「君はクビだよヴィゴ」
目の前で尊大にもふんぞり返っている金髪イケメンは、俺に向かってそう言った。は? どういうことだ?
「おいおい、冗談だろうルーズさんよ……」
「ルースだ。君はいつになったら人の名前を覚えられるんだい、ヴィゴ?」
イケメン男ルースは、俺、つまりヴィゴ・コンタ・ディーノを余裕たっぷりに見下した。
「顔も悪ければ、頭も悪いらしいな」
はいはい、イケメン様は嫌味でいけませんねぇ。さらにムカつくのは、この野郎の両隣には美女がいるということだ。魔術師エルザと、魔法剣士のアルマ。
その二人に挟まれてふんぞり返っているのが、我らが冒険者パーティー『シャイン』のリーダー、魔法騎士のルースさんだ! ……なお俺と幼馴染みだ。
「冗談だろう、ルーズ!」
「ルースだ、馬鹿!」
イケメンは言い返した。
「僕たちのパーティーにお前はいらないんだよ、ヴィゴ。だからクビ!」
「何で!?」
これまで一緒にやってきたじゃねえか。理由もなくいきなり追放とかマジわかんねえ!
「言ってもいいのかい、ヴィゴ」
ルースはすこぶる真面目な顔になった。エルザとアルマは、道端の石ころを見るような目を向けてくるが、とりあえず無視だ。
「言えよ。納得できねえ!」
「じゃあ言う。僕たちのパーティーは最近活躍してきて、評判もよくなっている。僕はBランクになったし、エルザとアルマもCランクに昇格した」
「おめでとう。前に祝ったけど、改めて祝ってやる」
何で俺が昇格しないのか、いまいち納得できないけども。
「ありがとう、ヴィゴ。でもクビは取り消さない」
ちっ。
「ここらでも評判になってきたんだけどね。僕らビジュアルで売れてきているところもあるから、その長所を伸ばしていこうと思っているんだ」
「つまり……?」
「君みたいな地味な……言っていいって言うから言うけど、君みたいなブサイクがいると、僕らのきらめくイメージが傷つくんだよね……」
エルザとアルマは、ルースにさらに抱きつき、しかし俺を睨むのをやめない。
「正直、アタシ、あんたと一緒にいたくないのよね。汚らわしい、ってやつ?」
「あなたはよく働きますが、視線が物凄くイヤラシい。目で犯されているみたいで、気持ち悪いです」
面と向かって言われるとショックだ。胸が痛い。ぶん殴られたように頭がグラグラする。
「あんたって女の子に優しいけどさ、下心が透けて見えるのよねぇ。嫌だ嫌だ」
「最低だと思います」
濡れ衣だ。あ、いや、そりゃあオレも男だから、時々エルザのお胸様に視線が言ったり、アルマのうなじから背中へのラインに見とれることはあるけども、邪念がわかないように我慢してるんだぜ!
「ねえ、ヴィゴ」
ルースは哀れみの視線を向けてくる。
「僕と君は幼馴染みだ。その縁で一緒に冒険者になって、ここまでやってきた」
「ああ、オレたちはズッ友だろ!?」
「そのノリ気持ち悪い」
「……ルース」
にべもない。親友だと思っていたのはオレだけか?
「この際、全部言っちゃうけど、僕が君と一緒にいたのは、君という凡人が僕の存在をより際立たせることができると思ったからなんだ」
マジかよ。俺は、お前の引き立て役だったってことか? 何が友情だ。こいつ、オレを利用してたのかよ!
「要するに、君の容姿がいけないのだよ」
地味で、どこにでもいそうなモブ顔。それが周囲の評価を分けた要素――とルースは評した。
「君に落ち度はない。いや、あるとしたら、そんな容姿に生まれたことかな?」
クスクスと、エルザとアルマが忍び笑いを浮かべる。え? お前たちも、実力でいったら俺とどっこいだろ。特にアルマ、剣の腕は俺のほうが上だ。魔法が使えるっていっても中途半端なの知っているぜ?
容姿ってマジで言ってる? そんなの、オレにはどうしようもないじゃんよ! オレは生まれてこの方、この顔だ。
死んだ父ちゃんと母ちゃんが作ってくれた顔だ。それのどこが悪い!
「実力の面では悪くないと思うよ。それは僕も保障する」
てめぇの保障なんざ嬉しくもねえ。……ショックで思考がうまくまとまらない。悪態も文句も浮かぶのに、何で口に出せないんだ。
「僕たちは光り輝く。だけど、ここまで来ると、汚点である君のほうが目立ってしまうんだ。わかるだろう? 綺麗なものについた汚れのほうが目につくってやつ。だから、君を僕らのパーティーから追放するんだ」
「ついほうー!」
エルザが生意気な声を上げ、アルマがそっぽを向いた。
仲間だと思っていた。だがこいつらにとっては、そうじゃなかった。それがこの結果ということだ。
俺は、この恵まれなかった容姿が原因で、所属していたパーティーから追放された。