木を片付けたことで、リビングルームが広くなった。木が生えていた部分がぽっかり穴が空いているが、この下は地下室ではなかったか。
そう思い、穴のほうの土を少し掘ったら石材にぶつかった。おそらく地下室の天井だろう。それなら、この穴は埋め直して床を貼り直さないといけないな。
俺とダイ様が木を処理している間に、ルカとウィル、ヴァレさんは1階南東のテラス部屋とリビングに隣接する台所周りを改装して、調理用魔道具を設置していた。
「ヴィルさん、キッチンをだいぶ使いやすくしましたよ!」
ウィルが声を弾ませた。
「うちと同じようにやったので、たぶん慣れないかもしれないですが、断然こっちのほうがいいですよ」
魔石式のコンロに、水生成タンク、冷蔵庫、照明などが設置され、それらが動くようになっていた。
ヴァレさんが、早速キッチンに立った。
「私とルカちゃんでランチを作ってあげるから、ヴィゴ君とウィルは他の部屋をお願いね」
魔女さんはアイテム袋だろうそこから、食材と愛用の包丁や調理板を取り出す。
「ルカちゃん、手伝ってくれる? コンロの使い方とか教えるから」
「ありがとうございます!」
それ、俺も覚えないといけないやつじゃ……。ルカがここに住むわけじゃないし。まあ確かルカも魔石式コンロをもらっていたし、いいか。
俺はウィルと他の部屋を回る。俺の部屋をまず決めないとな。2階に上がる。南側の部屋はベランダになっていて、寝室には不向き。では北側だが、北東側は風呂部屋にすることにした。
というか、風呂だったんだろうなって内装だったんだもん。バスタブがあったし。しかし排水口はあるが、どこから水を持ってきたのか見当がつかない。水が出る仕掛けは見当たらず。
「水の魔法じゃないですか?」
「なるほど。そういえば、ここの持ち主って魔術師だったもんな」
ヴァレさんのお師匠だったというルシエールという人。そっか、水関係は魔法で作ればいいんだ。俺も少しは水魔法が使えるから、飲み水出したり、風呂の水を出すとかできるかもしれない。
残る北西部屋は倉庫っぽいので、寝室としてはパス。3階へ移動する。角の四つの部屋は寝室などによさそうだった。南側の部屋は窓を開ければ庭と敷地を囲む壁と門がよく見えた。
「ここを俺の部屋にしよう」
南東側の部屋を使うことにする。ベッドや椅子、クローゼットなどを買って、部屋を装飾して行こう。俺だけの部屋! わくわくすんなぁ。
・ ・ ・
ルカとヴァレさんが、ラム肉のステーキに肉と豆のスープを作ってご馳走してくれた。
「うまい……!」
「ラム肉もいいですよ」
「その肉、ルカちゃんが焼いたのよ。見てたけど、この子焼き加減が凄く上手なのよ。勉強になったわ」
「いえいえ。小さい頃から肉料理が多かったので」
和やかな雰囲気で食事。やっぱいいなあこういうの。俺も早く彼女を作って、家族とかもって……。
ルカはどうだろうか? パーティー組んでいるし、俺にも凄く優しいんだよな。まあ、優しいっていえば、ロンキドさんの奥様方もだけど。
身長差があるのが少々気になるところだが、性格は申し分ない。料理も上手い。聞いてみようかな……。今度、ふたりの時に。さすがにヴァレさんやウィルの前で聞けない。
そういえば、とヴァレさんが言った。
「魔剣の収納は凄いのね。あんな大きな木までしまえるなんて」
「見てたんですか……って、ああ」
リビングを見れば、そこにあった木が消えたくらいは一目瞭然である。
「あの木、どうするの? どこかに移すの?」
「どうしましょうね……。考えておきます」
いざという時、武器代わりに放り投げる手もあるかもしれない。
食事休憩の後は、ヴァレさんが建物に、侵入者対策の警戒魔法陣などを施していった。ルカが掃除をしてくれている中、俺とウィルは寝具などを買うために王都へ出た。
部屋に使うベッドや椅子にテーブル、その他不足する家具を購入していく。調理用の道具もいるなあ。金はある。好きなものを買うぞ!
移動しながら、ウィルが雑談を挟んできた。
「先日、ヴィゴさんからもらった邪甲獣の装甲ですけど、恐ろしく硬いですよ」
今のところ、魔法も武器もまるで通用しないらしい。俺が大蛇型に魔法をぶつけた時は、金属部分ではなかったが効いている様子はなかった。元々、魔法に強いのだろうと言えば、ウィルは首を横に振った。
「あの装甲はそれ以上ですよ。あれで防具を作れたら、おそらく最強の防御性能を持つんじゃないでしょうか」
今のところ、加工する手すらないそうだが。
「……邪甲獣と戦う時は、そこを避けて攻撃しないといけないな」
「そうですね」
頷いたウィルだが、チラと後ろを見た。
「気づいてますか、ヴィゴさん」
「ん?」
「僕ら尾行されているかもしれないです」
「というと?」
賑わう王都の街並み。その中に、長い緑色の髪の美女がいた。紫色のローブに魔女の三角帽子。
「綺麗な人だな」
はっきり言って魅力的。人を惹きつける美貌を持ちながら、しかし周囲に媚びを売るでもなく、落ち着いた雰囲気をまとっている。道行く人も、自然と目で彼女を追っている。
「あの人、さっきから僕たちの後ろにいるんですよ。つかず離れずの距離で」
ウィルは言った。
「いつから?」
「ヴィゴさんの家を出て、割とすぐだったと思います」
そんな前から? 俺としたことがウカツ!
「別に隠れるわけじゃないですけど、僕らの行くところについてきているみたいなんですよね……。心当たりあります?」
「ない」
あんな美人の知り合いがいたら、忘れないんだけどな。
「声、掛けます?」
「なんて?」
俺、あんな美人に町中で声を掛ける勇気ないぜ? そもそも、本当に尾行しているのかわからないのに。偶然の一致という可能性もまだある。
「もし、家に戻るまでついてくるなら、その時は聞こう」
少なくとも、住民たちも気になって彼女が注目されているうちはムリだ。
しかし、もし尾行されているとしたら、それって俺なのかな? 王都を邪甲獣から守った冒険者に声を掛けたいとか? つまり、俺のファンの可能性。……ないかー。