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第19話、Sランク冒険者の言葉


 厳めしく、冴えない眼鏡の小柄な男が、実は伝説のSランク冒険者だった。


 俺が冒険者を目指したのもロンキドさんの存在があったからこそだ。


 俺とルカはロンキドさんに誘われ、彼の家へと行った。奥さんが出迎えてくれた。……え? おく、さん……?


「昼には帰ってくると思って皆で用意したのよ」


 二十歳くらいのお嬢さんなんだが? 金髪碧眼の可愛らしい娘――ああ、きっと娘さんだ。


「おれの3人目の妻だ」

「奥さん!? 3人目?」


 結婚しているのは知っているけど、多妻とは聞いてなかったぞ。おいおい、マジかよ……。


 この人が伝説的な活躍をして女の子にモテモテなのは知ってる。だから冴えない俺も冒険者に憧れたんだけど……えぇ……。


 Sランク冒険者だけあって、屋敷とは言わないが豪邸に住んでいる。中に入れば、1人目と2人目の奥さんがいて、さらに10代半ばの子供がふたりいた。


 聞けば、他にも子供が4人いて、それぞれ成人しているらしい。


 第一夫人は、黒髪をショートカットにしたマリーさん。30代後半くらい。魔道具工房の娘だったそうで、今は趣味で魔道具作りをしているそうだ。


 第二夫人はヴァレさん。赤毛のロングヘア。なかなかお胸の大きな人で、魔術に長けるウィッチ。かつては宮廷魔術師だったらしい。……え、凄くない?


