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第16話、異変


 峡谷の道と呼ばれる左右を崖に挟まれたルートを通る。緩やかな登り道、草よりも土や石が多い荒涼とした地面だ。


「歩きにくいな……。やたらと石が散らばっているみたいで」

「そうですね」


 ルカは同意してくれた。ロンキドさんは無言で歩き続け、やがて立ち止まった。ルカが声を開いた。


「これは……岩が降ってきたんでしょうか?」

「たぶんな」


 道を塞ぐように巨岩が壁のようにそびえていた。


「迂回路はありますか?」

「道なき道でよければいくらでもあるが……。君たちはあの上まで跳べるか?」


 ロンキドさんは真顔だった。跳ぶとは……。高さは4、5メートルくらいはありそうだ。


「私には無理です」

「俺もあんな高さはジャンプできない」


 だけど――岩の1個や2個なら、何ともないかもしれない。


「ヴィゴ、何をするつもりだ?」

「持ち上げてみます」

「え? 無理ですよぉ」


 ルカの声を無視して、俺は大岩に触れる。そして持ち上げる方向へ力を出せば――ググッと岩が地面を離れた。


「……!」

「ええっー!?」

「こんなの、魔剣に比べたら全然」


 持てるスキル様々。6万4000トンの魔剣さえ持てる俺に、こんな石ころ朝飯前ってやつですよ。


「……と、持ち上げたはいいけど、これどうしよ?」


 道幅いっぱいに挟まっていた巨岩だ。脇に除けるとかできない。


「我が収納してやる」


 さすがダイ様、話がわかるー! 俺が持った大岩が、次の瞬間消えた。


「凄いです、ヴィゴさん!」

「いえいえ」


 これくらい軽いですよ。褒められて調子に乗っちゃうよ。


「いや、大したものだ」


 ロンキドさんまで。いえいえ、とんでもない。


「ちなみに、岩を軽々と持っていたが、重さは感じたか?」

「多少は。ただ重いものを持ったとかそういう感じじゃなくて、何か持っているなって感覚ですね」


 先を進みながら、俺は説明する。ふむ、と考える素振りをみせながら、ロンキドさんは地面の石をいくつか指した。


「大きさも重さも異なる岩を持ったとして、どこまで投げられる? 重さによって飛距離が変わるのが普通だが、君のスキルではどうなる?」

「やってみましょう」


 試したことがないから、早速やってみる。まず小石を投擲して距離を見る。その後、より大きな岩を持ち、投げてみた。


 その結果、ほぼ飛距離に変化なしだった。


「こりゃ、人間カタパルトだな」


 ロンキドさんはそう表現した。投石機で吹っ飛ばす大岩を軽々と放り投げることができる人間。カタパルト……なるほどねぇ。


「君の場合、重いほど威力が増すというところだな」

「そのようですね」


 魔剣のクソ重量アタックの威力は、巨大な邪甲獣をも仕留めた。規格外重量物の衝突だからこその攻撃力である。


「なら、いっそ盾も大型にしていいかもしれんな。取り回しを除けば、重さは感じないのであれば、防御範囲が広くとれる。多少、視界の範囲が狭くなるかもしれないが」

「装備の重装化ですか……?」

「稼働範囲に気をつければ、たとえばプレートメイルを身につけたとしても、君のスタミナには影響を与えず、服を着ているような身軽さで走れるわけだ」

「なるほど、参考になります」


 面白そうな指摘だ。ガチガチの防御力を、重量を気にしなくても手に入れることができるわけだ。


 いっそ盾を人間が持ち上げられないクソ重のものにするのもいいかもしれない。こっちは持てるスキルで自在に動かせるて、大抵の攻撃は無効。さらにシールドバッシュを仕掛けたら、敵が衝突死する。


「どうした?」

「いえ……」


 ロンキドさんに怪訝な顔をされてしまった。自然とニヤニヤしていたのを自覚し、笑みを引っ込めた。


 王都を出たのが遅かったこともあって、夜が近かった。今日はここで野宿。持ってきた携帯食をかじり、交代で見張り。峡谷から見える星空は綺麗だった。



  ・  ・  ・



 翌日、峡谷の道の一番上、台地の上に到着した。


 切り立った山がいくつもあり、また峡谷状の地形がいくつもあって、さながら迷路のようになっていた。


 ロンキドさんの案内で祠とやらを目指す。やがて、とある岩山にくりぬかれたような大穴があり、そこに祠だったものがあった。


「……」


 壊されていた。


「ロンキドさん」

「うーん、まあ、妙だとは思っていたんだ」


 眼鏡のズレを直すロンキドさん。


「この辺りを縄張りにしている白狼族の姿をまったく見かけなかったから」


 白狼族って言えば、白い毛並みの狼と人間を合わせたような姿の獣人族だ。そういえば、この辺りがそうなのか。ギルドでも近づくなって注意されていたのは。

 ルカが口を開いた。


「この祠は何です?」

「千年前、世界に暴虐の限りを尽くした魔王の力を封印したという祠だ」


 魔王の、力の封印!? 俺はビックリしてしまった。


「こんな王都の近くに?」

「本当は、こんな見えるようになっていなくて、厳重に隠されていたはずなんだけどね」


 無感動な目で、ロンキドさんは俺を見た。


「何者かがここに魔法の封印があることを知り、やってきた。そして祠を破壊して力を奪った。邪甲獣が現れたのは、おそらくそれが関係しているだろう」


 伝説の魔獣が現れたのは、この祠の破壊に関係していた? それより、封印された魔王の力を奪うとか、これ絶対やばいやつだろう!?


「これは、白狼族がどうなったか確認しておいたほうがよさそうだな」


 ロンキドさんは踵を返した。


「急ごう。近くに彼らの集落がある」


 俺とルカは顔を見合わせる。


「何か大変なことになってきたな……」

「そうですね」


 嫌な予感がする。現れない白狼族。壊された祠……そこから導き出される答えは。

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