ある牧場に、牧羊犬に吠えられても余裕で草を食べ続ける羊がいました。
他の羊たちは、牧羊犬に吠えられると群れをなして逃げます。
しかし余裕で草を食べ続ける羊は余裕で草を食べ続けます。
牧羊犬はものすごい剣幕で、余裕で草を食べ続ける羊を威嚇しながら吠えます。
牧羊犬の務めとして当然です、群れに合流しろというわけです。
しかし余裕で草を食べ続ける羊は余裕で草を食べ続けます。
もちろん牧羊犬が本気を出せば殺されてしまいます。
牧羊犬が本気で噛みついたら死んでしまうのに、どうして余裕で草を食べ続けるのでしょう。
どうしてかと言うと、羊のほうも、牧羊犬がもう牧羊犬として働けなくなるような一撃を、なんと会得しているのです。
だから牧羊犬もなんとか喧嘩をせず、なるべく吠えて言うことを聞かせようとします。
余裕で草を食べ続ける羊も喧嘩はなるべく避けたいです、なぜなら殺されてしまいます。
そこでいつも頃合いをみて食事をやめ、群れに合流します。
ある日、牧羊犬が牧場主に殺されてしまいました。
余裕で草を食べ続ける羊と同じことをした羊たちがいたからです。
一頭ならまだしも、八頭もの羊たちに舐められてしまっては、もう後がありません。
バキューン
しかし、殺害の事実を知った他所の牧場主達が、ライフル銃で牧羊犬を撃ち殺した牧場主を非難しました。牧場主はもうライフル銃で牧羊犬を殺さないよと言い返していました。
新しく来た牧羊犬は前任者よりあきらかに弱そうでした。
弱そうでしたが、余裕で草を食べ続ける羊は最初こそ従順にしようと、おとなしく群れの中にいました。
しかし昨日同調した羊たちは自分たちだけで余裕で草を食べていました。羊の真似をした羊たちは見境なく新しい牧羊犬を弱そうだと、言うことを聞きませんでした。
みかねた牧場主は相変わらずの七頭の羊のほうを、仕方がなく殺して肉にしました。
新しく来た牧羊犬はとりあえず許されたのです。
余裕で草を食べ続ける羊はここで悩みました。せいぜいこのやり方で殺せるのは牧羊犬なんだよな。またしばらく従順な羊を演じるとして、どうすればいいんだろう。