「……リチャード様?」
彼の声が聞こえたような気がして、あたりを見るもいるわけがない。いま私はオフトンの上で、みんなを癒しているのだから。
(会いたいと思うから……幻覚が聞こえたのね)
私の癒しの力が効いて、ドラゴン君の羽と身体中の傷もすっかり治ったみたいだけど、折られてしまった爪はまだ治っていなかった。
「癒しの力ら気持ちいいな……『オフトン召喚』と『オフトンの上だけの癒し』だっけ? 面白い特殊能力だ」
「面白いかぁ。そうよね……でもこの力で、あなたの怪我が治ってよかったわ」
どうして、ドラゴン君が捕まったのか話しを聞くと、
ドラゴン君は自国で起こる子ドラゴン誘拐の探りを入れる為に、本日開催された舞踏会に参加していたらしい。
彼の国で、前々からデンス所長は怪しいと噂があったと言った。今日の舞踏会の会場で奴を見かけて、後をコッソリ追うと、奴は王城の離れで泣き叫ぶ獣化した子供たちを、この馬車に乗せるところを見た。
助けを呼ぶか迷ったが……
奴が馬車から離れたその隙に、中を覗くと同胞の子ドラゴンたちを見つけて、逃がそうとしていた所を見つかり、庇って怪我をしたみたい。
元の姿、竜人には戻らないのと聞くと。
彼もまた竜化から戻るには、私達同じで『竜化を抑制する魔石』がいるらしい。
ドラゴン君は捕まった時に、魔石付きのピアスが壊れちまったと、言った。
「そうだ、私と同じで、ドラゴン君にも特殊能力が無いの?」
「あるにはあるが……オレの特殊能力は爪で攻撃する『ドラゴンクロー』だ……奴らに爪を折られていて……今、君の『オフトン癒し』で癒し中だ」
彼の爪が治るまでは、まだ時間がかかる。
馬車が国境を越えるまでに治るか、治らないかも分からない。と、彼は言った。
(彼の爪が治れば、この子達を助けれるかも……お願い治って!)
あれからどれくらい経ったのか分からない。
子供達はハシャギ疲れて、オフトンの上でスヤスヤ眠ってしまった。私とドラゴン君はオフトンの上で、彼の爪が治るのを待っている。
その間も馬車は休む事なく、国境に向かっている。
焦ってくる――早く治って、治ってと私は願った。
(眠い、疲れてきた……)
爪を治しながらお布団の暖かさと、癒しを使いウトウトしていた。その私を揺さぶり声を上げるドラゴン君。
「おい、治った、爪が攻撃が出来るくらいまで治った……ぞ。アイツらが休憩に入ったら、ここから逃げるぞ」
「ええ、逃げましょう!」
数分後――馬車が止まり、休憩に入る様だ。
ドラゴン君は『ドラゴンクロー!!』と叫び、治ったばかりの爪で檻の壁を攻撃した。
ガギン! と、音鳴らして檻にキズをつけた。