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第61話、奮戦した人々。守備隊と冒険者


 王都カルムは謎の爆破と共に、魔獣による奇襲を受けた。


 私、クレオ・バンデッシュは王都守備隊の一員として、これら魔獣の対処を行った。


 ブラッディウルフ、ゴブリン、オーガなどの魔獣、蛮族系亜人が、王都内に集団で入り込むなど、あり得ない事態だった。


 王都は城壁に囲まれ、外部からの侵入はまず不可能。城門を突破されない限りは、敵が入ってくることはない。


 にもかかわらず、敵は現れた。


 逃げまどう住民たち。このような状況など、城攻めの末期、陥落も寸前ではないか!


 だが実際は、城門は突破されてはおらず、その点については安堵した。厄介な事態ではあるが、王都にいる魔獣さえ鎮圧すれば、とりあえず解決すると思ったからだ。


 とはいえ、王都の各所が炎上している事実は、個々の兵たちにプレッシャーを与えていた


 王都の冒険者たちも防戦に加わり、死傷者を出しつつも魔獣の鎮圧は完了した。王城のセイム騎士団も増援に出てくれたから、数で敵を圧倒できたのだ。


 しかし、事件はそれで終わらなかった。


 騎士団が王都防衛に出た隙をついて、魔獣をバラまいたと思われる謎の武装集団が王城を襲撃したのだ。


 少数だった王城守備隊は圧倒され、国王陛下のお命も狙われたという。守備隊一生の不覚!


 だが、敵の襲撃に関して報告にきた冒険者ギルドの長ロンキド殿と、かの邪甲獣トルタル討伐の英雄ヴィゴが、敵集団を撃退し、敵の召喚したダークリッチをも討伐した。


 ダークリッチと言えば、伝説の不死の王。千の軍勢でも倒せないと言われる災厄級の魔物だ。それを倒してしまうとは、さすが伝説のSランク冒険者のロンキド殿と英雄ヴィゴ殿だ。


 私も後で王の間の破壊の跡を目の当たりにしたが、おふたりがいなければ、王城は燃え落ち、陛下の身も危なかったに違いない! 


 しかもヴィゴ殿は、ダークリッチの呪いを受けた白狼族の少女を助け、自分の仲間に加えたという。呪いを受けた者まで引き受けるとは、何と懐の深い方なのだろう! ……英雄とは、彼のような人を言うのだろう。


 しかし、憎むべきは、今回の騒動を引き起こした謎の武装集団である。王城に潜入した者どもは、ほとんど討ち取られたとはいえ、王都での爆破や騒ぎを見るに、敵の拠点や残党が残っているに違いない。


 いったい何者なのか? 敵の死体から異国――西のスヴェニーツ帝国辺りの者たちのようだが、はっきりと組織などを断定するものは見つかっていない。


 魔獣を使用したことから、魔族が関係しているのでは、という説もあるそうだ。


 セイム騎士団を中心に、我ら守備隊にも、敵の捜索が命じられた。王都に災いを引き込んだ者どもを見つけ出し、報いを受けさせねばならない!



  ・  ・  ・



「ヴィゴ殿、本当にありがとう。貴殿は陛下の命の恩人だ」


 シンセロ大臣は、別れ際に深々と頭を下げられた。


 俺なんてケチな冒険者に、大臣ともあろう方が腰も低くお礼を言われるとは、何ともむず痒いものだ。


「陛下が回復され次第、今回の褒賞も用意させてもらう。貴殿らはウルラート王国を救ったのだ」


 という感じで、大臣らに感謝されたが、まあ、王都であんなことがあれば何かしようとするのはそこに住む民のひとりとして当然だよな。


 なお、今回の件で、一部に箝口令が敷かれることになった。


 国王はダークリッチに襲われた。だが呪血の石を埋め込まれたという事実はない、という風に。呪いの石に触れたというのは、よからぬ噂を呼ぶからだ。少なくとも、呪いという言葉を人は想像以上に恐れている。


 その点、ディーを引き取ると言った俺の周りでも、あまりいい感情は向けられないだろうと思う。だけどさ、俺たちまで見放したら、ディーは『呪い』のせいで、周囲から爪弾きにされてしまう。一族も全滅して、何も残っていないんだ。あいつは何も悪くないんだよ。むしろ皆のために命を張って頑張ったんだ。


 俺は英雄なんて柄じゃないけど、英雄って言うなら、ディーの功績だって英雄だぞ。


 城を出たら、ちょうど朝日が昇っていた。眩しいくらいの日差しに目を細める。ほぼ徹夜じゃないか。


 俺たちは家に帰る。マリーさんとウィルが、アウラの残した木のゴーレムたちといるはずなので、無事を確認したい。


「冒険者ギルドにいるはずのニニヤを迎えに行かないとな」


 そう言ったのは、お父さんであるロンキドさん。


 王都の町並みは、ところどころ破壊の跡が見られ、守備隊が魔獣の遺体処理をしていた。家族を探している人や、家の後片づけをしている人、休憩しているのか脱力している冒険者などの姿を見かけた。


 俺の家の周りは、魔獣も来なかったようで周りの民家も特に被害はなさそうだった。家に着けば、マリーさんとウィルが迎えてくれた。


「こちらは大丈夫だったよ。……おや、ニニヤは?」

「ギルドだ。今から迎えに行ってくる」


 ロンキドさんは第一夫人であるマリーさんとハグを交わしたのち、冒険者ギルドへ。王都の防衛に参加した冒険者たちを労い、その後の確認や処理などなど……ギルド長は大変だ。


「大丈夫なんですか?」

「まあ、それが仕事だからね。お前たちはゆっくり休め」


 組織の長は大変だ。今回の襲撃で冒険者にも死傷者が出ているだろう。やることは多い。


 見送ったら欠伸が出た。……眠い。疲れた。


「寝るか」

「そうですね」


 ルカもイラもお疲れモード。アウラとダイ様は、相変わらずピンピンしている。……というか、ダイ様のローブ、ちょっと豪華になってる? 魔王の欠片を取り込んで、パワーアップしたのかな?


「どうだった?」

「勘弁してよ、マリー」


 一方、奥様方もお疲れである。ヴァレさんとモニヤさんが苦笑しつつ、マリーさんの追及を躱し、ウィルは寝ぼけ眼をこすっていた。


 家にいたふたりも一睡もしていないのだろう。とりあえず、面倒は後にして、いまは休もうぜ。


「ディー、お疲れな」

「あ、はい。ヴィゴさん」


 放っておくと疎外感に苛まれていそうなディーの背中を叩く。……ああ、やべぇ、また欠伸が。ディーが小さく口元に笑みを浮かべた。


「お疲れさまです、ヴィゴさん」

「うん……。寝るわ、限界だ」


 時間は朝だけど、もう寝る。誰が何と言おうと寝る!

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