イラは、金髪碧眼の美少女であり、教会のシスターの格好をしているが、冒険者であり、クラスは僧侶〈クレリック〉だ。
ふんわりした雰囲気で、そのお胸の発育具合もかなりふんわりしている。僧侶の服装って本来、清楚なはずなのに、何故かイラからはこう、性的な雰囲気を感じてしまって、俺はパーティーにいた頃から体の一部が苛立ってくることがしばしあった。
「ここがー、新しいヴィゴさんのお家なんですねぇ」
イラを居間に通して、お話し合い。アウラが木を生成して机と椅子を作ってくれたので、それを使って対面する形になる。何か面接みたい。
「調子は? 大丈夫か?」
昨日の今日なので確認する。
「えぇ、お陰様で」
イラはニコリと笑った。微笑みシスターは健在だ。
「今日は、ヴィゴさんに色々ご報告があって参りました」
シスターは、昨日別れてからの顛末を語り出した。
「――エルザは完全に戦意を失ってしまいました。むしろ精神的トラウマになってしまったようで、家に帰ることになりました」
あの小生意気な口の達者な魔術師が脱落したか。
「アルマは意識を取り戻したのですが、どうも記憶を喪失してしまったそうで。……彼女も家の人が来て実家に連れ帰ることになるようです」
「魔法騎士の家庭だっけか……」
騎士になる夢を捨てきれず飛び出した彼女も、記憶がないのでは、その夢も水泡に帰したわけだ。
騎士だったナウラはもう脱退しているんだっけ。となるとシャインに残っているのは、イラと、リーダーのルースだけになるが。
「ルース・ホルバは仲間を見捨てて逃げたので、おそらく降格は免れないでしょう。まあ、わたし、シャインから脱退手続きしましたので、あの人がどうなろうと知りませんが」
「脱退したんだ」
「実質、パーティー壊滅ですから」
何かさっきから彼女から違和感。しゃべり方が、あの甘ったるい、とろけた感じじゃないせいか。普通に話せるんだな、イラも。
というか、最初の邪甲獣を討伐した後の報酬をだまし取ったお色気シスターに雰囲気が、かなり似ているのだが……。
「これからどうするつもり?」
「どうしましょうか……と普通なら、途方に暮れるところなのですが……」
イラはうつむき気味に頭を傾けた上で、上目遣いを寄越してきた。そうされると、胸のほうに視線が行ってしまいそうで困る。
「……まだ、気づきませんか?」
何に、というのは、間抜けなんだろうか。いや、正直言うと、詐欺シスターがチラついてるのよ。だってあの時、孤児院がどうこう言って金を持っていた女、イラの姉妹では、と思ってしまうくらいには似ていたから。
「……今度はいくら?」
試しにふってみれば、イラは顔を上げてニコリとした。
「やっぱり、気づいていらしたじゃないですか」
自白しやがった。この間のお色気シスターだ。
「確信はなかった。似ているなぁ、とは思っていたけど、表情はもちろん、しゃべり方が全然違うし」
「あのふわっとした口調のおかげで、だいぶ印象変わりますからね」
わたしぃ、などと言いながら、イラは首を傾けて、あざとい笑顔を浮かべる。
「どちらが素なん?」
「普通にしゃべっている方で。あのふわふわっとしたのは演技です」
怖っ。
「女って怖いわー。演技か、まんまと騙されたぜ」
孤児院うんぬん言いながら同情を誘い、その豊かなお胸を押しつけて誘うお色気シスター。顔が仲間だったイラに似ていたのも、さらに同情を誘いやすかったかもしれん。
「……それはお主がチョロいだけだろう」
「ダイ様」
居間にダイ様が現れて、俺の隣の席に座った。どうやら聞いていたらしい。
「それで、わざわざ正体明かして、お主は何をするつもりだ? お色気シスター?」
「まず、その件について、ヴィゴさんにはお詫びいたします。申し訳ありませんでした」
イラは頭を下げた。
「貴方から頂いたお金については、わたしが全額返済します」
戻ってくるのか。まあ、それならそれでいいか。今は邪甲獣討伐で、結構潤っているから、今すぐ返せってことはないからいいんだけど。余裕があると、心も広くなるんだな。
「ちなみに、俺から取ったお金、何に使ったの?」
「パーティーの活動資金です」
イラは答えた。
「パーティーホームも邪甲獣が吹き飛ばして何もかもなくなってしまいましたので」
ルースたちの活動資金か。……ちょっとムカっときた。俺を追放した連中を生かすために使われたわけだ。
「それで、お金なのですが……」
机の上にイラは革袋を置いた。置いた時の感じから中身はお金のようだが……。はて、俺から分捕った時に比べて小さいような。
「わたしの手持ちを処分しましたが、全額お返しするには足りません。そこでヴィゴさんにお願いがあります」
「あー、返済期限をくれとかっていうなら、いいよ」
何なら、ある分だけで手打ちにしてもいいくらいだ。だって彼女、ソロでしょ。生活だけでも大変だろうに、それで不足分返済なんてさらに大変だし――
「いえ、わたしを奴隷商に連れていってほしいのです」
「は? 奴隷?」
俺は思いがけない単語が出て驚いた。ダイ様は腕を組んで、イラを見た。
「説明せぃ」
「わたしをヴィゴさんを対象にした借金奴隷としていただきたい、と思いまして」
「借金奴隷って言うとあれか、対象者への借金を完済するまでその人間の奴隷になるってやつ」
俺が確認すると、イラは一切の躊躇いもなく頷いた。
「はい。ヴィゴさんに与えた損害は、わたしがこの身をもって全てお返しさせていただきます!」
借金奴隷は、必ず返済する契約魔法が施されるため、逃げることができない。確実に取り立てる場合は有効な手段だと聞いているが……。そこまでする?
「でも、イラはパーティーの生活のためにやったんだろう?」
自分だけ、楽をしようとしたのではなく、仲間のためにやったんだ。全部ひとりで背負う必要はないだろうに。
「いえ、理由はどうあれ、わたしは、ヴィゴさんを欺し、そして傷つけたのです。当然の罪であり罰が必要なのです」
イラは自身の胸もとに手を当てた。
「奴隷となった暁には、すべてヴィゴさんの好きなように扱ってください。文字通り何でも……『何でも』致します」
何でもって言った? 本当に? それはあのけしからん体を――いかんいかん、そういうのではなくて。
「もちろん、借金奴隷としてでなく、普通に奴隷として売っていただいても結構です。わたしの体にどれだけの値がつくかわかりませんが――」
「結構、いい値がつくと思うぞー」
「ダイ様」
なんてこと言うの。まあ、確かにイラは魅力的ではあるけど。……覚悟はわかった。わかったけど、どうしよ?