地面の穴に巨大蛇型邪甲獣が引っ込む。
甲虫型を倒しても、あのデカブツをどうにかしないと意味がない。奴が飛び込んだ穴を追いかける? それとも、また出てくる時を狙うか?
「それより、こんな前に出てきていいのか、アウラ?」
あんた魔術師だろう?
「さあて、どうかしら?」
そのアウラは挑発的な笑みを浮かべた。
「前世は魔術師だったけど、ワタシ、前から前衛職もやってみたかったのよね」
シュッ、と彼女が腕を振ると、種のようなものが飛んだ。それが空中で尖った木の枝になり甲虫型に突き刺さる。ただし、表面に刺さった程度で、ダメージを受けてなさそうだ。
パチン、とアウラが指を鳴らす。すると邪甲獣は力が抜けたように、その場に倒れ込んだ。
「何をした?」
「体内を枝が伸びていって食い破ってる」
「えげつなっ!」
体の中へ攻撃とか、背筋が震えたぜ。
「ルカ、その子をお願い!」
アウラが倒れている女戦士――アルマの救助をルカに頼んだ。大柄のルカは力があるから、女の子ひとりを運ぶくらい難なくこなす。
またも震動。
「来るぞ、デカブツが!」
どの穴からだ? パッと見、四つくらい大穴が見えるが。
「足元! ヴィゴ、下よ!」」
アウラが飛び退いた。下ぁ? 穴じゃないのか!
慌てて移動するが、揺れが強くなってきて、うまく走れない。しかしわずか数歩だけの移動が生死を分けた。
地面を突き破った巨大蛇型邪甲獣の吹き飛ばした土砂を受けて前へ倒れ込む。移動していなかったら、奴に食われていたか、お空高くへ跳ね飛ばされていただろう。
「くそっ」
土に手をつき、起き上がる。被った砂が落ちて、一瞬、口の中に入った。天に昇るように出てきた巨大蛇型邪甲獣が、今度は一転して降ってくる。
アウラの巨大丸太が、邪甲獣を横合いから付いたが弾かれてしまった。邪甲獣は構わず大口を開けて、俺のほうへ突っ込んでくる。
本能的に、今から避けようとしても逃げ切れないのを悟る。口の中か、潰されるか。魔剣をジャストのタイミングで振るうのは無理!
「ダイ様、巨大岩石!」
魔剣の収納庫から出てくるのは、以前の白狼族の集落へ行った任務中に道を塞いでいた巨大岩。そいつを持てるスキルで持ち上げて――
「これでも食らえってんだ!」
そのでかい大口に食わせてやる、巨大岩! 一瞬、ズシリと重みを感じたが、ほんの刹那。すぐに衝撃も消えた。俺の持てるスキルを舐めるなよ。ひとたび持ってしまえば、重量も衝撃も関係ないんだからな!
「ヴィゴさん!」
「ヴィゴ!? ……って、すっご」
ルカ、アウラの声が聞こえたが、すぐに驚きに変わる。俺は構わず、岩を仲間たちのいない方向へ軽く両手投げ。すると岩に食いついた巨大蛇型邪甲獣の体もポイッと放り投げられた。
超巨大蛇が宙を舞った。軽く放り投げたので、そこまで遠くには行かない。だが地面に激突した時のショックは大きく、軽く地震が起きた。
俺は魔剣を手に、ぶっ飛んだ巨大蛇型邪甲獣を追う。というかデカ過ぎて、尻尾の部分がすぐそこにあった。何かのたうっているので、あまり近づくと吹っ飛ばされそう。
しゃあなし。魔剣を置いて、うねる尻尾を――キャッチ! 持てるスキルがなかったら、掴むどころじゃなかった。
が、一回掴んでしまえばこっちのもの。巨大蛇型邪甲獣を持ち上げて、振りかぶってっ!
「よーいしょっとォ!」
地面に叩きつける。衝撃が辺りに広がる。まだ動く気配があるな。もう一丁ッ!
振り上げて、振りかぶって、地面に振り下ろす。大岩咥えた頭を大地に叩きつける。何度も、何度も、お前が動かなくなるまでよぉ!
最初はうねっていた邪甲獣だが、勢いよく振り回して叩いているうちにその体も伸びてきた。いいぞ、段々叩きつけやすくなってきた。
「無茶苦茶だわ……」
アウラの声がした。何度叩きつけたか、特に回数は数えていないが、ようやく大人しくなった。ふぅ、やれやれ手こずらせやがって。
動かなくなった巨大蛇型邪甲獣を置いて、俺は魔剣を取ると、奴の頭のほうへ移動する。アウラもルカもついてきた。
「あんな化け物をぶん回すなんて、どんな怪力よ」
「デカって言ったって、ダイ様ほどじゃないさ」
アウラの本体の木だって持てるし、ダイ様なんて自称6万4000
「ダイ様、コイツくたばったかな?」
まだ生きているなら、トドメに魔剣で頭潰しておくけど。
『いや、死んだだろ。持ち帰るよな? 収納するぞ』
あれだけ巨大だった邪甲獣が、ふっと消えた。俺は鞘に魔剣を収めると、体についた砂を払い落とす。さっきモロに砂や土を被ったからな。風呂入りたい。
「ワタシも前世では、大概にしろって言われたもんだけど」
アウラが腰に手を当てて、苦笑している。
「アナタは規格外だわ。ぶっ飛んでる」
いやいや、ドリアードを狙って転生したあんたも相当イカれていると思うが。
「ワタシもこういうヤツが仲間に欲しかったわ。今後ともよろしく、ヴィゴ」
「どうも。アウラも充分変な奴だと思うぜ」
丸太ぶつける魔法なんて聞いたことないぜ、ほんと。
とはいえ、さすがにあれだけ巨大な邪甲獣をぶん回すとか、変人適性ありそうなアウラはともかく、ルカとかドン引きされちゃったかもな。
そのルカも、腰に手をあて、どうしたものか、と苦笑いしているように見える。俺の視線に気づくと、彼女は近づいてきた。
「私も、怪力女とか、散々言われましたけど、ヴィゴさんには負けます、ええ」
俺の前に立つルカ。やっぱデケぇ……。その彼女は両手を広げた。
「とりあえず、ハグします」
「どうぞ」
ルカが俺を抱き締めた。
「よくご無事で」
「ありがとう」
俺もスキルがなかったら、たぶん死んでたかも。少なくともあの化け物は倒せなかった。
「おうおう、お熱いわねぇ、ふたりとも」
クスクスとアウラが笑えば、ルカが赤面して俺から離れた。
「ち、違いますからね! これは、そういうのじゃなくて!」
そうね、ルカさんは背の高い人が好みですもんね。わかってますわかってます。
「仲間だもんね」
俺が言えば、ルカも。
「そうです! な、仲間ですから……」
消え入りそうな声で恥ずかしがる彼女は、可愛い! 眼福なり。