目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第63話、魔王への対抗策といえば――


 起きたら昼過ぎだった。


 ベッドから出て、1階に降りると、キッチンにルカがいた。


「あ、おはようございます、ヴィゴさん」

「もうお昼だろ」


 俺は苦笑する。窓の外、その日の差し込み方は、昼飯時を過ぎている。


「ルカは寝れた?」

「はい。でもお腹が空いてしまって」

「ルカはよく食べるもんな」

「酷いです、ヴィゴさん。私、そんな食いしん坊じゃありません!」


 えぇ、食べる量多いの自覚してないのー? まあ、確かにルカは長身だが、スタイルいいから、大食らいな印象は持たれにくい。……これがよく食べるんだけどね。


「ヴィゴさんも食べます?」

「頼むわ。俺も朝食ってないから」


 食卓には、アウラとダイ様がいて話し込んでいる。アウラが深刻そうな顔をしている。


「何の話?」

「魔王の力についての話よ」


 アウラが答えた。


「ほら、昨日、ダイ様が、黒きモノを取り込んだでしょう? 大丈夫なのかなって思って」

「何か問題が……?」


 そういえば、力が戻ったとか言っていたっけ。


「あの程度の欠片のひとつくらいは問題ないよ。だがアウラは、我が魔剣だから心配しておるのだ」

「だって、ダイ様って千年くらい前に封印されたんでしょ?」

「大地を砕く魔剣、だっけ? 一国の軍勢を蹴散らしたとか」


 千年ほど前の勇者が、その危険な魔剣を封印したという話は聞いたことがある。


「ああそうだよ。我の力はこの大陸を砕く! 圧倒的なパワー!」

「……」

「そういう過去があるから、気になったのよ」


 アウラは言った。ダイ様は笑う。


「まあ、あの頃の我は、魔王に匹敵する力があったからの。色々やり過ぎて封印されたのだ」

「魔王に匹敵?」


 そりゃ凄ぇ。……と言っても、魔王がどれほど凄いのか、実際のところ見たことがないからなぁ。


「2、3個だな」

「なに?」

「我が取り込める魔王の欠片の数だ。2個か3個までなら、我のパワーアップ程度で済むが、それ以上取り込んだ場合、意識が闇に囚われて、我にも制御できなくなるだろう」


 ダイ様はしみじみ語った。


「また封印されるのは真っ平だ。昨日は他に手がないから喰ってやったが、あまりああ言うのを我に喰わせないようにな」

「案外、素直なのね。魔剣でしょ、アナタ?」

「千年前に散々暴れたからの。今度は平和主義で行こうと思っておる」

「あー、わかる。前世と違うことしたいって気持ちは、わかるわ」


 アウラが同意した。


 元Sランクの冒険者にして魔術師。ドリアードに転生し、魔術師以外の技能を伸ばしている。

 俺は頷いた。


「昨日みたいなことは、そうそうできないことだな。そうなると、また黒きモノと戦うことになった場合、厄介だな」


 聖剣でしか倒せない、だっけか。


「魔法も武器も効かないっていうんでしょ」


 アウラは眉をひそめる。


「黒きモノなんて滅多に戦うことはない……って断言できるなら楽なんだけど」

「最近の動きを考えるとな……」


 魔王の下僕である邪甲獣の出現。魔王の欠片を狙う者たちの存在。事が、ここウルラート王国の王都周辺だけで済むなら、マシだけど……。


「魔王の欠片って、いくつあるんだ?」

「いくつあるの?」


 アウラがダイ様に聞いた。


「さあ、我は知らぬ。アウラは知らぬのか?」

「正確な数は知らない。十幾つあって、世界各地に分散しているくらいね、知っているのは」

「何で分散してるんだ?」

「リスク回避よ。ひとつの国で封印したとして、その国が魔王を復活させるんだー、なんてことになったら、一気に世界の危機でしょ?」


 だが分散させて、多くの国が関わることで、一国が愚かな考えに取り憑かれたとしても、それでお終い、という事態は避けられる。


「とはいえ、分散させたから必ずしも安全というわけではないがな」


 ダイ様は肩をすくめる。


「あの黒い連中が、この国以外でも暗躍していたとしたら……?」

「また、今回のようなことが起こるかもしれないってことか?」

「黒い連中が全滅してくれれば、そう怯えることもないだろうが――」


 ダイ様は口をへの字に曲げた。


「もしものために対策は立てておいたほうがよいやもしれぬ」

「たぶん、王国は対策を立てると思うわ」


 アウラが断言した。


「実際に襲われたわけだからね。おそらく、王国内で聖剣とそれを保管している一族に招集なり通達なりが行くと思うわ」

「聖剣の一族なんてあるのか」


 初めて聞いたわ。でも、言われてみれば、魔剣もそうだけど聖剣も適性があるって話だから、案外先祖からその適性を受け継いでいるのかもしれない。


「ウルラート王国にも、その聖剣の一族がいるのか?」

「いるわよ。前世で、とある大型魔獣退治の時に、一緒に戦ったもの。……あー、でも、さすがに代替わりしているか。なにぶん昔の話だし」

「そうなんだ。でも、この国にも聖剣があるなら、ひとまず安心だな!」

「果たしてそうかな?」


 ダイ様が腕を組んでニヤリとした。なに、その悪い人みたいな顔。


「魔王の力を手に入れようとする連中にとって、聖剣が天敵なのは百も承知であろう。だとすれば、事前に手を打って聖剣の一族を……」

「おいおい、怖いこと言うなよ」


 しかし……。


「「あり得る」」


 俺とアウラの言葉が重なった。魔王の欠片を手に入れるために白狼族の村を襲撃……なんてあったんだよな。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?