俺たちの家は、ルカ、イラを加えて賑やかになった。
元々ひとりじゃ広すぎるってのもあったけど、冒険者パーティー用のホームとして使われたこともあるというアウラの言葉とおり、都合がよかった。
机や椅子などの家具の追加は、アウラが木魔法で作っていたので、出費を抑えることができた。
調理は主にルカが担当することになった。料理は得意と彼女が言うので、お任せする。
イラは雑用をやると志願した。借金奴隷なのだから、と彼女は言うが、買い出しや他の人のヘルプが主な役割となる。
家の掃除は、アウラが設置した家妖精のまじないによって、全部やってもらえた。この広い家全部を硬貨一枚でやってくれるので楽なものである。
アウラは、地下の研究室を復活させた。ポーションなどの薬品類の製造や、木の精霊ならではの植物の栽培、魔道具の製作などなど。
……ぶっちゃけ、俺だけ家では特に仕事がない。だが暇かというとそんなことはなかった。
「ヴィゴは、もっと強くなるとワタシは思うのよ」
アウラは言った。
「アナタの持てるスキルを活用すればね」
ということで、俺は自分のスキルアップや剣術強化に時間を使った。俺はロンキドさんのようなSランク冒険者を目指す。ただ魔剣の力に頼るだけでなく、もっと強くなるのだ。
大型邪甲獣を仕留めたくらいで、満足してはいけない!
「持てるスキルって、いろいろなものを持てるわけじゃない? そこでワタシは思ったんだけど、アナタに向かってくる攻撃は、手のひらで防ぐことができるんじゃないの?」
「つまり、受け止めるとか、掴むということ?」
それは持つとは違うんじゃないかな?
「『持つ』のよ」
受け止めるを持ち上げる感覚でやれば、敵の攻撃を受け止めた瞬間、持ち上げるが発生し、ダメージを受けないのではないか、という説。
「そういえば、持つに限れば、攻撃魔法も無傷だった」
ヴァレさんの雷や火の玉を手で持ったし、大蛇型邪甲獣のブレスも防いだっけ。
「そうか、確かに手のひらで受けた攻撃を防いだわ、俺!」
ブレスや魔法も手のひらに当てることで、一瞬でも持つ判定になれば、俺にダメージはいかない。痛みもなければ傷もなかった。……ということは。
「刃物とか武器の攻撃も、手のひらで当てることで、無効化できね?」
「やってみましょう!」
アウラが作った木人や木製ゴーレムの試験がてら、それらの繰り出すパンチや木刀攻撃を手の平で受ける、弾く、掴む。
検証の結果、手のひら方向で受ける攻撃は、すべて『持つ』、『持てる』可能性が発生した時点で、無効化した。
「掴む、というのは、しっかり持つということだから、当てて防ぐだけじゃなくて、掴む動作も『持つ・持てる』の範疇に入るんじゃないかしら」
そう言われてしまえば、攻撃を受けるを持つからの跳ね返しだけでなく、受けるを持つから掴むへと昇華させる。
その結果――
「な、何ですか、これは……!」
テラスへときたイラが驚きを露わにした。
木人の木刀攻撃が俺の手のひらに命中した瞬間、掴む。掴むから、木人ごと持ち上げる。そこから放り投げることができるようになった。
「ヴィゴさん凄いっ! これはまるで達人の動き!?」
「若い頃のグフ・ロンキドでも、こうはいかなかったでしょうね」
アウラが、伝説のSランク冒険者であるギルマスの名前を出した。マジで? ロンキドさんより?
大型の木製ゴーレムも、パンチ→キャッチしながら持ち上げ→放り投げ、と、相手の重量関係なしの流れができた。パチパチパチとイラが手を叩いて褒める。
「掴むが、かなりバリエーションを生みそう」
持つということで手のひらが上へ向きがちになるが、掴むことで手のひらの向きがより自由度を増した。武器を振り回すのと同じだ。これまでもそうしてきたのだから、難しく考えることはなかった。
「じゃあ、ヴィゴ。ここから少し難しくなるわよ。ワタシがクルミを投石よろしく投げまくるから、それを全部弾くか掴んでみなさい!」
アウラが木魔法で、多数のクルミを飛ばしてきた。素早く、そして数があまりに多いので両手を使って防ぐのに一苦労。
「いて! これっ、反射が問われるなぁ……!」
手のひらにさえ当てれば持つ判定が発動して勝ちだが、手に当てられなければ体に当たって普通に痛い。
高速で当たるクルミは、小さく、そして多いことで阻止するのに難儀した。だが慣れてきたのか、だいぶ迎撃率が上がっていった。掴む余裕はないけど、手をめいっぱい大きく広げると、持てる判定範囲が少し広くなったように感じた。
わざとだろうが、アウラがクルミの数を減らしたら、掴む余裕が出てきた。もっとも、掴めるのは手のひらの中心近くのもに限り、効果範囲ギリで当たるものに関しては、もっぱら弾いたが。
「ねえ、ヴィゴ。アナタ、クルミを手に引き寄せてる?」
アウラがそんなことを言った。
「どゆこと?」
「幾つか軌道が逸れて、手のひらに引き込まれているように見えたのよ……。ちょっと中止」
ドリアード魔女は俺のもとへやってきた。
「アナタ、一応、魔法が使えるのよね?」
「まだ初心者だけどな。ただヴァレさん曰く、持つ、とか持てるを意識できる魔法は、習得が早いって」
「アナタは持てるスキルを持っている。じゃあ、その辺に落ちているクルミを、魔法で引き寄せてみて」
先ほどまでアウラが飛ばし、俺が弾いたクルミがそこら中に落ちている。……これあとで全部回収するの大変そう。
「俺、引き寄せる魔法なんてやったことないぜ」
「だからやるのよ。アナタ、どんなものでも『持てる』んでしょ?」
クルミを持つこと自体はできる。だがそれを触らずに引き寄せろとか……。
俺は手のひらを、クルミのひとつに向ける。触ることさえできれば持てるんだ。持てる……持てる。
そのクルミを持つイメージを意識したせいか、目標に定めていたクルミが俺に向かって飛んできた。すかさずキャッチ!
「できた……!」
「さすが何でも持てるスキル。持つことに関したものなら、魔法も発動しやすくなるのね」
アウラが顎に指を当てて考えるポーズを取る。
「じゃあ今度は、魔剣でやってみましょうか。アナタの持てるスキルは重量に関係ないんだから、当然、できるはず」
6万4000トンの超弩級重量魔剣。普通なら動かすことさえできないそれも、持てるスキルなら保持できる。持てるスキルの効果で発動する魔法なら、直接触らずとも引き寄せることができるはず、というわけだ。なにせ俺が『持てる』ものだから。
結論から言えば、魔剣も引き寄せて持つことができた。
こうなってくると、他にもできないか、俺は持てるスキルの研究と並行して剣術や魔法の訓練も行った。
そうそう、アウラの体液を摂取したことも、自分の糧になっているようだった。魔法についても、着実に伸びているのを実感した。