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第3話、パーティー募集


 俺は神様からモテるスキルを授けられた……ような気がする。


 幻聴かどうか確かめるために周囲の反応を確かめようとしているのだが、今のところは特に変化がない。


 本当に何もないのか? パーティーメンバー募集の貼り紙が貼られた掲示板の前に立って、俺は同じく貼り紙を眺めている、ルカっていう美人ちゃん――ただし大女の隣に立ってみた。


 どうだ? モテる力を授かった俺が隣に立てば、自然と意識するだろう?


 チラ。チラ――あくまで募集の紙を見ているふうを装う。


 ルカが視線を一瞬、こちらに向けた。上から見下ろされるって、何か怖ぇな。視線が合いかけて、とっさに視線を貼り紙に戻す。


 なに気まずくなってんだ、俺!? 畜生、大女だけど、ルカは美人ちゃんだからな。俺の数少ない異性との交友経験をもってしても緊張しちまう。


 そら、声を掛けろ。目ぇ逸らしちまったから、こっちからは気まずくていけない。声を掛けろ。掛けてくれーっ!


 ちらっ……。


 気まずいのを承知で一瞥したら、そこにルカの姿はなかった。行ってしまわれたかー。


 なんだよ。ちょっとは期待しちまったのに、何もなしか。こりゃあ、完全に俺の錯覚だったかもしれないな。はぁ……。


 仕方なく、俺は募集の貼り紙を見比べ、パーティーを選ぶ。追放された『シャイン』のルーズも言っていたが、剣の腕はそこそこって自負がある。募集条件さえ間違えなければ、そう悪いことはないだろう……。



  ・  ・  ・



 などと思っていたら、大間違いだった。


 前衛の戦士ないし剣士って条件のCランクかDランクパーティーに声を掛けて言ったら、悉くお断りを受けた。


『はあ? Dランク? ダメダメ、うちはCランク以上の奴を募集してんの!』

『えー、美人とは言わないけど、せめて女だよなぁ」


 だったら募集要項に、そう書いとけ! 無駄足を踏ませやがってー!


『……ふうん、あんた、冴えないわね』


 下働きでも何でもしますよー。


『目つきがやらしい。お断り』


 ……そうですか。


 連敗記録を積み上げ中。王都の冒険者ギルドだぞ。これだけ人がいて、募集もあるのに、何でこうなる?


「いよぅ、ヴィゴ。お前、パーティーを追放されたってぇ?」


 顔見知りの冒険者に冷やかされた。顔つきの悪さに定評のある中堅冒険者のクレイだ。


「まあ、お前さんはあのピカピカパーティーには似合わん男だからな、仕方ねえよ」

「るせぇよ、おっさん」

「まあ、気ぃ落とすなってぇ。これ以上、みっともねぇ比較をされなくて済むって思えば万々歳だろ」


 そうだぞー、と周りの男冒険者たちが同調した。


「……」


 知ってるぞ。お前ら別に俺を慰めようとか、励まそうとしているんじゃないってことは。 美少女のエルザやアルマと同じパーティーにいるってだけで、嫉妬しまくっていたむさ苦しい連中だ。俺が『シャイン』を追放されて、ざまあみろって思ってんだろ。


「くそっ、同情するなら、どこかパーティーを紹介するとか、入れてくれよ」

「残念だが、前衛は間に合ってる」


 クレイは肩で笑った。


「お前も美少女になって出直すんだな。それなら考えてやるぜ」


 ひゃっはっはー!――周りの男衆が大声で笑った。くそぅ、別に俺はいい思いをしてたわけじゃないんだぞ。あの美少女たちは、ルーズばかりイチャついて、俺なんか雑用以下としか見てなかったもん。むしろ嫉妬に狂いそうだったのは、こっちだっつーの!


「まあ、お前が悪い奴じゃねえのは知ってるぅ」


 クレイが俺の肩を叩いた。


「美少女うんぬん関係なく、うちは人を増やしている余裕はねえ。どこかはわからんが、お前がパーティーに入れることを祈ってるよ」


何人かの冒険者は、うんうんと頷いた。ありがとよ、お前ら。でも『うちに来いよ』とは言ってくれないんだな。


「王都には冒険者は腐るほどいる。前衛の剣士もごまんといるわけだ。そうなると、プラスの付加価値のある者が優先される」


 見た目が格好いいとか、戦士なのに魔法が使えるとか、レア装備を持っているとか。


 くそっ、どれも俺にないもんばかりだ。


「聖剣……は難しいが、魔剣を持っているってだけで、お前みたいな見た目でもパーティーに誘ってくれるところがあるかもしれん」

「魔剣? それだって、そうそうあるもんじゃないだろ」


 聖剣や魔剣の類いは使い手を選ぶっていうし。おいそれと持てないし、そもそも簡単に手に入るようなものでもない。


「そういや、王都近くのカラコルム遺跡に魔剣があるって話があるぜ?」


 冒険者のひとりがそんなことを言った。


「台座に刺さってるんだが、誰にも抜けないってやつ」

「そうそう、夢見る駆け出しが魔剣を手に入れてやろうって挑戦して、やっぱり抜けないってやつぅ」


 クレイは苦笑した。


「ヴィゴ、お前は挑戦したことあるか?」

「ねえよ。おっさんはあるのかよ?」

「おれもねえよ。だが、剣士系の連中は概ね、一度は挑戦するって聞くぜ?」

「ありゃ抜けねぇよ」


 ふくよかな体躯の若い冒険者は言った。


「ビクともしねえもん。巨人族が挑んでもやっぱり駄目だったってさ」

「……ま、そういう魔剣があるって話だ。お前も行ってきたらどうだ?」


 クレイは冗談なのか本気なのかわからない顔で言った。


「通過儀礼ってやつだ。お前も男を見せてこい」

「……」

「オレ、ヴィゴが抜けない方に5グェン」

「抜けない方に10」


 冒険者たちが賭けを始めやがった。俺をネタにしやがって。やってられるか!


 俺が背を向けると、笑い声が響いた。『それじゃ賭けにならねぇだろぅ』とクレイの声が聞こえた。


 どいつもこいつも……!


 おう、カラコルム遺跡とやらに行くぞ、この野郎! 見てろよお前ら!

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