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第13話、それは錯覚だった?


 Dランクからランクアップして、Cランク冒険者になった。


 魔剣を手に入れて、邪甲獣を倒して王都カルムの危機を救った。俺は時の人になり、様々なパーティーからお誘いを受けた。


 女の子からモテてモテて困る。オレの人生はバラ色……とはならなかったんだ。


 あれから2週間。俺は冒険者ギルドが運営している冒険者宿に住んでいた。前のパーティーを追放されて、ホームをなくしちまったから、住むところも必要だったからな。


「あー、だっる」


 朝から気分が乗らない。ぶっちゃけ、どこにも行きたくない。


「とはいえ、引きこもってもられんしなぁ」

『変な勧誘が来るからだろう?』


 魔剣ダーク・インフェルノから、ダイ様の声がした。


『お主は人気者だからな』

「……」

『まーた、美人のシスターがやってくるやもしれんぞ』


 俺は答えられない。くそう……。


 邪甲獣を討ってから、それはそれは持て囃されたものだ。だが、それは望んだものとは違った。


 邪甲獣を倒した魔剣使い。パーティーに勧誘してくる連中は、皆笑顔だが、その中には以前に俺をまったく相手にしなかった連中も多かった。


 あまりの態度の変わりように、信用できないっていうか……。前のパーティー『シャイン』での親友だと思っていたルーズに利用されていたことが、ちらついてしまったのだ。


 こいつらは、魔剣が目当てで俺のことを利用しようとしているだけじゃないか?


 そう思ってしまったのが運の尽き。一度疑い出すと、他の連中も途端に胡散臭くなる。パーティー内で、すでにカップルが存在するようなところは論外だったが……いや、それ以前に、金に群がる連中に辟易しちまったのも、俺の憂鬱さに拍車をかけた。


 やたらと友人顔を吹かせて、奢らせにきたり、英雄だのなんだのと甘い言葉を吐いて、俺から報酬の金をむしり取っていこうとする奴ら。


 女の子にモテたいという男の心理を玩びやがって――


「あの偽シスターは傑作だったな」

「くっ……」


 邪甲獣の攻撃で孤児院が破壊されて、子供たちを助けるためにお金が必要うんぬん――よく考えれば、あんな色気で押してくる教会関係者がいるものかよ! 


「お人好し、ここに極まれり」

「ぐぬぬ……」


 せっかく得た討伐報酬の半分が、そうした詐欺連中に消えちまったよ! 残りは当面の生活費を除いて、装備の新調に使ったから残ってねえし!


「まあ、よかったな。新しい装備に手を出した後で。それがなければ、それすらなくなっておったやもしれん」

「……」


 ちくしょうめー。いつか全財産騙し取られる、なんてエルザの言葉が脳裏をよぎった。


「人間なんて、信用できねー!」

「まあ、頑張れ。力は貸してやれぬが、我を振り回すことは許してやる」

「……ありがとう、ダイ様」

「むふふ、お主はチョロいのぅ」


 黒髪少女姿になったダイ様が、ドヤ顔を浮かべている。でも俺は知ってるぜ。ダイ様の器のデカさはさ。


「さて、行きたくないけど、冒険者ギルドに行くか」

「そろそろ勧誘も減ってきたんじゃないか? 金ないし」

「ぐ……。いや、そういう金うんぬんで勧誘してくる奴は信用できないからいいんだ!」


 いつもの装備を身につけて、部屋を出る。冒険者宿の1階は食堂になっているので、朝食のパンとスープを腹に収める。熱心な新人冒険者たちは、とうに出かけているので食堂はがらんとしている。そう考えれば、俺は実にのんびりした動き出しだ。


 そういや、そろそろ製作依頼を出した防具とか、できているかな。


 などと考えながら、俺はダイ様と冒険者ギルドへ向かう。


 2週間前はあれほど騒がれた魔剣使いも、今じゃすっかり落ち着いて、よほど顔を合わせている連中しか挨拶しない。


 金がなくなったら、いつも通りかよ。チヤホヤされていた頃を思い出すと、虚しくて泣けてくるぜ。


 結局のところ、カワイ子ちゃんからモテまくりたいという俺の願いは果たされていない。何か人が大勢いて、お酌してくれたりした子はいたけど、まさに金に群がっての結果だったし。あの時のモテ方は違うんだよなあ、俺の期待するそれと。


 掲示板を眺める。クエスト依頼のついでに、パーティー募集の方も確認。今の俺が行けば大抵のところで入れてもらえそうだけど、どうもしっくり来ないんだよな。


 あまり選り好みをしている余裕もなくなってきたから、真面目にやんないといけないのはわかってはいるんだけど。

 ……もしかして俺って、人間不信になってる?


「あの、ヴィゴさん……?」


 おや、この聞き覚えのあるこの声は!


「ルカさん」


 相変わらず背の高いルカ嬢が、後ろからやってきた。やっぱ身長差エグい。


「お久しぶりですヴィゴさん」

「あ、どうも」


 この人、いつも礼儀正しい。


「大丈夫ですか……? あまり顔色がよくないようですけど」

「あぁ、まあ、色々ありまして」


 思い出すと苦味が広がるようなことばかりだけど。


「お困りですか?」

「ええ……まあ。困っているほどでもないのですが……」


 やめろ。優しくされると、ついうっかり甘えてしまいそうになるではないか。そしてまた騙される。


「パーティーの募集を見ていたんですか?」

「まあ、いい加減、決めないと。いつまでも宙ぶらりんなのはよくないですから」

「よさそうなの、ありますか?」

「しっくり来ないですね」

「わかります。何か躊躇ってしまうんですよね。ここで大丈夫なのかなーって」


 ルカは自嘲した。見た目に見合わず、控えめな人なのだろう。邪甲獣退治の時に協力してくれたからか、この人のことは信用しちゃってるっていうか、疑いたくないんだよなあ。


「あの……」

「はい」


 長身のルカが、何故か少し小さく見えた。


「……ソロでなくて、誰かと組んでやっていこうと思っているなら……わ、私と組みませんか?」

「え……?」


 俺は面食らってしまった。パーティーに誘われたってことでいいのかな? ここまで控えめで、何故か恥ずかしそうな勧誘は初めてだー!


「あの……俺、金ないですよ?」


 なに言ってるんだ、俺!? 失礼過ぎるだろ。


「構いません。むしろ、ヴィゴさんが困っているのなら、それこそ私に力にならせてください!」


 急に胸を張り出した。ダイ様と違って、でっかいお胸様だった。


「何故、そこまで……?」

「私はヴィゴさんに命を助けられた借りがありますから」


 命の借り……。獅子型の小型邪甲獣に襲われた時か。


「私の一族は、借りをお返しをするまで礼を尽くすという仕来りがあります。私に手伝わせてください!」

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