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第43話、ドリアードの体液


 魔力量は増やせる。簡単に。


 アウラはきっぱりと言った。当然、ダイ様公認のしょぼい魔力量しかない俺には魅力的なお話だ。


「――お風呂、いただきました」


 火照った体を厚手の布で拭いながらルカがやってきた。そして居間にいる俺たちを見て赤面した。


「なっ、何をやってるんですか!?」

「え?」


 何って、俺は何も――と思ったら、アウラが全裸だった。大事なところはその長い髪で隠れているのだが。


「ええっ!? いつ脱いだ!?」


 まったく気づかなかった。アウラはすっと俺に抱きついた。


「いやーん、見ちゃだめぇーん」


 くっついたら見えねーよ! 酔っ払いテンションやめろー。


「ふ、不潔! 不潔です!」


 ルカが叫んだ。案外、そっち方面は初心なのかもしれない。だがそれは俺も同じだ。生まれてこのかた異性とお付き合いの経験ないから、当然こっち方面も経験なしだ。


「まあ、冗談はそこまでにして」

「じょ、冗談?」


 冗談じゃ……というのはともかく、動揺する俺をよそに、アウラはいつもの不敵な表情になる。


「ドリアードっていうのは好みの男を引きずり込むものなのよ」

「こ、好み……!?」

「アナタは魅力的よ、ヴィゴ」


 あわあわと、目をパチクリさせているのは、俺ではなくルカだったりする。これは助けになりそうにない。ダイ様は……「おー」と興味深げな視線。こいつも駄目!


「したくなったら相手してもいいけど、もっといい男になったらね」


 アウラは自分の人差し指の先をすっと切った。


「ドリアードの体液。これを嘗めなさい」

「へ?」

「魔力量増やしたいんでしょ? 木の精霊の魔力を取り込みなさいな」

「マジで言ってる?」


 先ほどまでのからかいムードからくると、嘘か本気かわからない。


「ほうら、魔力のもとがもったいない。嘗めるのが嫌なら、落としてあげるから口を開けなさい」

「あわわわ……」

「どうぞ」


 すっと、ルカがキッチンからカップを持ってきた。おお、それならアウラの指から滴る液体を入れることができる。


「んー、つまんない」

「どうぞ」


 ルカは笑顔でカップを押しつけた。これを使えとプレッシャーが凄い。


 圧に負けたか、アウラはカップに液体を溜める。しかし、よくよく考えたらこれを俺、飲むんだよな。


「ほら、一口でいける量。これでアナタも魔力量が増えるわ」

「……」

「なに遠慮しているのよ? 毒でも入っていると思った? だーいじょうぶ。毒は混ぜてないわよ?」


 何気に毒も混ぜられるって聞こえるのは考えすぎか。


 見たところドリアードの体液は透明。若干、白いか……? 緑や紫とかじゃなくてよかったと思うべきか。色があったら植物搾ったみたいで生々しいと気もするし。


「味はどうなんです?」

「さあ、ワタシは自分の体液なんて飲んだことないもの」


 それもそうか。自分の体から分泌されるものを好き好んで口になんて、普通はしないもんな。


 しかし、そう考えると、自分がいけないことをしているような気がしないでもない。


「ルカ、あなたも一口嘗めてみる? 魔力量、増えるわよ」

「うーん、遠慮します」


 笑顔で断るルカ。そう?と残念がるアウラ。


「もうちょっと出そうなんだけど、もったいないわね」

「じゃあ、我にくれ!」


 ダイ様がトコトコとアウラのもとに移動した。アウラが、お子様姿のダイ様の上に指をスライドさせた。


「はーい、ダイ様。お口を開けてー。そうそう」


 垂れるドリアードの液体。天に向かって口を開ける子供そのものといったダイ様の口にポタポタと。


「あまーい! 甘い魔力の味だ。さすが精霊ドリアード。魔力がうまいのだ!」


 そんなに美味しいのか。ダイ様が喜んでいるので、俺もカップの中の液体を一口。ぬるっとした感触が舌を滑り、胃へと流れる。


「うげっ、苦っ!」


 何が甘いだ、ダイ様め! ぜんぜん甘くないじゃないか!?


 騙されたのか、はたまたダイ様の味覚がおかしいのか。魔剣に味覚というのも変な話だが。


「あれぇ、苦かった? ごめーん。最初のほうは少し苦いのかもしれないわね」


 軽く謝ってくるアウラである。わざと苦いのを出したとか、そういうのはなかったようだ。事故ならしょうがない。


「でも、これでアナタの魔力量も少し増えたと思うわよ。前世での研究では、日を置いて複数回飲むと、元の倍以上に増えたって例もあるから。その気があったら言いなさいな」


 なるほどね。また苦いのは勘弁だが、魔力量が増えるのなら吝かではないな。魔力量どうこううるさいダイ様が手放しで喜んでいるところからして、たぶん効果はあるんだろうな。


「ありがとうな、アウラ。効果実感したらまたお願いするわ」

「どういたしまして」


 アウラは微笑んだ。これだけ見ると、とても素敵なお姉さんに見えてくる不思議である。



  ・  ・  ・



 翌朝、すっきりした目覚め……は、何故か隣で寝ていたアウラのせいで、寿命が縮むかと思った。


 あのさぁ、人のベッドに潜り込むとか勘弁してくれるぅ? そりゃドリアードとはいえ、とても魅力的なお体をしていらっしゃる。


 一説にはドリアードは男の精気を吸うらしい。サキュバスか!


 普通に寝たから、お楽しみしたことなんてまったくなく、ドッキリで終わっただけというね……。人の青春を弄んでいるんじゃないか、このドリアード先輩は。


 朝からビックリさせられた俺だったけど、さらに驚かされることになる。


 来客があった。


 前所属していた『シャイン』のクレリック、イラが俺を訪ねてきたのだ。

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