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第45話、NTR?


 俺は、人生経験豊かなアウラに、イラの件を伝え、どうしたものかと相談した。ドリアードになる前は、ベテランのSランク冒険者だった大先輩は答えた。


「本人が借金奴隷で志願するなら、それでいいんじゃない?」


 どこか投げやりだった。


「まあ、普通に魅力的だから奴隷として売ったほうが、結果としては儲かる気もするけど、今後、ワタシたちのパーティーで使うかもっていうなら、借金奴隷のほうがいいと思うわ」


 今後、パーティーで使う……なるほど、そうだよな。


 お金返したら、はいさようなら、って決まってないもんな。イラはクレリックで、うちのパーティー回復役がいないから、そのまま加入ってのも充分あるわけだ。


「そこまでお金に困っているわけじゃないしねー」


 俺たちのパーティーが、どこかに借金しているとか困窮とかないから、直接売ってでも金が欲しいってわけじゃない。


「大いに参考になる。ありがとう」


 ところで――俺は、アウラがやっていることに興味を持った。


「何やってるの? 玩具作り?」

「ふふん、玩具? だとしたら、大きな玩具ね」


 庭で木を生成してそれを何やら成形しながら、アウラは胸を張った。


「案山子を作ろうと思ってね。木人形」

「ゴーレムみたいなもん?」

「そういうこと」


 アウラはニヤリとした。


「まあ、前世の知識を活用して、ドリアード流の人形作りをしているから。楽しみにしていらっしゃい!」


 お、おう。何か知らんが、楽しみにしておこう。


 ということで、俺はイラに声を掛けて、王都にある奴隷商人の店へ行った。一応、どこまで範囲かわからないので、アウラのために魔剣は家に置いておく。6万4000トンの魔剣だ。盗まれることはない。



  ・  ・  ・



 王都には奴隷商が数えるほどはあるそうだ。俺個人は関わる機会がなかったから、まったく知らなかったんだけどな。


 イラの案内で行ったその店は、案外小綺麗で、奴隷というダークな響きとは違った印象を与えた。


 入口入ってすぐの受付にて、イラが自ら借金奴隷の手続きをしたいと手続きを申し出ると、簡単な書類作成。その後、担当者が来るので、奥の個室で待つように言われた。


 個室って、幾つもあるのね。他の客から手続き内容などを知られないようにする配慮らしい。


 待っていると、身なりのよい痩身の男性がやってきた。


「ドルーグ商会のグラームです。かのヴィゴ・ディーノ様にお越しいただけるとは光栄です」


 書類作成の時に名前は書いたが……。


「光栄と言われるような覚えはないが?」

「何をおっしゃいますか。あなたは王都を救った新進気鋭の冒険者ではありませんか。あなたのおかげで、私どもも被害に遭わず仕事ができるのです」


 などと感謝されてしまった。商売人のお世辞だとしても、悪い気はしないな。


「それで、今回は、こちらのイラ様を借金奴隷としたいとのことですが」


 グラームが確認すると、イラが俺の金を騙し取ってしまい、返済しようにもお金が足りないので、その不足分を支払うまでの奴隷契約であることを説明した。


「詐欺、ですか……。ヴィゴ様、お間違いないですか?」

「お恥ずかしながら、聞いていた意図と違う使われ方をしたので、そうなりますね」

「ですから、奴隷になってでも償いしなくてはいけないのです」


 イラは強く言った。グラームは頷いた。


「お互いに了承と仰るのであれば、手続きを進めましょう」


 虚偽がないと審査の上、イラの借金奴隷の処置が進められた。


「こちらは、借金奴隷用の首輪となります。一種の魔道具であり、着用している人間には外せないようになっています」


 聞けば、奴隷にも犯罪奴隷、借金奴隷、戦争奴隷など複数あって、それぞれ首輪も違うらしい。なお首輪は、パッとみただけで『奴隷』であるという身分証明であるという。


 人様の奴隷に手を出したら、損害賠償が発生するから、初見でも判別できるものとして首輪は最適らしい。


 俺はイラを見る。


「本当に、こんなのつけて平気なん?」


 見ただけで奴隷とわかるものを付けられる。自分で外せないから、周囲の目も相応に厳しくなる。理由はどうあれ、奴隷の身分は低い。


「それだけの罪を犯したのですから、当然です」


 まあ、結果的に俺から報酬金を持っていったのは事実だしな。奴隷の首輪につける魔石に、俺が声を吹き込み、若干の魔力を流した後、それを首輪につければ、晴れて処理は終了。俺の命令に反した行動を取ると、首輪で首絞まる仕様ということだった。


 首輪をつけたことで、イラは俺の借金奴隷となった。彼女の細い首に不釣り合いな大きな首輪。格好がシスター服だけあって背徳感がヤバい。


「ありがとうございます、ヴィゴさん、いえヴィゴ様。誠心誠意、あなたにお仕えいたします」


 やたら嬉しそうなのは、どういうこと? 奴隷になるって、もっとこうテンション低くなるものだと思っていたけど、彼女は逆にテンションが上がっているような気がする。


 グラームから奴隷の扱いについての確認をしたのち、処理代を支払って俺たちはドルーグ商会を後にした。


 俺から一歩下がったところを歩くイラは、首輪付きシスターということで、周囲の目を集めた。顔を伏せていたものの、近くで見れば口元が緩んでいて、やはり落ち込んでいる気配は全然なかった。


 前のパーティーにいた頃も、世間話をする程度の関係だったから、実のところ彼女のことはよくわからない。


「一応、同じ家に住むことになるから、寝具とか買って帰るか?」

「よろしいのですか、ヴィゴ様?」

「生活用品揃えるのは、契約の一環だからな」


 奴隷の衣食住は、主人が用意するものだ。どのレベルの生活をさせるかは、主人の経済状況などにもよるが。


「あ……」


 イラが立ち止まった。驚いている彼女の表情に、何事かと見ればそこには、シャインのリーダー、ルース・ホルバがいた。


「ヴィゴ、イラ……?」

「ルース……」


 顔面の左半分が爛れていて、以前の精悍な顔ではなくなっていた。鎧の一部も腐食し、土で汚れていた。かつての煌びやかさは欠片もない。まるで敗残兵だ。


「どうして……?」

「随分と酷い有様ですね、ルース・ホルバ」


 イラが俺に身を寄せて腕をとった。ちょ、立派なお胸様が――


「魔物から仲間を見捨てて逃げた臆病者。もう、貴方のパーティーはありませんよ、ルース」

「な……!?」

「エルザもアルマも家に帰りました。わたしも、ヴィゴ様の奴隷として、貴方の傍にはいられません。もう、貴方は独りぼっちなのですよ。さようなら」


 愕然とするルース。イラには彼を非難する権利がある。俺たちがいなければ、見捨てられ邪甲獣に殺されていただろうから。


「ルース、お前はもう終わりだよ」


 俺は、かつて親友だと思っていた裏切り者に哀れみを感じた。お前には何も残っていない。家も、仲間も、その恵まれた容姿も。冒険者としての信頼も。


「イラは俺が面倒を見てやる。お前たちの生活費の足しに俺が貸した分を、お前たちの代わりに返してくれるんだとさ。健気だよな」

「……っ!」

「もう、俺がお前にしてやれることはない。……達者でな。古き友」

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