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第15話、指名依頼


 俺とルカは、ギルドマスターのロンキドさんからの指名依頼を受けた。


 伝説のSランク冒険者のエスコートとか、ちょっと前までは信じられなかった。やべぇ、興奮してきた。つか、冷静に考えたら俺らの護衛なんていらないんじゃないの?


 一日程度の遠征になるという話だったが、食料や物資はギルドが出してくれるとのことだったので、俺らが持ち込むのは自分の装備と、携帯物だけでよかった。


 俺は、邪甲獣退治でもらった報酬を使って、装備を新しくした。革の鎧は、鉄プレートで補強したものに替わり防御力が大幅に上がっている。


 最初は重くなるだろうと思っていたが着てみたら案外変わらなかった。そんなはずはないと思うのだが、心当たりがあるとすれば『持てる』スキルが影響しているのかもしれない。俺が触ったことで身につけているものにも影響が出た、というのが推測。


 手甲やすね当ても金属板で補強した新品だ。小型盾も、くたびれた物からより新しいものに変えた。


 武器は当然ながら魔剣である。


 やっぱり、装備が新しくなったせいか、身が引き締まった。弱っちい雑魚冒険者を卒業した気分だ。


 そういや『シャイン』にいた頃、ルーズらは、やたら見栄えを気にして装備をいじっていたが、今ならその気持ちも少しわかった。


 俺とコンビを組むルカはといえば、胸を守る胸甲、肩のアーマーはないが二の腕のから指先まできっちり各防具をつけていて、下はミニスカート。足甲はしているが、太ももから白い肌がお目見え。……ふうん、えっちぃじゃん。


 武器はロングソードと、あとグレートボウを持っていた。弓が使えるんだ。


「あの……何か変ですか?」


 少し前屈み気味でルカが不安そうに聞いてきた。全然、と俺は首を振った。


「いいと思う。弓が使えるんだな」

「幼い頃から、狩りをやってましたから」


 はにかむルカ。……へぇ、狩りか。家は狩人だったのかな?


「待たせた」


 そこへロンキドさんがやってきた。

 白銀の魔法金属鎧。ロングソードを携え、長方形の騎士盾を左腕に固定していた。……あぁ、凄ぇ。伝説のSランク冒険者の現役装備じゃないか! 背が低く、歳を重ねているが、重装備に関わらず背筋が真っ直ぐ伸びて、凄みを感じさせる。


「準備ができたなら行こうか」

「はい! ……荷物は――」

「アイテム袋がある。心配するな」


 アイテムボックスなどとも呼ばれる魔道具だ。さすがSランク。装備も隙がない。


 ギルドを出る時、フロアにいた何人かの冒険者から注目された。そりゃあギルマス自ら赴くなど異例だからな。


 しかし、言われてみて、確かに普段より冒険者の数が少ないのに気づいた。邪甲獣の通り道ダンジョンに皆、出払っているんだなあ。


「ルカ嬢」

「はい、何でしょう、ロンキドさん」

「君は大剣持ちだろう? 使っていないのか?」


 大剣――ギルドマスターは、ルカのことをよく知っている口振りである。


「あれは……その、今日は置いてきました」

「今日は、か?」


 眼鏡の奥の瞳は冷たい。それに対して、目を背けるルカ。あまり突っ込まれたくないって顔をしている。

 ロンキドさんはため息をついた。


「戦場でつまらぬ見栄を張ると、自分だけでなく仲間も殺すぞ」

「……はい、すみません」


 ルカが謝った。どういうことだろう。俺がロンキドを見れば、歴戦のSランク冒険者は言った。


「彼女は両手持ちの大剣使いなのだ。自分の一番得意武器を封じるのは、馬鹿らしいと思わないか? 理由が真っ当であるなら仕方がないが、そうでないなら、なおのことな」


 どういうことなの? 言わんとしていることはわかるが、ルカの事情がわからないからさっぱりだ。


『お主が我ではなく、ショートソードを使うようなものだろう』


 魔剣――ダイ様が声を発した。


『せっかくの武器がありながら、それを使わないのはもったいないということだろう』

「いや、それは何となくわかるが」


 ともあれ、俺たち3人は王都を出た。王都内の片付けも進んでいたが、表に横たわっていた邪甲獣の死骸もすっかりなくなっていた。見上げれば外壁の修理作業が進められている。


 南に行けば、通称『邪甲獣ダンジョン』。俺たちは南西方向へ向かった。広大なる平原をある程度進むと、やがて切り立った高地とその間を走る峡谷が見えてくる。



  ・  ・  ・



ルカの引き絞った弓から放たれた矢は、角鹿の首を貫通した。


「ナイスショット!」


 凄い力。グレートボウの弦を引く力も相当なものだった。ルカは、テテテっと倒した角鹿のもとまで行くと「やりましたー!」と手を振った。


「いい腕ですね」

「彼女はドゥエーリ族の出だからな」


 ロンキドさんは歩きながら言った。俺は驚く。


「ドゥエーリ族って、あの戦闘民族の?」


 一部では蛮族とも言われているらしいが、戦いと狩りが中心の人々であり、男女問わず長身の者が多いことで有名だ。……ああ、ルカの長身も一族の特徴だったのか。


「ドゥエーリ族は傭兵や冒険者で稼ぐ者も少なくない。ルカ嬢は族長の娘だ」

「族長の!?」


 それって、言ってみればドゥエーリ族のお嬢様ってこと? みたい、じゃなく、本物のお嬢様だったのか。礼儀正しいはずだ……。


「すみません、つい狩ってしまいましたが、処理している暇はないですよね……?」


  ルカが軽々と角鹿を担いでいるのは突っ込み待ちだろうか。怪力凄ぇ……。ロンキドさんは言った。


「私のアイテム袋に入れよう。帰ったら解体しよう。こいつの中は時間も止まるから、腐ることはない」

「凄いですね!」

「うん、マジで凄い」


 いいなぁ。さすがSランク冒険者の持ち物。するとダイ様が現れた。


「ふん、それくらい我にもできるわ」

「あ、そういえば、ダイ様も収納できるんだっけ?」

「7100トン分な! しかも我のも腐らんぞ」

「そうだったの!?」


 マジ有能。容量だけでなく、鮮度まで守られるとか、これなら収納の魔道具を買う必要ないじゃん。


「おう、そうだった。そういえばお主。この間の邪甲獣の分体をしまってあるが、あれは処分してしまっていいのか?」

「はあ!?」


 邪甲獣の分体って、獅子型のアレか。俺が魔剣を使った初キルの。あれ回収してたの?

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