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第10話、魔剣の扱い


 見せてくれ、と騎士が言うので、俺は魔剣を差し出した。八の字髭の上級騎士が柄に触れた途端、魔剣が吸い込まれるように地面に突き刺さった。


「うおっ!?」

「危なっ」


 思いがけないことに、俺も騎士も目を丸くした。剣先が地面に刺さり、周りにヒビが生えているような。


「かなり重い剣のようだった」


 そう言いながらグリップを握る騎士。だが持ち上がらない。皆が首を傾げる中、上級騎士は両手で持って必死に持ち上げようとするのだが、ビクともしない。


「何だこれは……重すぎる! 動かん!? お前、魔法を使ったのか?」

「いえいえ」


 魔法なんて、とんでもない。俺にそんな重さを変えるような魔法は使えない。


「騎士殿、ヴィゴは魔法使いじゃありませんよ」


 クレイが助け船を出してくれた。


「ちょっといいですか?」


 一言断って、今度はクレイが剣を抜こうとした。しかしやはり動かない。


「くそっ! 駄目だ、全然ビクともしないぜ」

「オレにやらせろ」


 力自慢の冒険者が名乗りを上げたが、結果は同じ。しょうがないので、俺が握ると素直に抜けた。


「おおっ」


 周りが驚く中、俺はそっと魔剣を地面に置いた。


「これで誰か持てる?」


 刺さっていないなら――と別の冒険者が触れるが、やはり全然持ち上がらない。


「何だこれ! くっ、地面にくっついているんじゃないか!?」


 先ほどから見ていて、『なに茶番じみたことやってるの』と思っていた連中も挑戦するが、誰も持ち上げられなかった。


「やっぱ、持てるのは俺だけみたいです」


 俺が剣を拾うと、上級騎士は腕を組んで頷いた。


「うむ。どうやらお前は魔剣に選ばれたのだろうな。よろしい。この化け物のこともある。私と共に城に来てくれ」

「城、ですか……」

「王都の危機を救ってくれたこともある。褒美も出るかもしれん」

「わかりました」


 そういうことなら。断る理由もない。



  ・  ・  ・



 外壁の門をくぐり、騎士や兵士たちに囲まれて王城へと向かう。


 寄り道はできなかったが、チラと見た限りでは、邪甲獣のブレス攻撃で倒壊した建物もあったようだった。


 怪我人の移動も見たし、救助を叫び声がチラホラ聞こえた。


 俺は、生まれて初めて王城の中に入った。ここでも負傷した騎士たちや、慌ただしく行き交う兵士の姿を見ることができた。


 とある部屋に通され、少し待てと言われて取り残された。おそらく上官に報告しているのだろう。場合によっては大臣や王様の耳にも届くのではないか。


 ひょっとして、王様に声を掛けられたりするのか? どうしよう、こんなボロっちぃ装備つけたDランク冒険者の格好で。


 そこで、ふと、今朝まで一緒だったルーズやエルザ、アルマのことを思い出した。あいつらも王都に居たけど、邪甲獣の攻撃でやられていないだろうか? 追放されはしたが、死んだとかそういうのは聞きたくないんだよな。……あ、そういえば今日は――あぁ、また……。だからお人好しなんて言われるんだ。俺はあいつらに利用されてたんだ。知るもんか、あいつらなんか。


 とりあえず、死んでいることはないだろう。それはわかる。


 などと考えていたら、先ほどの上級騎士と、その他に魔術師らしき集団がやってきた。


「魔剣を解析させてほしい」


 危険がないか調べたいというので、俺の見える範囲で許可した。というか、俺でないと持ち上げることもままならないから。


 部屋の中央の机にそっと魔剣を置く。手を放した途端、木製の机は壊れて、床にヒビを入れた。


 魔術師たちはああだこうだ言いながら、石のブロックを持ってきて、それに魔剣を置いた。今度は大丈夫だった。


 解析する魔術師らを、部屋の端の長椅子に座って見守る俺。八の字髭の上級騎士が俺の隣に座った。


「手をかけさせてすまぬな。魔剣といえば相応に危険なものも多い。スウィーの森の魔剣は暗獄剣と呼ばれ、大陸を破壊する恐るべき力を持っていると伝わっている」

「らしいですね」

「あの巨大な魔獣――ああ、古代の文献によれば、魔王が使役した邪甲獣というらしい」

「邪甲獣、ですか」


 ダイ様から聞いていたから初耳ではないが、魔王が使役したというのは知らなかった。


「その邪甲獣を倒したのだ。あの魔剣の力は凄まじい」

「そうですか。……でもあれ、全盛期からほど遠いらしいですよ」

「というと?」

「実はですね――」


 俺は剣を持てるだけで、魔力が全然ないらしく、魔剣の力を引き出せないことを伝えた。


「――なんと、あれで全力ではなかったと」

「俺が使う限りは、限りなく鈍器ですね」

「しかし、たぶんお前しか使えないだろう?」

「でしょうね」


 6万トン以上の重量物を持てる人間が、この世にいるものか。俺は神様から授かった『持てる』スキルがあるから、振り回せるだけだ。


「なるほどな……」

「何です?」

「それなら、魔剣はお前に預けてもよいかもな」


 上級騎士は自身の八の字髭を撫でつけた。


「上のほうじゃ、暗獄剣を管理できる場所に置いておきたいようだ。伝説にあるような力を個人の手に委ねるのは危ないからな」

「取り上げられるってことですか?」


 せっかく手に入れたのに。ここに来たのは失敗だったか。


「魔術師たちの解析次第だが、お前の言うとおり、魔剣としての力が発揮されていない、発揮できないというのなら、ただの剣だ。それにお前以外に持てないなら、話は変わってくる」


 他の者に盗まれることもない――上級騎士は真顔で言った。


「今回、邪甲獣が現れた。我々が束になっても敵わないほどの敵だ。伝説によれば邪甲獣は一体だけではないという。またあれが現れた時、対抗できる戦力は王都にいてほしい」


 ヴィゴと言ったな――上級騎士は背筋を伸ばした。


「王国はお前を騎士にするかもしれん。もちろんお前次第だ。断ることもできる。冒険者がよいと言うならば、それでも構わない。王都の危機の時、今回のように戦ってくれるなら、王国はきっとあの魔剣をお前に預けるだろう」

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