「ほぇー」
ルカは居間の半分を占領している木を見上げて、改めて緑髪の美女アウラさんを見た。
「ドリアードですか。木の精霊の」
「そう」
葉のような緑髪をかき分け、アウラさんは、自らが作り出したソファーなる椅子に腰掛けている。
その格好は肩の出た東方風の衣装で、下はミニスカートのせいか全体的に肌面積多め。……少なくとも感性は若い。間違っても、ご年配要素は微塵もない。
昨晩、聞いた話をルカとも共有する。それで、これからの話だけど。
「そうねえ、ワタシは家にいるのも飽きたのよね」
どこか気怠けにアウラさんは言った。
「転生して、若く長生きできるドリアードになったのはいいけれど、動けないのでは意味がないわ」
足を組み替える。綺麗なおみ足。
「でも、ヴィゴ君とダイ様のおかげで、ワタシは外の世界に出歩く方法を手に入れた!」
本体のドリアードの木を収納庫に入れることで、この家の外だろうが、俺とダイ様が行くところ、どこにでも行けるようになった。ちなみに、ダイ様は俺がいないと動けないので、収納庫だけでは意味がない。
「聞けば、アナタたち冒険者だそうね。いいわ。ワタシをアナタたちのパーティーに加えなさい。伝説のSランク魔術師、アウラ・ルシエールが力を貸してあげましょう!」
「……どう思うルカ?」
俺は、パーティーを組んでいる彼女に確認してみる。
「ルシエールさんは、ヴァレさんのお師匠様でもあるんですよね?」
「うん、腕については間違いないと思う」
実は昨夜、お互いの紹介の後、建物内にヴァレさんが設置した警戒魔法を見て、アウラさんは機嫌が悪くなった。
『なに、このへったくそな魔法文字は!? いえ、待って……この癖のある字、覚えがあるわ――』
そう言った後、アウラさんは弟子でもあったヴァレさんを思い出し、あれこれ昔のことを語りながら警戒魔法を新しくやり直していた。
おそらく、このドリアードが、ヴァレさんが言っていた『ルシエール婆さん』で間違いないだろう。
「リーダーであるヴィゴさんは、どう思います?」
俺が聞いているんだけど、リーダーとか言われちゃうと答えないわけにはいかないよな。……どっちが上とか決めてなかったけど、そういえば俺が代表みたいに事務やってるからリーダーでいいのか。
「俺としては、ありだと思ってる。俺は前衛だし、ルカは距離を選ばないオールレンジファイターだけど、基本物理アタッカーだからな」
パーティーのバランスを考えると、魔法が使えるメンバーはいたほうがいいと思うんだ。
俺も魔法を覚えたけど、まだまだド素人。伝説の魔術師なら、この物理コンビに欠けている部分を補えるだろうし、あわよくば魔法について教われるかもしれない。俺としては拒む理由がなかった。
「それにこの家、元はアウラさんのだし、これで避けるってのは無理だと思う」
好意的なら、そのほうがいい。たぶんアウラさんとは同居することになるだろうし。
「なら、それでいいと思います」
ルカは同意した。そこで、ダイ様がムスッとした。
「お主は我には聞かないのか?」
「反対?」
「いいや」
「じゃあそれで」
「早っ!?」
ダイ様のご了承もいただけたので、俺はドリアードの魔術師に向き直った。
「よろしくお願いします、アウラさん」
「んー、そのアウラ『さん』は止めて。せっかく若くなったのに、年上扱いされるのは面白くないわ」
ルシエールさんも、よ?――とルカを、アウラさん……アウラは指した。
「いい? 仲間なんだから、呼び捨てでいいわ。ワタシもそうするから」
「わかった」
年上扱いって言うけど、今の若い美女姿も20代半ばくらいで、俺らより若干年上っぽいんだけどな。お姉さん!
少なくとも、この人の前で年齢ネタは禁句だろうな、うん。
「じゃあ、よろしくね!」
アウラは元気よく言った。
・ ・ ・
アウラがパーティーに加わることになった。彼女も改めて冒険者になるということで、冒険者ギルドで登録することになった。
「そういえば、アウラのその装備って――」
俺は、ドリアードさんの姿を改めて見る。魔女を思わすつばの広い三角帽子。服装は先ほどと同じ東方風の衣装とミニスカート。足元はロングブーツで、どこか開放的魔女風味が強い。色合いは緑メインに黒と、その辺りはドリアードを感じさせる。
「あー、これ? 全部魔力で作ったのよ」
服など家には残っていなかったのに、ちゃんと着ているから不思議に思っていたのだ。
「魔力で?」
「そ。だから、衣装や装備も自由に変えられるのよ」
魔女っ子帽子の色が、赤、青、黄と次々に切り替わる。それを目撃した王都の住民が手品かと目を奪われている。
「凄いですね」
ルカが素直に驚いている。アウラはウィンクを返した。
「ありがと。ワタシくらいになると、これくらい造作もないわ」
さすがSランク冒険者にして伝説級の魔術師。痺れるねぇ。
「俺も魔法を覚えたてなんだけど、教えてもらっていい?」
「いいわよ。ドンと聞きなさい!」
そうこう言いながら、王都冒険者ギルドへ。フロアにいる冒険者たち。近くの者が、さっそく美人であるアウラへと視線を向けている。
「うーん、さすがに久しぶり過ぎて、雰囲気変わっているわねー。知らない人ばかり!」
「楽しそうだね」
「そりゃあもう。今は歩き回れるのが楽しくてしょうがないわ」
十年も同じ場所に留まり続ければ、勝手知ったる王都カルムも違って見えるようだ。
「じゃあ、さっそく登録しましょ。ヴィゴ、ルカ、ついてきて!」
「付き添いいる?」
「連れないわねぇ。同じパーティーメンバーになるんじゃない。いないと困るわ」
「そうでした」
じゃ、さっそくカウンターへ。受付嬢が俺に気づいた。
「あ、ヴィゴさん、おはようございます。ギルドマスターが、来たら呼べと言っていました」
また? 前もそんなことがあったな。
「わかった。でもその前に、この人の冒険者登録と、パーティー加入申請の手続きやってもらっていいかな?」