俺はモテない。モテたことがない。
平凡過ぎるルックス。ある人からモブ臭いと言われたが、要するに地味で目立たないということだ。
『シャイン』に所属していた時、カッコイイ装備をまとう仲間たちを真似てみたことがあるが、田舎者が背伸びした感じで似合うとは思えずやめた。
冴えない男は、多少お洒落しても駄目だということだな。
しかしそんな冴えない男でも、Sランク冒険者ともなれば話は変わってくる。強い英雄ならば、こんなモブだろうがモテる。
そう信じて、俺は目標を、Sランク、最低でもAランクの上級冒険者になることに定めた。ランクを上げてモテてやる! ハーレムを目指すわけではないが、俺を好いてくれる女の子と親密な関係になりたい!
魔剣を手に入れ、邪甲獣というやばい魔獣を退治した。すべては持てるスキルのおかげだが、ここに来て魔法も使えるようになっている。
風は吹いている。後は強くなりつつ、突き進むのみだ!
というわけで、冒険者としての本業に取りかかる。仕事をして、成功を積み重ねてランクを上げるのだ。
充分な成果を上げて実力を認められれば、Aランクまでなら努力次第でなれる。
もちろんこれは実力がなければなれない。志半ばで倒れたり、治癒魔法でもどうにもならない怪我で引退ということもある。その道は才能や能力がなければ険しすぎる道なのだ。
ランクが上がれば、より困難なクエストを受けられるようになる。難しいが成功させればリターンも大きい。運がよければSランクに昇格できるようなクエストにぶつかることもある。目指せ、Sランク!
まずは、自分の能力を実戦で確認する意味も込めて、最近流行りの邪甲獣ダンジョンへ行く。
俺とルカ、ダイ様は冒険者ギルドで、まずダンジョンの情報の下調べをした。初めて行くダンジョンである。可能な限りの情報収集と対策が自分を助けるのである。
「――えーと、出現するモンスターは、スライム、ワーム、スパイダー、キラーバットが主みたいですね」
「洞窟に普通に住み着いたみたいな取り合わせだな」
巨大邪甲獣が通ってきた大穴がダンジョンになったというから、もっと変なのが出てくるかと思ったが。
「人が入らねば、そのうちゴブリンなどが住み着いたかもしれんなぁ」
ダイ様が言った。ダンジョン情報の貼り紙を見ていたルカが言う。
「邪甲獣が出るみたいですね。小さい個体らしいですけど……懸賞金がついてますね」
「狙い目はこいつだな」
冒険者がダンジョンに行くのは、財宝探しだったりモンスターの討伐だったりだが、魔物の素材は冒険者にとって主な収入源となる。
魔物素材、その体内にある魔石などを換金することで日銭を稼ぐ。主な出現モンスターがこれといってレア感もなく、素材も魔石を除けば安いものばかりで、これだけならあまり旨味がないが、邪甲獣が出るなら話は変わってくる。
いまもこのダンジョンに行く冒険者たちのターゲットも、大方この邪甲獣だろう。レアものは金になるから。
「それにしても――」
ダイ様が、ダンジョン情報の貼り紙を睨んだ。
「よくもまあ、こんな情報が出ておるのぅ。普通、こういうのは後から入る奴らが楽して美味しいところをかっ攫うのを避けるために秘密にしておくものだろうに」
「ダンジョン情報は金になるからな」
俺はダイ様に教えてやる。
「冒険者の中には戦闘より探索が得意な奴もいる。そういう奴がギルドにダンジョンの情報を持って帰るのさ。掲示板にもダンジョン情報を集める系の依頼が出ている」
「ほう、そうなのか」
「ギルドにしても、無茶な突撃で冒険者を失いたくないからな。ランク判定のためにも、初見情報はそれなりの報酬が貰えるんだぜ」
「なるほどのぅ」
「先行者には頭が下がるよ、ほんと」
マップや罠の存在、その種類がわかるわけだから。場所によってどういうモンスターがいるかの傾向がわかることもあるしな。
そんなこんなで、先人たちのありがたーい情報を確認した後、特に道具を買い足す必要もなさそうなので、俺たちはダンジョンに向かった。
・ ・ ・
「でっか!」
「おおきいのぅ」
「改めてヴィゴさんが倒した邪甲獣の大きさがわかりますね」
俺たちは、地面に開いた大穴を見下ろす。斜めへと伸びているそれは北側からなら、ロープなど必要なく徒歩で入れた。
ちらほら、冒険者の姿が見える。パーティーで戦果確認かあるいは打ち合わせか。別の冒険者は仲間と談笑していたりする。まだ入り口だけあってモンスターはいない。
ごつごつした斜面を下りつつ、奥を目指す。
ダイ様は剣に戻る。ぶっちゃけ少女姿のダイ様に何か力があるわけでもないのだ。せいぜい攻撃の当たらないオトリにはなりそうだが、子供を盾にしているようで見映えはよろしくない。
深くなるにつれて暗くなっていく。ふと、ルカが弓を構える。正面から足音がした。冒険者たちだ。
「どけどけ! どいてくれ!」
先頭の男が声を張り上げる。どうやら負傷者を抱えているようだ。道を空けると「すまん!」と先頭の冒険者が言いながら、怪我人を抱えて一団が通過していった。
「モンスターですかね……」
「だろうね」
『だろうな』
足早に去って行く冒険者らを見送り、俺たちは奥へと進む。
そして現れるモンスター。
「スライム!」
プチンと魔剣で潰れた。スライムってこんな簡単に潰れないんだけどなあ。
物理防御力が高いスライムは俺たち戦士系には手強いモンスターだ。一方で炎に弱いので、魔術師が初歩の火属性魔法で蹴散らすのが定番となっている。
「……さすが魔剣ですね。私、こんな簡単にスライムが剣で倒されるの初めて見ました」
ルカも苦笑している。
さすが6万4000トンの超弩級重量魔剣。スライムだってプチ殺だ。
特に取れるものがないスライムだったものは放置して、先に進む。ワームが突然地面を突き破って襲ってきたが、俺は魔剣、ルカはロングソードで対応。魔剣の一撃は当たり前として、ルカの斬撃の威力も高く、一振りで2メートル超えのワームを両断していた。
……倒した後も、しばらく体が動いていたのはさすがワーム。気持ち悪い。
そろそろ奥が見えてくる頃か、と思っていると、前方からまたも人の気配がした。
案の定、冒険者たちだったが……何だ、いっぱいいる?
「おい、お前。奥には行かないほうがいいぞ!」
通りがかりの冒険者が言った。
「奥にやばい奴がいる。滅茶苦茶強い」
その冒険者が逃げるように去ると別の冒険者が言った。
「あれも邪甲獣なんだろうが、聞いたことがない個体だ。奥で何人かやられちまったよ」
負傷した冒険者もいた。装備を放り出して逃げてきた者もいるようで、丸腰の者までいる。照明の魔法を使っている者もいたが、薄暗いことに変わりなく、よく見ないと誰かわかりにくかった。
ルカが退避する冒険者たちを見やる。
「どうします、ヴィゴさん」
「慢心するつもりはないけど、相手も確認せずに下がるってのもな」
俺たち、一応、邪甲獣を倒しにきたわけだし。
「まずは確かめてみないとな」