巨大蛇型邪甲獣を撃破。小型の、と言って人間より大きな甲虫型の姿も見当たらなくなっていた。
生き残りは、もしかしたら周囲の大穴へと逃げたのかもしれない。まーた、穴だらけにしてまあ……。
ダイ様に、甲虫型の死骸で、ある程度形が残っているものを回収してもらった。俺が叩き潰したものとか、素材のとれなさそうなものは放置だ。
俺らが警戒と回収をやっている間にアウラとルカが生存者を診ていた。
「向こうにいかんのか?」
ダイ様が聞いてくる。俺は無意識に頬をかいた。
「うん、まあ、ちょっとね」
元パーティーメンバーと顔を合わせるのがしんどいというか。見た瞬間、避けようっていう反射的衝動はなくなったけど、どの面下げてって気分にはなる。
ふと、アウラと話していたクレリック――イラが俺のほうを向いた。アウラとルカもこっちを見たので、来いということだろう。
渋々ながら俺も合流する。
「お久しぶりです、ヴィゴさん。見てましたよー、凄かったですねぇ」
イラがのんびりした口調で言った。シャインにいた頃も、彼女だけは俺に対して当たりが強くなかったから、まだ話せる。
「お、おう」
でも緊張しちゃうんだよな。
「おかげで、助かりましたぁ。ありがとうございますー」
ペコリと頭を下げる彼女。……何かふわふわして変わんないなあ。
「まあ、無事でよかったよ。うん。それで――」
膝を抱えて震えている魔術師エルザと、いまだ横たわっているアルマを見る。
「こっちは……?」
「アルマさんは、見ての通り意識がありません」
「死んではいないけどね」
アウラが三角帽子の端を掴んだ。
「ただ、しばらく体は動かさないほうがいいかもね。かなり強打してたのを、何とか治癒魔法で持ちこたえたみたいだけど」
「それで……エルザは?」
焦点がまるで合わない。というかガタガタ震えたまま、周囲のこともまるでわからないようだった。
「よっぽど怖かったんでしょうねぇ。実際、もうちょっとで甲虫型に食われるところでしたからー」
「彼女は駄目かもしれない」
精神的なショックが大きすぎて、体は無事でももう冒険者としては終わったかもしれない。こればかりは回復魔法の類いではどうにもならない。
「で、後のふたりは?」
ルーズとナウラは? 俺が聞くと、イラはため息をついた。
「ナウラさんは、先日、シャインを抜けました。エルザさんと大喧嘩したので。ルース、いえルーズは――」
言い直した? しかも呼び捨て?
「逃げました。仲間を見捨てて」
「逃げた!?」
え、それは……。めちゃくちゃヤバいやつじゃない? 仲間置き去りとか、もうパーティー追放待ったなしの行動だろ!
しかもルーズの奴は、パーティーリーダーだから、もうパーティー崩壊ものの失態だ。アウラとルカも苦い顔になっている。
「そんなわけですから、『シャイン』は終わりですねー。おそらく今、活動できるのはわたしぃだけですけど、わたしぃはリーダーじゃありませんしー」
「……そうか」
やられてしまった、ではなく、逃げてしまったか。魔物に恐れをなして逃げるってのは、まったくない話じゃないけど、パーティーリーダーがメンバーを放ってそれやったらおしまいだよ。
それで最後に――俺は、少し離れたところで、佇んでいる白狼族の少女を見る。他の白狼族の姿はない。逃げたのでなければ、おそらく彼女が最後の生き残りだろう。
手招きすると、少し戸惑った後、こちらにやってきた。大丈夫かと声を掛けたら、小さく頷いた。自己紹介すると、『ディー』と名前だけ答えた。ここには白狼族の遺体もあったから、彼女もショックを受けているんだろうな。
「とりあえず、王都に帰ろう」
デカブツは仕留めた。小さいのはまだいる可能性もあるが、戦闘力を喪失した生き残りのコたちを放置するわけにもいかない。
そもそも、イラに、エルザとアルマを運ぶなんて無理だし。
アウラに、木の魔法とかで人を寝かせられるサイズの板を作れないか相談。彼女はドリアードの力で木を作り板状にしてくれた。
それに意識を失っているアルマを横たえ、俺が持ち上げる。エルザは放心したまま動かないので、同じく板を作り、そこに座らせて運んだ。
ルカが手伝ってくれようとしたけど、片手でひとりずついけるから、警戒のほうを頼んだ。
帰りに、冒険者に二組遭遇。クソデカ蛇の化け物がぶん回されているところが遠くからも見えてやってきたらしい。
俺はでかい邪甲獣はいないが、小さいのがまだ、あの辺りの穴に潜んでいるかもしれないとだけ注意した。
そして、俺たちは王都に帰還した。
・ ・ ・
冒険者ギルドに行って、クエスト報告。毎度のことながらロンキドさんの執務室にて一部始終を伝える。
「アナタにも見せたかったわ。ヴィゴったら蛇の尻尾を掴んでバンバン叩きつけたんだから!」
アウラが得意げに話す。大型邪甲獣と甲虫型、それらの撃破と、現場の複数の穴には、まだ敵が潜んでいる可能性を報告しておく。
そして、現場にいた白狼族のパーティーが、ディーという少女を残して全滅したことを伝える。するとロンキドさんのほうで王都の白狼族に説明しておくと言ってくれた。
最後にシャインの顛末と、そのリーダー、ルーズ――ルース・ホルバの逃走の件。
「然るべき処分が必要だな」
ロンキドさんは淡々と言った。残念ながら冒険者であれば、この手の話がこれで初めてではない。よくてランクダウンと謹慎や罰金。悪ければギルドからの除名、追放処分だろう。
「ともあれ――ヴィゴ、よくやってくれた。お前は、たった今からBランクだ。おめでとう」
「おめでとうございます、ヴィゴさん!」
ルカが喜んだ。アウラがギルドマスターを睨んだ。
「けち臭いわね。Aランクくらいにあげなさいよ。ヴィゴはそれくらいの働きはしたわ」
「彼については先日、ランクを上げたばかりでしてね。こうも早く昇格するのも珍しいんですよ」
「話をすり替えないで。……まあいいわ。ヴィゴ。おめでとう」
「ありがとう」
いやあ、Bランク冒険者だ。こうも早く昇格できるとは! やったぜ!