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第47話、掴む、とは、しっかり持つということです


 俺たちの家は、ルカ、イラを加えて賑やかになった。


 元々ひとりじゃ広すぎるってのもあったけど、冒険者パーティー用のホームとして使われたこともあるというアウラの言葉とおり、都合がよかった。


 机や椅子などの家具の追加は、アウラが木魔法で作っていたので、出費を抑えることができた。


 調理は主にルカが担当することになった。料理は得意と彼女が言うので、お任せする。

 イラは雑用をやると志願した。借金奴隷なのだから、と彼女は言うが、買い出しや他の人のヘルプが主な役割となる。


 家の掃除は、アウラが設置した家妖精のまじないによって、全部やってもらえた。この広い家全部を硬貨一枚でやってくれるので楽なものである。


 アウラは、地下の研究室を復活させた。ポーションなどの薬品類の製造や、木の精霊ならではの植物の栽培、魔道具の製作などなど。


 ……ぶっちゃけ、俺だけ家では特に仕事がない。だが暇かというとそんなことはなかった。


「ヴィゴは、もっと強くなるとワタシは思うのよ」


 アウラは言った。


「アナタの持てるスキルを活用すればね」


 ということで、俺は自分のスキルアップや剣術強化に時間を使った。俺はロンキドさんのようなSランク冒険者を目指す。ただ魔剣の力に頼るだけでなく、もっと強くなるのだ。

 大型邪甲獣を仕留めたくらいで、満足してはいけない!


「持てるスキルって、いろいろなものを持てるわけじゃない? そこでワタシは思ったんだけど、アナタに向かってくる攻撃は、手のひらで防ぐことができるんじゃないの?」

「つまり、受け止めるとか、掴むということ?」


 それは持つとは違うんじゃないかな?


「『持つ』のよ」


 受け止めるを持ち上げる感覚でやれば、敵の攻撃を受け止めた瞬間、持ち上げるが発生し、ダメージを受けないのではないか、という説。


「そういえば、持つに限れば、攻撃魔法も無傷だった」


 ヴァレさんの雷や火の玉を手で持ったし、大蛇型邪甲獣のブレスも防いだっけ。


「そうか、確かに手のひらで受けた攻撃を防いだわ、俺!」


 ブレスや魔法も手のひらに当てることで、一瞬でも持つ判定になれば、俺にダメージはいかない。痛みもなければ傷もなかった。……ということは。


「刃物とか武器の攻撃も、手のひらで当てることで、無効化できね?」

「やってみましょう!」


 アウラが作った木人や木製ゴーレムの試験がてら、それらの繰り出すパンチや木刀攻撃を手の平で受ける、弾く、掴む。


 検証の結果、手のひら方向で受ける攻撃は、すべて『持つ』、『持てる』可能性が発生した時点で、無効化した。


「掴む、というのは、しっかり持つということだから、当てて防ぐだけじゃなくて、掴む動作も『持つ・持てる』の範疇に入るんじゃないかしら」


 そう言われてしまえば、攻撃を受けるを持つからの跳ね返しだけでなく、受けるを持つから掴むへと昇華させる。


 その結果――


「な、何ですか、これは……!」


 テラスへときたイラが驚きを露わにした。


 木人の木刀攻撃が俺の手のひらに命中した瞬間、掴む。掴むから、木人ごと持ち上げる。そこから放り投げることができるようになった。


「ヴィゴさん凄いっ! これはまるで達人の動き!?」

「若い頃のグフ・ロンキドでも、こうはいかなかったでしょうね」


 アウラが、伝説のSランク冒険者であるギルマスの名前を出した。マジで? ロンキドさんより? 


 大型の木製ゴーレムも、パンチ→キャッチしながら持ち上げ→放り投げ、と、相手の重量関係なしの流れができた。パチパチパチとイラが手を叩いて褒める。


「掴むが、かなりバリエーションを生みそう」


 持つということで手のひらが上へ向きがちになるが、掴むことで手のひらの向きがより自由度を増した。武器を振り回すのと同じだ。これまでもそうしてきたのだから、難しく考えることはなかった。


「じゃあ、ヴィゴ。ここから少し難しくなるわよ。ワタシがクルミを投石よろしく投げまくるから、それを全部弾くか掴んでみなさい!」


 アウラが木魔法で、多数のクルミを飛ばしてきた。素早く、そして数があまりに多いので両手を使って防ぐのに一苦労。


「いて! これっ、反射が問われるなぁ……!」


 手のひらにさえ当てれば持つ判定が発動して勝ちだが、手に当てられなければ体に当たって普通に痛い。


 高速で当たるクルミは、小さく、そして多いことで阻止するのに難儀した。だが慣れてきたのか、だいぶ迎撃率が上がっていった。掴む余裕はないけど、手をめいっぱい大きく広げると、持てる判定範囲が少し広くなったように感じた。


 わざとだろうが、アウラがクルミの数を減らしたら、掴む余裕が出てきた。もっとも、掴めるのは手のひらの中心近くのもに限り、効果範囲ギリで当たるものに関しては、もっぱら弾いたが。


「ねえ、ヴィゴ。アナタ、クルミを手に引き寄せてる?」


 アウラがそんなことを言った。


「どゆこと?」

「幾つか軌道が逸れて、手のひらに引き込まれているように見えたのよ……。ちょっと中止」


 ドリアード魔女は俺のもとへやってきた。


「アナタ、一応、魔法が使えるのよね?」

「まだ初心者だけどな。ただヴァレさん曰く、持つ、とか持てるを意識できる魔法は、習得が早いって」

「アナタは持てるスキルを持っている。じゃあ、その辺に落ちているクルミを、魔法で引き寄せてみて」


 先ほどまでアウラが飛ばし、俺が弾いたクルミがそこら中に落ちている。……これあとで全部回収するの大変そう。


「俺、引き寄せる魔法なんてやったことないぜ」

「だからやるのよ。アナタ、どんなものでも『持てる』んでしょ?」


 クルミを持つこと自体はできる。だがそれを触らずに引き寄せろとか……。


 俺は手のひらを、クルミのひとつに向ける。触ることさえできれば持てるんだ。持てる……持てる。


 そのクルミを持つイメージを意識したせいか、目標に定めていたクルミが俺に向かって飛んできた。すかさずキャッチ!


「できた……!」

「さすが何でも持てるスキル。持つことに関したものなら、魔法も発動しやすくなるのね」


 アウラが顎に指を当てて考えるポーズを取る。


「じゃあ今度は、魔剣でやってみましょうか。アナタの持てるスキルは重量に関係ないんだから、当然、できるはず」


 6万4000トンの超弩級重量魔剣。普通なら動かすことさえできないそれも、持てるスキルなら保持できる。持てるスキルの効果で発動する魔法なら、直接触らずとも引き寄せることができるはず、というわけだ。なにせ俺が『持てる』ものだから。



 結論から言えば、魔剣も引き寄せて持つことができた。


 こうなってくると、他にもできないか、俺は持てるスキルの研究と並行して剣術や魔法の訓練も行った。


 そうそう、アウラの体液を摂取したことも、自分の糧になっているようだった。魔法についても、着実に伸びているのを実感した。

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