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第56話、冒険者たちの義務


 王城を目指している間も、そこかしろで悲鳴や魔獣の咆哮が聞こえた。途中、ルカたちと出会った。


「何で!?」


 俺たちもつい足を止めてしまう。


 ルカが弓で、ブラッディウルフを射貫くと、ヴァレさんがフレイムランスの魔法で、ゴブリンどもを焼き払った。


「一般人が襲われているのよ! 黙ってられますかっての!」


 ヴァレさんが不敵な笑みで答えた。さすが元宮廷魔術師。魔獣を前にしてもちっとも怯まない。


 イラにモニヤさん、それとディーが怪我をした王都住民に応急の治癒魔法を掛けていた。ヒーラーばかりだから、こうした救助活動に積極的に動いたのかもしれない。


「アナタ! 無事だった?」


 ロンキドさんの姿を見て、ヴァレさんは安堵する。


「ギルドの方で爆発があったみたいだったけれど」

「1階入り口が吹っ飛んだ。負傷者が出たが、持ち直した」

「ニニヤは? そっちへ行ったわよね?」

「ギルドに預けてきた。彼女に実戦は早い」

「そう……」


 置いてきた判断に、ヴァレさんは察したようだった。誰もが初めて上手くやれるとは限らない。


「こちらは終わったわ」


 モニヤさんがやってきた。ニニヤのことを聞かれたので、ロンキドさんは答える。


「マリーとウィルは?」

「家で待機している。ヴィゴ君やあなたが家に立ち寄った時、留守だと困るでしょ?」

「確かにな」


 どこに行ったんだ、と探し回る羽目になったかも。俺は、ルカとイラに声を掛ける。


「お前ら怪我はないか?」

「大丈夫です!」

「申し訳ありません、ヴィゴ様。家で待機と言われましたが……」

「いや、状況が状況だ。無事ならそれでいい」


 俺たちは冒険者だからな。こういう時、住んでいる町の人間を守るために戦うのも仕事のうちに含まれる。


「ディーも連れてきたんだな」

「治癒術士ですから。怪我人の手当てができるなら、ひとりでも多いほうがいいって、モニヤさんが」


 ルカが答えた。あの元司祭様に駆り出されたか。確かに、人の生死が掛かっている事態なら、贅沢は言っていられないか。


 金属鎧の音が連続した。王城から出たであろう騎士団の分隊が俺たちのそばを通過したのだ。……あ、この前、俺を王城に案内したセイム騎士団の騎士もいる。


 王都の治安回復に騎士団も動員されているな。


「ロンキドさん!」

「急ぐぞ。お前たちもここはいいから一緒に来い!」


 ロンキドさんはルカやヴァレさんたちも連れていくことにしたようだ。俺たちは王城への道をひた走った。


 さすがに城に近づくに連れて、魔獣の姿も見かけなくなり、騎士や兵士たちもまた前線を押し上げているようだった。


 嫌に静かだった。開かれた王城。ロンキドさんは眉をひそめた。


「おかしい。この非常事態に、門を開けるなら最低でも警備の小隊ぐらい配置するだろうに……。

「誰もいませんね……」


 これはマジで城に敵が侵入した?


「行くぞ」


 本来なら、門番がいて止められるはずなのに門番が立っていない。門をくぐり、静かな城内を見回せば。


「ロンキドさん」

「ん?」


 門番がいた。首をかっ切られて。


「立っていませんでしたね」

「ああ、座ってる」

「あ、あの!」


 ディーが白い狼耳を動かす。


「城内から、金属がぶつかる音がします! たぶん、戦っている人がいます」


 さすが狼の獣人。遠くの音もよく聞こえているようだ。


「それと、あ、あいつらのニオイも……」


 白狼族を襲い、魔王の欠片を奪おうとしている連中の臭いだろう。敵の思い通りにはさせん!


 俺たちは進む。途中、隠すでもなく城の兵士が倒れていた。


「気をつけて! 敵が来るわよ!」


 アウラが注意を促した。陰に伏せていたのか、黒い装備の戦士が複数現れた。白狼族の集落を襲った連中と同じ格好だ。


「待ち伏せか! 蹴散らす!」


 次の瞬間、ロンキドさんが盾を突き出し加速した。俺も負けじと加速。驚く黒装束の戦士。振り下ろした魔剣でドーン!


「ヴァレ! ワタシたちもやるわよ!」

「了解、師匠!」


 アウラ、ヴァレの師弟コンビの魔法が、一気に敵を薙ぎ払う。


 後ろはモニヤさん、イラ、ディー、そしてルカがいる。万が一、背後から襲われたら、ルカが、ヒーラーたちの盾となるポジショニングだ。……マジでヒーラー多いな。


「ディー、戦っている者の場所へ我々を案内してくれ」


 ロンキドさんは飛びかかってきた敵を剣で貫く。


「そちらに王族や重臣がいるかもしれない」


 敵とあれば、王族を守るのが騎士たちの役目。いくら王都に騎士団が出ようと、身辺警護に抜かりはない。


 であるなら、今も戦っている者たちは、重要人物と一緒にいる可能性が高い。


 いったいどれだけの敵が入り込んでいるのか。俺たちの行く手を阻む黒装束の戦士たち。


「いた!」


 通路を曲がった先に、騎士が3人と……あれは、シンセロ大臣!


「ネズミ男!」


 ヴァレさん、それ本人の前で言わないでくださいよ。ネズミっぽくあるが、あの人、ちゃんと人間だから。……だよな?


「カメリアちゃん!」


 モニヤさんが叫んだ。大臣を守っている騎士の中に長い黒髪の女騎士がいたのだ。


 カメリア・ロンキド――たぶん、第一夫人であるマリーさんの娘だろう。……だって彼女の他に黒髪が遺伝する要素ないもん。


「カメリア!」

「親父殿!」


 カメリアさんたちも俺たちに気づいた。ロンキドさんと俺が、黒装束の戦士たちに一気に襲いかかり、叩きのめす。


「さすがですね、ロンキドさん」

「お前もな、ヴィゴ」


 あっという間だった。ロンキドさんは伝説のSランク冒険者だし、俺の場合は敵が魔剣の攻撃を防ごうとした時点でミンチ確定なので時間が掛からなかった。

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