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第56話

 会場内の雨は、魔法が切れるまでやまないだろう。

 あ、別の何処かで、ドンドン膨らむ魔力を感じた。


(また、何かの魔法を放つの?)


 会場内にいた貴族たちはバルコニーから騎士の指示で、外に出ていった。今、舞踏会が開催されていた会場にとどまるのは、指示を出す国王陛下と陛下を守る騎士数名と、中央にカーエン殿下と側近と、いつの間にか現れた彼の近衛騎士。


 リチャード殿下はいまだに動かない、カーエン殿下を睨み付け。


「カーエン殿下は何故、あなたは逃げない!」


 そう叫んでも彼は何も答えず、私に目線を向け歪んだ笑いを浮かべるだけ。カーエン殿下はもはや不気味過な存在。


「ミタリア嬢、お前らも、魔力が膨れ上がる前にここから出るぞ!」


「かしこまりました、リチャード様」


「「はっ!」」


 リチャード殿下は私の手を掴んで、バルコニーの方に走りだすが。高めのヒール、ドレスのスカートが足に巻きつき、転びそうになる。そんな私をリチャード殿下は引き寄せ、お姫様抱っこをした。


「すまない、ミタリア嬢……そのドレス姿では走りにくかったな」


「いいえ、平気です。リチャード様、待って『オフトン召喚』」


 と、唱え。濡れた足元に長細い橋をイメージした、お布団を召喚する。私専用の猫マーク付きの魔法陣が光り、ボフンと出口まで届く、長細いオフトンが現れた。


「成功! リチャード様、今出したオフトンを踏んでいけば、今の履き物でも濡れた会場内で転ばなくてすむと思います。会場内に残っている皆さんも、遠慮せずオフトンを踏んでください!」


「「「はい!」」」


 降りしきる雨から、大切な楽器を守っていた演奏者たち。料理を片付けていた、コック達に向けて大声を上げた。


 私達は彼らに『こちらです!』と、リチャード殿下に運ばれながら、先に彼らを外へと誘導した。


 みんな外逃げ、この場に残ったのは私達と国王陛下と陛下の護衛。あとは私達が外に避難して終わりのはずだった……


「へえ、面白い魔法だね。あれがミタリアちゃんの特殊能力か……見た目に合った可愛い能力だ、ますます欲しくなる」


 笑いを含めた声まで話すカーエン殿下に、リチャード殿下はその場に足を止めて、彼を睨み付けた。


「当たり前だ! 俺の婚約者は可愛いだろう? 狙っている様だが、貴様などにやるわけにはいかない」


 二人の目線がかち合う。


「ハハハッ、さて、どうかな? そう言ってられるのも、いまのうちだと思うよ……リチャード殿下」


 カーエン殿下はそう言い、手に持ったガラス瓶の様なものを床に向けて投げつけた。ガラスの瓶は粉々に砕け散り、彼らの足元に真っ白な紋様の魔法陣が現れる。


「いかん! リチャード、その場から離れろ!」


 壇上から陛下の声が飛び、此方に飛んで来ようとしたが、護衛の騎士達に止められた。


「父上? カーエン、なにをする気だ!」


「何って、腑抜けた獣人の国は気付くのが遅いね。一つ、良いことを教えてあげる。僕は囮なんだよ、リチャード殿下」


 そう言い残して、カーエン殿下たちは現れた光りの中に、ニヒルに微笑み消えていく。


 ――その直後、何処からか膨れ上がった魔力は私達に向けて放たれ、会場内に響く爆発音と共にイカズチが落ち、それをもろに喰らった私達は、壁まで吹っ飛ばされた。


「きゃっ!」  

「ヴクッ!」


 この衝撃で、身につけていたブレスレットが音を立て壊れ、私達は獣化した。また、雨で濡れた衣装は電気を通しやすい、リチャード殿下とリル、護衛二人はイカズチを喰らい転々と倒れている。


 しかし、イカズチを喰らっても護衛の魔法壁に守られた国王陛下と、何故か、私だけ……なんともなかった。私の目の前で、うめき声をあげるオオカミ姿のリチャード殿下リル、近衛騎士があった。


「リ、リチャード様!」


 私は急いで、リチャード殿下の元に駆け寄った。

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