――――――――
【活動報告】
日時:6月1日
作成:神宮開
相談者:1年4組 飯田初音 (クラス委員)
相談内容:
同じクラスの渡辺さんという女の子が友達に物を隠されているかもしれなくて、その友達にいじめられているかもしれないので、相談に乗ってほしい。
結果:
先輩はお悩み相談部の宣伝だけして終わってしまって、これでよくなるのかよくわからないです。
――――――――
「宣伝だけして終わったって……。もうちょっとマシな書き方あるでしょう」
活動報告を書きあげたそばから冷ややかな目で見つめられ、カイは唇を尖らせた。
「だってそうじゃないですか! あんな、『よくならなかったらまた来てください』って病院みたいなこと言って! 飯田さんだってモヤモヤした顔のまま帰ってましたよ」
「それは……そんなことないですよ」
「全力で目逸らしてるじゃないですか。どこ見てるんですか」
大きな眼鏡と長めの前髪を透かしてもわかるくらいに目を逸らしていた先輩はコホンと小さく咳をして、
「じゃあ……あの話、カイくんはどう思いました?」
小首をかしげて聞いてきた。
対してカイは、「う~~~ん」と、腕を組んで右に左に大きく首を振る。
「オカ研的思想で言うとですね、物を隠すっていうのはもっけの仕業かなぁと。持ち物を隠すことのある低級の妖怪ですね」
「……」
「でも、今回は……。正直、いじめとまではいかなくても、普通に渡辺さんはその友達とか、そうじゃなくても別の誰かにイタズラされてるのかなぁって思いました。だって、聞く限りそうとしか考えられないですもん」
「だから今回は静かだったんですね。いつも妖怪妖怪うるさいのに」
カイはオカルト研究会設立を目指していて、こと妖怪の話題となると熱くなりすぎることもしばしばだった。そしてその度、サトルから冷たい視線を向けられている。
カイはまた口を尖らせて、
「じゃあ先輩の考えはどうなんですか。あれじゃあ全然わかんないですよ」
「そうですね……。結論から言えば、僕はいじめとかイタズラとか、そういう悪意のあるものではないと考えています」
サトルは口元に一本指を立てた。彼が説明するときによくやる癖。
「順を追って話すと……。まず、飯田さんのクラスは席替えをしたばっかりじゃないですか」
「え?」
「え?」
カイが目を見開いて、その大きな瞳とばっちり視線のぶつかったサトルの目も見開かれる。
立てた指がへにゃりと曲がる。
「『え?』って……。あったじゃないですか。席替え」
「え、いや、そんなこと言ってましたっけ? え? 俺、聞き逃した??」
「いや、直接そうとは言ってませんでしたけど……。でも話を聞いてたらわかるじゃないですか」
「え、全然わかんないです」
数秒互いに見つめ合って、
「……あったんですよ」
「『あったんですよ』って! 先輩、ちゃんと教えてくださいよ~!」
(すごい! ジンゴ先輩がいないと全然話が進まない! サトル先輩と会話するのこんなに難しかったっけ!?)
内心頭を抱えるカイの横でサトルは思索にふけり始めた。数秒押し黙ってから、ゆっくりと話し出す。
「……入学から2か月経って、中間テストも終わったとこですからね。やるとこはやるだろう、って感じですけど……。ちゃんとあったと思ったのは……。まず、ハツネさんが『教室に入った時に渡辺さんが古典の予習をしてるのを見た』って言ってたじゃないですか。そこがおかしいというか、引っかかって」
「おかしいですか?」
別に、教室に入った時に相手の見ている教科書が目に入ることくらいあるだろう。そう思って首を傾げるカイに、「おかしいんですよ」とサトルはゆるゆると首を振った。
「1年生のいちばん最初の席順って、名前順じゃないですか。3年とかになればすぐに席替えすることもあるかもしれないけど、普通は苗字あいうえお順です。で、ハツネさんの苗字は飯田。名前順なら1番か2番でもおかしくない、1年4組なら席順で言えば廊下側前方の席になるはずです。対して「わ」の渡辺さんは、窓側後方。ふたりの席は対角線上になるはずなんですよ。そして入口に近いのはハツネさん。この席順のままだとすると、『教室に入ったときに渡辺さんがなんの教科書を開いていたか』とか、『渡辺さんが友達を振り返っていた』とか、ハツネさんには見えないんですよ」
そこら辺詳しいこと知りたかったらハツネさんにまた聞くか、生徒会長にでも聞けばわかるでしょうと続けるサトルに、カイはポンと手を打った。
「――あ。なるほど。だから席替えがあった、ってことですか」
「そうです。それにハツネさんはこういうことが起こるようになったのは最近だとも言っていた。つまり、最近なにかがあって、それから渡辺さんは物を隠されるようになった。その『なにか』と言うのが『席替え』、というわけですね」
「おー! さすが先輩!」
途端に目をキラキラさせる後輩からサトルは気まずそうに顔を逸らした。
ジンゴ先輩曰く、こういう時のサトル先輩は単純に照れているらしい。そのジンゴ先輩のいないときにヘタなことを言うとキレられそうなので、何か言うのはやめておくけれど。
生暖かい視線を向けてくる後輩をひと睨みしてから、
「で、ここまできたらもうある程度予想できるでしょう。授業で必要なものがないってなったら、普通どうします?」
サトルは指を立て直した。