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最終話

『ウオーーーン!』ドラゴン君があげた穴から、オオカミの遠吠えが微かに聞こえた。


(これ……リチャード殿下の遠吠えだわ)


 お腹にある紋様がリチャード殿下と離れてから、ズキズキ痛みをだしていた。しかし今は番を求めて反応している。


 これで助かる。

 そう思った瞬間、ガタンと馬車が横揺れに揺れた。

 お布団の上で、グッスリ眠っていた子供達は目を覚まして、見えない恐怖に怯え始める。


「大丈夫だよ、助けが来たからみんな落ち着こうね」

「みんな、オレの背に隠れろ」


 ドラゴン君は守る様に、私達の前に立ち塞がり。


「任せろ、何かあったら俺が戦ってやるよ!」

「ありがとう、ドラゴン君!」


 私はドラゴン君の後ろで、震える子供達を抱きしめた。


(大丈夫、大丈夫)




 微かに聞こえる、刃物が当たる音。

 時折、ガタガタと揺れる馬車を怖がる、子供達を抱きしめた。


「クソッ、今、外では何が起きている?」


 自分が付けたキズから入る音と外に出られない、もどかしさに声を上げたドラゴン君。……その音が止み、誰かが馬車の鍵をガチャガチャ開けようとした。


「クッ、みんなは俺の背から出るなよ」

「うん」


 ドキドキ鼓動が早くなる、鍵が空き。扉が開く。

 そこから私の知っている、優しい香りがした。


「リチャード殿下、来てくれたのですね」

「ああ、ミタリア迎えに来たぞ」


 開いた扉から愛しいオオカミが見えて、気が抜ける。

 ドラゴン君、子供達が降りて私の番になり、馬車から飛び降りると側に寄って来る、オオカミ姿のリチャード殿下。


「リチャード様、怪我は? ……怪我は治ったのですか?」


「あぁ、ミタリアの癒しが効きいたよ」


 猫の私はオオカミの彼に飛びつき、頬をスリスリ、スリスリ擦り合い、また会えた喜びを噛み締める。

 その、じゃれあう私たちの後ろで、ドラゴン君は眼鏡の方に怒られていた。


「シック様……あれほど一人で行動しないでと、私はお願いしたでしょう!」


「あ、いや、……悪かった。城の中を散歩していて、丁度この馬車に子供を乗せている所を見て……オレの同胞がいないか見に行って、逃がしているところを人間に見つかった」


「まったく、助けも呼ばないで! あなたは何をなさっているのですか!」


「……すまない」


(いま、あの眼鏡の人……彼をシックと呼んだ? あ、ドラゴン君は隠しキャラのシック、トルナード殿下なの⁉︎)


 リチャード殿下の次に人気のキャラだ……私は彼を攻略していないから、竜化する姿を見ても気付かなかったんだ。


「なんだ、ミタリア嬢はシック殿下が気になるのか?」


「えっ、違います……シック殿下に馬車の中で助けていただいたので……お礼を言わなくてはと思って」


「そうか、落ち着いたら二人でお礼を言いに行こう。それと、ミタリア、栞とハンカチありがとう大切にするよ」


「えっ、それはポーチに入れて胸元にしまっていた……プレゼント」


 ――そうだ、あの時ブレスレットが雷で外れて、獣化してしまったから……ドレスと一緒にしまっていたポーチも落ちてしまったのね。リチャード殿下はそのポーチを見つけてくれたんだ。


「お返しに、俺もミタリア嬢に渡したい物がある、城に戻ったら渡すよ。さて、疲れたな……俺達は先に帰るか」


「いいのですか?」


 殺してはいないもの、デンス所長、御者などを捕まえ、メガネさんの指示で竜人の騎士が縄で縛り上げている。

 その彼らを置いて行ってしまってもいいのかと、ミタリアは心配した。


「ミタリア嬢、残りたいのは山々だが……俺とリルはブレスレットが壊れてオオカミ、犬、猫の獣化したままだ……これでは彼らの邪魔になってしまう」


「そうです、獣化したままでは戦う以外……役に立ちません。私は城に戻りしだい、騎士団に連絡いたします」


「そうしてくれ、リル」


 後を彼らに任せて、リチャード殿下の背中に乗せてもらい戻った城り、リチャード殿下とリルは報告の為に陛下の所に向かった。



 私はリチャード殿下の部屋で待ち、戻ってきた彼に、手作りのペアリングを貰った。


「サイズは合っていると思う」


「この指輪……もしかして、リチャード様が作ったの? ……私の薬指にピッタリ、素敵、可愛いわ」


 このお揃いの指輪には獣化抑制の魔石は着いていない。

 その理由は、指輪の付け外しはしたくないと、殿下は言った。


「ミタリア嬢、来い」

「リチャード様!」


 両手を広げたリチャード殿下の腕の中に飛び込むと、優しく抱きしめられた。頬と頬をスリスリ、スリスリした後、殿下に優しく見つめられた。


「俺だけのミタリア嬢、俺だけの愛しい番……」


 おでこをコツンとくっ付け笑い合い。

 ジワーッと、お腹が今まで以上に熱くなった。


 部屋に戻り夕飯まで過ごし、夕食をいただいたあと、

 王妃殿下、王女様、王子に見守られながら……獣化した猫の姿で『オフトゥン召喚』と『癒し』で、国王陛下の傷を癒した。



 ――数分後


「これは……医者に治るまで三ヶ月だと言われた、腕と胸の傷が塞がった……ミタリア嬢、感謝する」


 陛下に頭を撫でてもらい、役に立てたと喜んだ。


「ミタリア嬢、ありがとう」

「どういたしまして」


 私はリチャード殿下のその素敵な笑顔を側で、これからも見たいです。





 後日談。


 デンス所長は捕まり牢屋に入れられた、刑はまだ確定していない。国王陛下は人族とは二度と貿易、交流を一切しないと国境を封鎖してしまった。


 カーエン殿下は学園を退学処分となり、国へと送り返された。彼と、二度と会わなくていいんだとホッと胸を撫でおろした。


 獣人の国ローランドは人族の国との交易は停止したが。

 代わりに、竜人国との交易、交流が盛んになるとリチャード殿下は教えてくれた。


 デンス所長に買われた国の違う子達はいったん王都の教会に預けられて、成人をしたら獣化を生かした職業に着くらしい。


 私とリチャード殿下は視察がてら、遊びに行こうと話している。





 あれから数年が経ち、私達は学園の二年生になった。


「シック殿下、いい加減に俺のミタリア嬢に近付かないでもらおうか!」


「ミタリア嬢、我の方がよくないか?」


 ドラゴン君こと、竜人国の第三王子シック様は二つ年上だけと、無理を言って学園の同じ学年に留学してきた。彼の側近の眼鏡さんとも同じ学年。


 どうやら、馬車での一件で私の特殊能力を気に入ったらしい。リチャード殿下と二人でいると邪魔をしてくる。


 そして、ヒロイン弟、兎のリリネ君も学園に入学してきた。彼の姉、ヒロインちゃんはというと、幼馴染君と結婚して、前世の記憶を生かしてジャガイモの料理店を始めて、かなり繁盛しているらしい。


 私は悪役令嬢らしいこともせず。

 ヒロイン不在のまま、のんびりと学園生活は続く。


「ミタリア嬢、二人きりで昼寝しよう」

「はい、リチャード様!」


 大好きなリチャード殿下と、好きなオフトンの上で、


「【オフトン召還】」


 ポフン!

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