「ほうら、両手を頭の上に広げて! 避けたら頭に直撃で死ぬわよー!」
「ヴァレさん!」
「サンダーボルトっ!」
雷が落ちた。両手を広げて頭の上に屋根代わり。かなり手加減してくれたと思うのだが、マジこえぇぇ!
「すっご!? 見てみて、雷が手に乗ってるわ」
「うわあ、雷ってこんなトゲトゲしいの? 初めて見たわ」
「ねー。こんなの滅多に見れないわよ!」
ヴァレさんとモニヤさんが声を弾ませている。ルカが屈んで、俺の顔を覗き込んだ。
「ヴィゴさん、大丈夫ですかー?」
「死ぬかと思った……」
生きた心地がしない。
電撃の魔法をやる前に、火の魔法とかで試して大丈夫だったからなんだろうけど、好き好んで魔法の的に志願するものじゃない。
ヴァレさんの魔法のコントロールが神業だから、ちゃんと俺の手のひらに乗るように当ててくれているんだけどさ……怖いものは怖いよッ!
さて、俺の手には雷が静止した状態で乗っている。持っている手は無傷で、痺れることも熱も感じない。本当ならこの周りにも電撃が弾けているんだろうけど、手の上にある限り、顔とか体に当たる様子はない。よく見ようと顔を近づけない限りは大丈夫そうだ。
あまり干渉すると、水塊が崩れたように維持できなくなると思うから、露骨に近づかない。でも耳元でパチパチ音はしていて、あまり気分のいいものではない。
「やっぱ、これ、投げたら、雷を投げることになるんですかね?」
「さっきのファイアボールが、まさにそれだったからね」
ヴァレさんは腰に手を当てる。
「投げられるなら、魔法をぶつけてやることもできるでしょうけど、使い道は限られるわね」
「そもそも自分で魔法が使えれば済むわけですからね」
モニヤさんは目を伏せた。
「相手が攻撃してきた魔法をキャッチして投げ返す……くらいかしらね」
「実戦だと難しいわよね、それ」
ヴァレさんは小首を傾げる。
「だって盾とかで防いだほうが楽だもの。キャッチし損ねたら魔法を食らうわけだし。飛んでくる魔法を掴もうなんて、正気の沙汰じゃないわ」
俺は両手で雷を覆うように持つ。そして空に向かってバッと放すと、雷が飛んでいった。
「とはいえ、魔法でさえ持てるなんて、面白いスキルよね」
ヴァレさんは言う。雷の前は、火の玉を持っていたが、燃えるものがないのに、手のひらの上で火が揺らいでいた。
「こうまで来ると、もうひとつ試したいわね」
「いったい何よモニヤ」
「光の魔法」
モニヤさんが微笑した。
「火だってその場にあって、雷もそうだった。なら、光も持てると思わない?」
「雷が持てたのだから、光も持てるかもしれないわね。やってごらんよ、モニヤ」
「では――」
元プリーステスのモニヤさん。得意魔法は光属性の魔法。
俺は無言で、雷の時同様、両手を上に向けた。そして頭上から白き光が落下してきた。
・ ・ ・
結果を言えば、光の魔法も俺の手に持つことができた。
ヴァレさん曰く、『照明の魔法みたいね』。ふつう光は物に当たって反射してしまうものだが、俺の手の上で止まっていた。これも一応、持ったことになるようだ。
しかし、どういう理屈でそうなるのかさっぱりわからない。神様から授かったスキルの力は、人間ごときの頭脳では理解できないのかもしれない。……神業!
持てるスキルは、普通は持てないものすら持てる。
「見えないものだって持てるかもね?」
「見えないんじゃ、持ってるかどうかわからないんじゃないですか?」
「でも光だって持てるんだから、可能性はあるでしょ? もしかしたら、実体のない幽霊だって持てるかも!」
「まさか……」
いやいや、さすがに触れないものは持てないんじゃないか? それとも何でも持ててしまうのだろうか? 神のスキルだ。滅茶苦茶なものにでも有効だったりするかもしれない。
「でもまあ、今のところは重いものを振り回すのが無難なところね。ヴィゴ君さあ、魔法は使えないの?」
「どうですかね……。昔、ギルドで魔力量測ってもらった時は全然だったので」
魔力がなければ魔法は使えない。人によって魔力の保有できる量は違うから、ないと言われたら魔法を覚えようとは普通はしない。無駄に終わるから。でも本音で言えば、魔法を使いたいんだよね……。使えないかなあ。
『お主』
「うおっ!?」
突然、ダイ様が声を出したのでビックリした。俺の反応に周りも驚いた。
『魔力量が増えたぞ』
「は?」
突然の言葉に、俺は魔剣を手に持つ。
「どういうことだ? 魔力が増えた?」
『うむ。なんか、知らんがカスだった魔力量がちょっと増えたぞ。お主、何かしたのか?』
「いや、特に何もしていないが……」
俺はヴァレさんに視線を向ける。ダイ様が魔力が増えたと言っているんですが……。
ヴァレさんとモニヤさんが顔を見合わせた。
「魔力量が増えたなら、威力はともかく魔法、使えるんじゃないかしら?」
「モニヤの言うとおりね。じゃあ簡単に魔法をイメージしてみましょうか。さっき、手のひらに火を持ったでしょう? そのイメージを――」
ヴァレさんの言われた通り、先ほど手に炎を持ったイメージを思い描いてみる。自分の中にある魔力を手のひらの乗せるイメージを重ねて。
ボッ!
「火がついた!?」
「すっごい、ねえモニヤ、見た見た!?」
「ええ、驚いたわ」
「凄い。ヴィゴさん、魔法を使えたんですね!」
ルカがパンと手を叩いて、顔をほころばせた。
「いや、俺のイメージを言っていいか? 魔法を使ったっていうか、魔法を『持った』というイメージでやったらこうなったんだが」
これを魔法が使えたと言っていいのか? 半信半疑の俺に、ヴァレさんもお宝を見つけたような目を向けた。
「あなた、本当に面白いわ。ちょっと言っただけでやってみせるなんて。魔法の素質を持っていたのかもしれないわね」
え……? 一瞬、俺は彼女の言葉に引っかかりを覚えた。魔法の素質を『持って』いたかも、って。
ふっと増えた魔力量。持てるスキル。手に持つだけが持てるではないのか……?