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第55話、冒険者の反撃


 敵が白狼の魂を狙っている敵ならば、この混乱を見逃さず王城に向かうだろう。


 わかってはいるが、まずは近くにある冒険者ギルドを目指す。ニニヤがお父さんであるロンキドさんの安否を心配しているからな。


 あの人の状態如何では、今後の俺たちの行動も変わってくる。指揮系統が機能するか、ある程度に事態に予想をつけられる俺たちが独自に動くべきか。


 と、冒険者ギルド前に到着すれば、そこはすでに戦闘……は終わっているようだった。ブラッディウルフや大鬼オーガといった魔獣や亜人の死体が横たわっている。また冒険者に複数の負傷者がいるようだった。


 ギルドの正面入り口が吹き飛ばされているが、建物自体は健在だ。


「おう、ヴィゴ、アウラ」


 ロンキドさんが、剣と盾を手に持ってやってきた。鎧はしていないように見える。急いで出てきたというところか。


「お父さん!」


 ニニヤが駆け寄る。ロンキドさんは、娘が来たことに驚いていた。


「無事でよかった……」

「ああ、こちらは心配ない」


 ロンキドさんは剣を鞘に収めて、ニニヤの髪を撫でる。


「どうしてここへ?」

「ギルドがやられたのでは、と様子を見に来たんです」


 俺は、ニニヤが飛び出したから、とは言わなかった。


「奥様方は家で待機しています。ルカとイラをつけてます。それより――」

「ああ、王都内に魔獣が放たれた。ギルドフロアにいた者の何人かが最初の爆発で負傷。その後現れた魔獣は、残っている者で撃退した。王都にいる魔獣を排除しなくてはならない」


 ロンキドさんは、近くにある木箱に飛び乗った。


「戦える者は聞いてくれ! 王都内に魔獣が侵入した。これらを討伐し、王都住民の安全を確保しろ!」


 先ほどまで戦っていただろう冒険者たちの視線が集まる。


「このギルドでお前たちが受けるクエストは、王都の住民たちからのものも少なくない。お前たちに仕事を提供してくれる者たちを魔獣どもに殺させるな! そしてギルドを吹き飛ばし仲間を傷つけた敵がこの王都にいる! そいつらを許すな!」

「「「おおっ!」」」


 冒険者たちが声を上げた。


「やってやろうぜ!」

「オレは東側を見てくる――」

「おれは南を――」


 ギルドで見かけた顔見知りの冒険者も、そうでない冒険者も次々に王都内へ散っていく。


「ヴィゴ、この騒ぎ、おそらく例の敵の仕業だ」


 ロンキドさんは木箱から飛び降りる。壊されたギルドの入り口があった穴から、職員が装備を持って出てきた。


「この攻撃は陽動だ。広く騒ぎを起こすことで、王城の人員を引っ張り出すつもりだろう」


 そう言うギルマスに、ギルドスタッフが持ってきた防具をロンキドさんに付け始めた。鎧をつけている暇もなく、戦闘に参加したんだろうな。


 アウラが口を開いた。


「狙いは王城の白狼の魂とやらね」

「だから、王都は冒険者や王城から誘い出された連中に任せて、おれたちは王城に向かう」

「了解」

「わかったわ」


 俺とアウラが頷くと、防具を装着し終わったロンキドさんは、ひとり言葉を挟めずいた娘を見た。


「ニニヤ、お前はギルドのスタッフとここにいなさい」

「で、でも……!」


 ニニヤは言いかける。だがアウラがぴしゃりと言った。


「そうしなさい。今の貴女では、足手まといだわ」

「……!」


 彼女は言い返せなかった。さっき、初めて見ただろうブラッディウルフを前に尻込みしてしまったからな。初陣にアレはきついよ。大きな狼が自分めがけて牙をむき出して突っ込んでくるなんてさ。


「ヴィゴ、アウラ、行くぞ!」


 ロンキドさんが駆け出し、俺とアウラもそれに続いた。


「アウラ、俺、ダッシュブーツあるけど、お前はついてこれるか?」

「愚問よヴィゴ。ワタシを誰だと思ってるの?」

「閃光だっけか?」


 俺は苦笑する。アウラが口を尖らせた。


「何よ? おかしい?」

「別に」


 ちょっと小っ恥ずかしいと思ったのは、俺の個人的な感想だ。ロンキドさんがチラと俺を見た。


「ダッシュブーツをもらったか。なら、飛ばすぞ」


 元々ロンキドさんが使っていたダッシュブーツである。当然、この人はそれを履いていて、速度を上げた。俺もそれに続く。


 王都を猛スピードで北上。通りを進んでいると、王都の兵士が魔物と戦っていた。ブラッディウルフが、兵士に飛び掛かり、食らいつくのを別の兵士が横槍を突く。高さ2メートル超えの大鬼――オーガが棍棒を振り回し、兵士らをなぎ倒している。


「目の前のオーガ、すれ違いざまにやるぞ!」


 ロンキドさんが王城への道の途中にいるオーガへ突っ込んだ。オーガがこちらに気づいたが、ロンキドさんは飛び上がり、剣で大鬼の首を切り裂いた。


「ヴィゴ!」

「お任せを!」


 喉からの出血を押さえるようと、無防備になったオーガの胴体に俺は魔剣をぶち当てる。分厚い筋肉に覆われた体が潰れ、ぶっ飛び、通り道にいたゴブリンを巻き込んで壁に激突して肉片となった。


「エグい!」


 アウラが苦笑した。


「ワタシ、オーガがすっ飛んでいくのを初めて見たわ」

「驚いたか?」

「いいえ。貴方がもっと大きい邪甲獣をぶん回すところを見ているからね!」


 確かに。大鬼も大きいが邪甲獣と比べたら小さい。


 俺たちは、さらに進む。王都の住民より兵士や騎士団の姿を多く見かける。至る所で戦闘になっているようだが――


「騎士団も全力出撃しているみたいだな」


 こりゃマジで王城の警備、手薄になってね?


 王都の兵たちや騎士団の仕事は、王城ならびに王都の守護。これも職務だから仕方ないとはいえ、兵たちが王都に散っているのと反対に、俺たちが王城を目指しているのは何とも皮肉じゃないか。

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