「そうですね。まず、市駅ユーザー。そして遅刻常習犯。あと、スカート丈の短い女子。これも手がかりのひとつです。……そういう意味では、陽キャもあながち間違いではないですかね」
自分の聞き方もよくなかったと反省したのだろうか、カイへのフォローを入れつつサトルは話を進める。
「名簿によれば、アカリさんの違反はすべて遅刻です。そしてジンゴさんとの会話の様子だと、アカリさんは登下校中はスカート丈を短くしているようです。去年は服飾違反もあったらしいですね?」
「簡単に言やぁ、校則違反常習犯ってことか? そんで残りのふたりもそうなんじゃないかって?」
サトルは「ま、そんなとこです」と頷いた。けれどカイは納得できない。
「でも先輩、それだけだと名前まではわからなくないですか? 違反者名簿見たって他にもいっぱい名前書いてあるのに」
アカリは校則違反常習犯で、だから他のふたりもそうだとアタリをつけた。そして違反者名簿を確認した。そこまではわかる。
けれど。
(違反者名簿に載ってるのは1ページ30人くらい。もう2枚目いってるっぽいし、40人くらいはいるのかな。単純に考えて女子だけで20人。そこからふたりを当てるなんて。しかもノーヒントで、たった1回で……)
そんなのイズミ先生の心を読みでもしないとわからないじゃないか。
そう思って先輩の顔を盗み見ると、なんとバッチリ目が合った。慌てて逸らそうとするカイにサトルは微笑みかける。
「いま、和泉先生の心を読みでもしないとわからないじゃないかって、そう思いました?」
「えっ!? あ、や、な、なんで……」
(マジで読まれてる!?)
あたふたと挙動不審になるカイに、サトルは「ふふ」と目を細めた。
「それがなんと、和泉先生の心を読むまでもなく。ふたりだけなんですよ。いえ、アカリさんいれて3人ですね。カイくんも見てみればわかりますよ」
(違反してる女子生徒はその3人しかいなかったってこと……?)
今のは何だったんだろうと不思議に思いながらもいったんそれは置いて、渡されたバインダーをじっくり眺める。
思った通り、載っている名前は全部で40人ほどだ。生活指導担当の先生のお世辞にも綺麗とは言えない字で書かれているそれは、けれど女子生徒が3人なんてことはなかった。
どういうことだろうと考えながら用紙を何往復かしてる間に、
「あ」
横から覗き込んできたジンゴが先に気付く。
「3人とも昨日までの時点でイエローカード2枚か。で、今日アカリが遅刻してレッドカード」
「あ……。ほんとだ……」
違反者名簿には日付と学年クラス名前、そして違反項目が書いてある。
そして
重複して名前が書かれている女子生徒はこの3人だけだった。
「正解です。今日がまだ4月の始めで助かりました。数ヶ月後だったらきっとわからなくなってましたよ。……逆にジンゴさんは毎回あいさつ運動出てるんだから、僕より早く気づいてもいいのでは」
「無茶言うなよ、俺はキキと違って全校生徒の顔と名前まで覚えてません。お前ほど気が付くタイプでもねぇし」
両手を広げるジンゴに、
「あの、キキさん? って誰なんですか?」
カイはおずおずと話しかけた。
教師かとも思ったが、ふたりの口ぶりからそうではなさそうだ。けれどジンゴの話が本当なら千人以上いる全校生徒の顔と名前を把握していることになるし、通学経路までわかるらしい。一介の生徒にそんなことできるだろうか。
カイの疑問にサトルとジンゴは揃って顔を見合わせる。同時に口を開こうとして、結局ジンゴが先に喋る。
「そっか。お前まだ会ったことないんだっけ」
「もうひとりのお悩み相談部員ですよ。ジンゴさんと同じ3年生。そういえばキキさん、4月になってからまだ来れてないですね」
「ああ、そういえばもうひとりいるんでしたっけ。キキ先輩っていうんですね。女の人ですよね?」
「そうそう。ワリー、完全に紹介忘れてたわ。ちなみにアイツ副部長な」
顔の前で手を合わせるジンゴと反対に、サトルはなぜか微笑んだ。その顔はどことなく楽しそうだ。
「カイくん、いいことを教えてあげますよ。この学校の生徒に関して知りたいことがあれば、キキさんか新聞部部長に聞けば大体わかります」
「へえ。なんかよく知らないけど、すごいんですね、キキ先輩」
新聞部部長は、まあわかる。誰だか知らないけれど、新聞部の部長なのだ、きっといろいろな情報に詳しいのだろう。けれどお悩み相談部の副部長がそれと同列に出されるというのは、いったいどういうことだろう。確かにジンゴ先輩は顔が広そうだし、サトル先輩は推理力がすごいけど……。
(キキ先輩、何者?)
彼女の正体がいまいち掴めず、カイはふわふわとした返事をした。
「ふふ。きみはキキさんを知っているはずですよ。会ったことはなくても、見たことはあります」
「はあ。そりゃまあ、すれ違ったことくらいはあるかもしれませんけど」
「いえいえ、そういうのではなく。絶対に見たことがありますよ」
「なんでそんな言い切れるんですか? 結局、キキ先輩って何者なんですか?」
サトルのもったいぶった言い方に段々とイライラしてくる。それに答えたのはジンゴだった。サトルの持って回った言い方とは正反対に、――彼としては珍しく――ただ一言、素っ気なく。
「生徒会長」
教室がビリビリ震えるほどの大声を出したカイを、サトルはニコニコと珍獣を見る目で眺めていた。