「本当は通っちゃいけない場所だった……?」
「ええ。そういうことなんでしょうね」
恐る恐る言ったカイにサトルはゆっくりと頷いた。
「3人の共通点は昨日までの時点で校則違反のイエローカードが2枚溜まっていることです。そして今日遅刻をして3枚溜まるとレッドカードになり、反省文を書かされシュミの悪い生活指導委員長にそれを音読される」
「突然ディスってくるじゃん」
「それを避けるために、本来は通行禁止の道を通ってショートカットしたのでしょう。その道で怪我をしたけど必死にダッシュしていたから本当に気づかなかったし、傷は浅かったから大体の生徒は怪我に気がつく前に塞がっていた。体育で動いたりして傷が開いた生徒だけが後から保健室にやってきて、あの時差が生まれたのでしょう。アカリさんが言ったように、本来怪我をした生徒はもっといたかもしれませんね。そして怪我の原因に気づいても、生活指導委員や教師がいる前でそこを通ったとは言えなかった」
サトルは一気にしゃべり切り、ふう、とひとつ大きく息を吐いた。
「和泉先生の言う『ヘンなおまじない』の真相。大方、こんなところでしょう」
「はあ~~ナルホド……」
その説明にカイはただただ頷いた。
和泉先生の、自傷行為が流行っていないかという相談。疑惑の生徒の名前も教えてもらえずいったいどう解決するのだろうとハラハラしていたが、まさかこんな綺麗に答えを出すとは。カイの中でまた先輩尊敬パラメータが振り切れる。
(やっぱサトル先輩……すっげえぇぇーーーー!!!!)
けれどもうひとりの顔は曇ったままだ。「うーん」と机を睨むジンゴにサトルが話しかける。
「ジンゴさん、気になるとこでも?」
「うんにゃ、大したことじゃねぇんだけど。サトルの説明は理にかなってると思うんだけど……1個だけ納得できねぇ点があってさ」
「というと?」
「怪我人が『今日』突然現れたってのが気になってさ。本来通りぬけ禁止の道を通って怪我したってんなら、別に前から同じような怪我をする生徒がいてもおかしくないだろ? でもイズミちゃんの言い方だと別にそういうわけじゃなさそうだし。そこが、ちょっとな……」
渋い顔で言うジンゴに、「確かに……」と顔を曇らせたのはカイだった。
サトルの表情は変わらない。落ち着いたまま、
「そうですね、あとはそれだけです。まあ大体予想はついてますけど。僕は直接それを確かめてから帰ります。明日和泉先生が来たら一緒に話しますよ。下校時刻だし、今日はもう解散しましょう」
「あ、俺も行きます!」
さあ帰りましょうとばかりに鞄を手に取るサトルに、カイは慌ててそう言った。そして不思議そうにこちらを見つめる眼鏡の奥の一重と目が合った。
「え……なんで。僕ひとりいれば十分ですよ」
「え。なんでって。俺もお悩み相談部の一員ですよ! こういうのは部員全員で行くもんじゃないんですか? みんなで一緒に行きましょうよ!」
「ね、ジンゴさん!」と部長の方を振り返る。てっきり「おう、そうだな、カイ! みんなで行こうぜ!」と言ってくれると思ったのだが――、
「ワリ、俺ん
ジンゴは顔の前で手を合わせた。
教室前の時計は7時数分前を指している。外はまだ薄ら明るいが、30分もすれば完全に夜だ。
住んでいる場所までは知らないけれど、ふたりは――この学校では珍しく――自転車通学だ。7時半が門限ならば、きっと寄り道する暇はないだろう。
完全に虚を突かれ立ちすくむカイにサトルは淡々と言う。その表情は薄く、何を考えているのかよくわからない。
「ってわけなので。カイくんは
「……でもでも、俺にとっては今日が初の活動日なんですよ! だったら最後までやり切りたいです!!」
「……僕がこれからやろうとしてるの、市駅までの道の確認ですよ? ヘタしたら駅まで行くんですよ? 方向違うじゃないですか」
「大丈夫です!
「……カイくんの家、1時間くらいかかるって言ってましたよね? 帰ったらだいぶ遅くなりますよ? 親後さんも心配するんじゃ」
「平気です! しばらく父さんいないんで!!」
サトルは助けを求めるようにジンゴを見た。彼は何も言わずにニヤニヤとこちらを見ている。完全に自分が困っているのを見て楽しんでいる顔だ。
仕方がないので後輩に向き直る。カイは自分より背が高くて体格もいい。そして大きい声とともにキラキラした眼差しを向けてくるのだから、圧がすごい。
「俺も! 部の活動に参加させてください! 一緒に先輩の予想を確かめるの、やりたいです!」
「でも……」
カイはもう一押しとばかりに息を吸った。
(サトル先輩のことよく知らないけど、俺と行くのが嫌なだけなら絶対この人とっくに帰ってる。そうじゃないってことは……いける!!)
先輩が「一緒に行こう」と言わないのは、たぶん、本当にひとりで十分だと思っていて、純粋に自分の帰宅時間を心配しているからだろう。彼の表情は読みづらいけれど、なんとなくそれはわかる。わかるけれども。
「サトル先輩!! 後輩という存在に! 慣れて! ください!!」