ここ王城の舞踏会の会場。騎士、城の者は戻り会場の後片付けを始めた。雷に打たれたリチャード達はしばらくして動ける様になり、大怪我を負う父上を医務室へと運び、声を上げた。
「信じられない……デンス所長が母上と妹を狙い、父上に怪我を負わせて、俺のミタリア嬢を連れていくとは……」
前に父上からデンス所長が怪しいと聞き、あの人が? と俺は信じられずにいた……しかし奴は真っ黒だった。
(人族の王子カーエン殿下と手を組んでいた事を見抜けないとは……俺もまだまだ未熟者だな)
「落ち込むなリチャード。……ふうっ、デンスめ、我々に追跡をさせないよう特殊な馬車にて移動中のようだ。サーチがうまくいかない」
「それなら……お、僕に考えがあります。父上はゆっくり寝ていてください。リル、行くぞ! 二人は父上と母上、妹を守ってくれ!」
「リチャード様、かしこまりました」
俺たちは一旦、会場に戻りミタリアの私物を探した。
特殊能力の匂いサーチをする為だ……もしもの為にと、ミタリア嬢には俺の匂いをべったりつけておいた。
ミタリア嬢には慣れ親しんだ俺の香り。
彼女は気付かず『たまにいい香り』だと言っていた。
一応、その自分の香りでも追えるが……念の為、他の彼女の私物が無いかと探していて、ドレス近くに水色のポーチを見つけた。
「このポーチは、ミタリア嬢のか?」
さっきの落雷で、金属部分のファスナーは壊れていた。
中身は何? とポーチの中身を出してみた。
「栞とハンカチ?」
このハンカチの隅にはオオカミの刺繍がしてあり、ポーチの中に手紙も入っていた。
手紙の内容は俺の誕生を祝う言葉と『前に渡した、ハンカチよりも刺繍上手くなりましたわ。本をたくさん読むリチャード様に私とお揃いの栞を作りました、使ってね』……可愛らしい、ミタリア嬢の文字で書かれていた。
(ミタリア……)
手紙を持つ手が震えて、目頭が熱くなる……いますぐ見つけ出して、この手で彼女を抱きしめたい。
「ミタリア様はお優しい方ですね」
「あぁ、リル惚れるなよ……必ず、この手の中に取り戻してやる、待っていろ……っ、ミタリア嬢!」