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第60話

「……リチャード様?」


 彼の声が聞こえたような気がして、あたりを見るもいるわけがない。いま私はオフトンの上で、みんなを癒しているのだから。


(会いたいと思うから……幻覚が聞こえたのね)


 私の癒しの力が効いて、ドラゴン君の羽と身体中の傷もすっかり治ったみたいだけど、折られてしまった爪はまだ治っていなかった。


「癒しの力ら気持ちいいな……『オフトン召喚』と『オフトンの上だけの癒し』だっけ? 面白い特殊能力だ」


「面白いかぁ。そうよね……でもこの力で、あなたの怪我が治ってよかったわ」


 どうして、ドラゴン君が捕まったのか話しを聞くと、  

 ドラゴン君は自国で起こる子ドラゴン誘拐の探りを入れる為に、本日開催された舞踏会に参加していたらしい。


 彼の国で、前々からデンス所長は怪しいと噂があったと言った。今日の舞踏会の会場で奴を見かけて、後をコッソリ追うと、奴は王城の離れで泣き叫ぶ獣化した子供たちを、この馬車に乗せるところを見た。


 助けを呼ぶか迷ったが……


 奴が馬車から離れたその隙に、中を覗くと同胞の子ドラゴンたちを見つけて、逃がそうとしていた所を見つかり、庇って怪我をしたみたい。


 元の姿、竜人には戻らないのと聞くと。

 彼もまた竜化から戻るには、私達同じで『竜化を抑制する魔石』がいるらしい。


 ドラゴン君は捕まった時に、魔石付きのピアスが壊れちまったと、言った。


「そうだ、私と同じで、ドラゴン君にも特殊能力が無いの?」


「あるにはあるが……オレの特殊能力は爪で攻撃する『ドラゴンクロー』だ……奴らに爪を折られていて……今、君の『オフトン癒し』で癒し中だ」


 彼の爪が治るまでは、まだ時間がかかる。

 馬車が国境を越えるまでに治るか、治らないかも分からない。と、彼は言った。


(彼の爪が治れば、この子達を助けれるかも……お願い治って!)



 あれからどれくらい経ったのか分からない。

 子供達はハシャギ疲れて、オフトンの上でスヤスヤ眠ってしまった。私とドラゴン君はオフトンの上で、彼の爪が治るのを待っている。


 その間も馬車は休む事なく、国境に向かっている。

 焦ってくる――早く治って、治ってと私は願った。


(眠い、疲れてきた……)


 爪を治しながらお布団の暖かさと、癒しを使いウトウトしていた。その私を揺さぶり声を上げるドラゴン君。


「おい、治った、爪が攻撃が出来るくらいまで治った……ぞ。アイツらが休憩に入ったら、ここから逃げるぞ」


「ええ、逃げましょう!」



 数分後――馬車が止まり、休憩に入る様だ。

 ドラゴン君は『ドラゴンクロー!!』と叫び、治ったばかりの爪で檻の壁を攻撃した。


 ガギン! と、音鳴らして檻にキズをつけた。

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