 そして第三夫人が、先ほど出迎えてくれたモニヤさん。20代に見えて30代だという。元教会のプリーステス……って、この人もそこそこ凄い立場だった人では。


「美人だろ」


 そっけなく、ロンキドさんは言ったが、それを聞いた奥様たちは一様に照れていた。冒険者だから、奥さんも元冒険者だったりと思ったけどそんなことなかった。


 そして、6人兄妹のうち、残っているふたりは、娘のニニヤと息子のウィル。


 ニニヤはモニヤさんの娘で、魔術師を目指している15歳。


 ウィルはヴァレさんの子だが、マリーさんの影響を受けて魔道具職人を目指しているそうだ。こちらも15歳。


「へえ、君が巷で有名な魔剣使いのヴィゴ君かー」


 自己紹介したら、さっそく邪甲獣退治をした時の話題になった。ニニヤちゃんから『魔法は使えますか?』と聞かれ、使えないと答えたらガッカリされた。


 ウィル君は、やはり魔剣が気になるようだった。


「後で見せてもらってもいいですか!?」

「いいよ。まあ、ちょっと、いやかなり重いから持つことはできないだろうけど」

「うわあ、やった! ありがとうございます!」


 素直な反応されると、こっちまで嬉しくなる。


 人数が多い家族のせいか、ランチも賑やかでお話しながらのお食事会。


「うわぁ、これ美味しいですね!」


 ルカが料理を褒めると、今回担当したというヴァレさんがご機嫌になった。


「あなた、料理するの?」

「ええ、家にいた頃からやっていたので」


 そうなのか。ルカって確か族長の娘って聞いていたんだけど、お嬢様っていうよりはかなり家庭的なのかもしれない。


 なお体が大きいせいか、ルカは明らかに他の人たちより食べていた。幸せそうな笑顔を見ると、自分が作ったわけでもないのに、どんどん食べろと薦めたくなる。


 話題は今回のクエストになり、白狼族の話が出ると、奥様方の表情が曇った。


「それは大変だったわね」


 マリーさんが言えば、ヴァレさんが考え深げな顔になった。


「祠が壊されて集落も襲われたなら、王国に通報すべき案件じゃない?」

「もう送った」


 ロンキドさんが言うと、モニヤさんは不安げな表情を彼に近づけた。


「白狼族の方々は大丈夫? 教会の施設をあたりましょうか?」

「冒険者宿のほうに空きがある。住むところは大丈夫だが……悪いが、モニヤ。時間のある時に診てやってくれ」

「わかったわ」


 そこから話は、謎の黒い一団となる。


「――やっぱり、魔王復活を企む魔族?」

「いや、我々が戦ったのは、全員人間だったよ」


 オーガに変身した奴もいたけど。……と話したら、ヴァレさんが説明してくれた。


「邪法とは、禁忌の術ね。人に呪いを植えつけるのが多いんだけど、今回の話からすると、魔物の血を取り込んで、自らの力としたものだと思うわ」

「魔物の血、ですか……」


 それって、やっぱ凄い? 何か、毒を食らうっぽくて、やってみようとは思わないんだけれど。


「失敗すると魔物の血に体を乗っ取られる危険な術よ。成功すると、その魔物の得意とする力を得られる。オーガだとすれば、力と耐久力ね。ただ、これは禁忌というだけあって、使えば己の寿命をかなり縮めてしまうわ」


 ……正しくないやり方で強くなっても早死にするだけ、か。怖い怖い。


「どこの連中かはわからんが、古の魔王に関係がありそうなのは確かだな」


 裏にいるのは魔族か、人間か。ウルラート王国にも通報し、情報収集に努めるそうだ。


 話は、オーガを一撃で倒した俺へと移る。


「教会で毎日、お祈りをしていたら、重いものでも持てるスキルを手に入れました」

「熱心な信者なのね。大変よろしい!」


 元プリーステスというモニヤさんが、大変満足そうに頷いた。ヴァレさんが皮肉げな顔になった。


「神様が、信心深い者に力を授けることがあるって噂は聞いたことがあるけど、まさか本当にそんな人と会うなんてね。教会の信者集めかと思っていていたわ」

「もう、ヴァレ! 教会は嘘は言っていないわよ」


 口を尖らせるモニヤさん。……うっ、偽シスター、嘘。あ、頭が……。


 ヴァレさんはますますからかう顔になる。


「どうかなー。教会にいる人間が全員、清く正しい人ばかりじゃないでしょ?」


 苦笑して話を聞いているマリーさんとルカ。

 ロンキドさんが俺に言った。


「お前のスキルについては、いろいろ試したほうがいい」


 重いものを苦もなく持てるスキル。超弩級重量魔剣や巨岩を持つ以外にも、いろいろと持ってみてやってみろ、とギルマスは助言した。


「何が、どこまで持てるのか。自分の力を知っておくことが大事だ。それによって、戦闘スタイルやできることも変わってくる」

「はい」

「おれは、お前は有力なスキルを持つ有望株だと思っている」


 その言葉に、俺は驚いた。伝説のSランク冒険者から認められた!?


「今後、世界はきな臭い方向に流れていくかもしれんが、いざという時には頼れる奴は多いほうがいい。お前は伸びしろがある。自分を伸ばせ。わからないことはおれや妻たちが相談に乗る」

「はい!」


 マジかよ! いま俺、滅茶苦茶うれしい!


「自分に出来ることと出来ないことを見極めろ。そして出来ないことについても、それがどうあっても出来ないものか、あるいは練習すれば出来ることかを考えろ。おれはそうしてきた」


 そこでロンキドさんは、ワインの入ったカップを口にした。


「努力すれば、お前は俺以上の冒険者になれる。……そうしたら」


 ギルドマスターは顔を近づけ、声を落とした。


「女にモテるぞ」

「!? はいっ!」


 そうだ。この人、美人の奥さんが3人もいるのだ。冒険者として最前線で活躍していた頃は、もっと多くの女性が彼に好意を向けていたに違いない。


 こりゃ、うかうかしていられねえ! この持てるスキルは、磨けば本当に『モテる』スキルに変わるかもしれない。そしてランクを上げる! そした俺もきっとモテる男になれるに違いない!


 よし、やってやるぜっ!

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