大臣に真摯に頭を下げられては断るわけにはいかない。……まあ、魔王の復活は世界の危機ともなるだろうから、他人事では済まない。
「……で、ここからは君たちの褒美の話だ」
シンセロ大臣はニコリとした。
「褒賞金は当然として、君たちには城の宝物庫の解放許可が出た。冒険者であるから、収められている魔法の武具や魔道具など、個数制限はあるが与えようと陛下はおっしゃっている」
「宝物庫……!」
さすがにロンキドさんも驚いていた。マジかー。俺もビックリだ。王国のお宝ってどんなものがあるんだろう? やべっ、ワクワクしてきた。もらっていいってマジで?
・ ・ ・
ということで、俺たち『リベルタ』と、ロンキドさん一家が、王城の宝物庫に招待された。
分厚い魔法金属で出来た門をくぐると、室内は黄金に輝いていた。さすがに金銀財宝が山になっていることはなかったが、壁一面に、遺物や魔法の武具、魔道具などが並べられ、宝箱の中には大量の金貨が詰まっていた。
「へぇ……ここがウルラート王国の宝」
アウラが目を輝かせる。ルカもイラも圧倒されているようで、ディーなどは、ここに自分もいていいのかな、という顔をしていた。
ロンキドさん一家も、ご夫人方はさっそく宝物庫内を見て回るが、ウィルとニニヤは呆然としていた。
「ロンキドさんはどうします?」
俺が聞けば、Sランク冒険者である眼鏡のギルマスは、武器のある棚へと視線をやった。
「愛用していた剣が壊れてしまったのでね。観賞用でなく、使えるものがあればいいんだが。……お前はどうする、ヴィゴ?」
「俺も武器にしようかな」
先日、ボロとはいえショートソードを失くしたので、武器は魔剣だけなんだよな。予備武器に魔法剣とかいいかもしれない。ルカが持っている大剣も、魔法武器でその力を解放すると、小型邪甲獣もまとめて撃破していたからな。
俺は宝物庫を見て回る。煌めく武具や魔道具に混じって、古い絵画や彫刻など、美術品なども置いてあった。
「興味があるかね、ヴィゴ殿」
シンセロ大臣が声を掛けてきた。いや、そこまで興味はないけど。
「こういうのもあるんですね」
「ああ。古代の出土した遺産や、芸術品……。これらは貴族や商人からの献上品も多い。自分たちでは管理できなくなって、という場合もあるが……」
「なるほど」
相槌を打ち、武具へと移動する。アウラとヴァレさん、モニヤさんが、古い魔術書を見つけて、わいわいやっている。古代の魔法でもあったかな……?
「……うん、壁、じゃないか」
俺の足が止まる。
四角い、長方形の分厚い板? 宝物庫に置くには似合わない、無骨な金属製の板が立っている。仕切り……にしては高さがないというか。1メートル30センチくらいか。
「おー、これは盾だな」
ダイ様がひょっとこり顔を出した。わ、いつの間に!
「これが盾? ……言われてみればタワーシールド、か?」
重装歩兵の持つ大型盾のようにも見えるが、飾り気はないし、厚みが凄く、壁のようだ。
「ダイ様はこれが何か知っているのか?」
「盾と言っただろうが、聞いておったのか、お主」
ダイ様は唇を尖らせた、
「邪甲獣の装甲があるだろう? あれを大昔の魔術師が圧縮し、錬成した超装甲盾だ! かの魔王の攻撃も、我の攻撃すら弾く超絶防御力だぞ!」
「おおっ……!」
「ただ、超ー重くて誰にも持てないがな!」
重くて誰にも持てないって? 俺はヒョイと、その分厚い板のような盾を持った。
「……そうだった。お主は持てるんだったな」
「いい盾だ。気に入った」
魔王の攻撃さえ弾く超防御、そして俺しか持てない超重量。これを貰おう。