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第58話

「ミタリア様すぐに着きますので、この中で大人しくしていてください」


 と扉を開けられたのは、馬車というか檻だった。


「この檻はですね」と私を捕まえ、少々浮かれ気味のデンス所長は隣で楽しげに話す。この檻は特別な金属で出来ていて、いくら鼻と耳が効く国王陛下、リチャード殿下にも探し出せないと。


 中は空気穴が数箇所空いているだけで、窓はなく、中には丸く光る玉が一つ二つプカプカ浮いていた。


「乗り心地は良くありませんが、すぐに着きますからお許しください」


 デンス所長に押し込まれた檻の中は、私だけだと思っていたが。中に小さい虎の子、犬の子、私と同じ猫の子が檻の隅に固まり、カタカタ震えて泣いていた。


(この子達も私と同じで、獣化しているわ)


「……ウウッ」

「怖いよ」

「お家に帰して」


「無理な話ですね。それにしてもピーピー泣いてうるさいですね、静かに乗っていなさい!」


「「ひっ!!」」


 まさか! この子達……扉を閉めようとするデンスに聞いた。


「あなた、こんな小さい子達をどうするおつもりですか?」


「おやおや、ミタリア様は気になりますか? ふふ、なにも心配はいりません。この子達はローランド国ではない隣国の、それも一般庶民から買ってきた子達です。みんな要らない子達なので私の実験に使います」


「実験?」

「えぇ、とても良い実験体です」


(この子達が実験体? イカれているわ……同じ獣人族なのになんて恐ろしい)


「さぁお喋りはここまでにして、楽しい人間の国へ向かいましょう。おい、馬車を出せ!」


「かしこまりました」


 そう御者伝えると、デンス所長は扉を閉めて鍵を閉めた。




 すぐ動き出した檻の中で、子供達の鳴き声が聞こえた……私だって怖い、だからって泣かない。そうだ私の『オフトン召喚』でこの子達を癒してあげよう。   


 そう決まれば、私は手を握り。


「みんな待っていてね。今、フカフカなオフトンを召喚するから!」


 子供達に元気な声をかけて。


「『オフトン召喚!!』」


 を唱えた。


 檻の中にぽふんと、フカフカなオフトンが現れる。

 突然、現れたオフトンに驚く子供達。


「うわぁ、布団だ」

「フカフカ」

「あったかい!」


「みんな、オフトンの上に乗って」


 みんなは素直に、オフトンの上に乗ってくれた。

 だけと、この中に隅っこで背を向けて座る子供が一人いた。私はその子にも話しかける。


「あなたも、みんなと一緒にオフトンに乗らない?」


「ワレは結構、獣人族の施しなど受けぬ」


(な、なに? この子?)


 よく見れば背中に羽を生やして、鱗状の尻尾が見えた。


(竜人族の子……子ドラゴンだわ)


「君もおいでよ。みんなオフトンを楽しんでるよ」

「ふん、ワレを子供扱いするな!」


 でも、この竜人族の子は羽と体に幾つもの怪我を負い……手当もされていなくて血が流れていた。


「あなた、ひどい怪我をしているわ……早くオフトンの上に乗って!」


「あ? オフトンの上なんかに乗ってなんになる!」

「なるわ、少しずつだけど怪我が治るの」


「何? お前は怪我を治せるのか?」


 コクンと頷いた。


「少しずつだけど怪我を癒せるわ……だからお願い、オフトンの上に乗って!」


「わかった」と、子ドラゴンもオフトンの上に乗ってくれた。

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