舞踏会は何事もなく、順調に進んでいた。
王妃様似の可愛い王女様の誕生祝いから、リチャード殿下の誕生祝いの挨拶が終わり。国王陛下の合図と共に生演奏が奏でられ、舞踏会におとずれた人々は婚約者、意中の相手、恋人同士は手を取りダンスを始めた。
「ミタリア嬢、俺と踊ろう」
「はい、リチャード様」
私もリチャード殿下と手を取り合い、ファーストダンスを始めた。初めてリチャード殿下とのダンス、流れる曲に合わせてワルツを優雅に踊る。
(この日のためにお父様と、ダンスの練習しておいてよかった)
「ミタリア嬢は楽しそうに踊るな」
「えぇ楽しいですわ、リチャード様は?」
「俺も楽しい、ミタリア嬢とダンスを踊れて幸せだ……嫌がる、リルと練習してよかったよ」
「まあ、私はお父様と練習しましたわ」
そうかと、二人で笑い合いしばし踊った。
♱♱♱
会場内で飲み物を運ぶ給仕係が側を通ると、リチャード殿下は呼び止めた。
「ミタリア嬢は桃のジュースと苺ジュースどちらにする?」
「私は苺ジュースが欲しいです」
「わかったよ、俺のお姫様」
「お姫様? い……いただきます」
リチャード殿下と連続でダンスを披露して、ヘトヘトな私たちはフレッシュジュースで喉を潤して、食事が準備されたテーブルを見回した。
「ミタリア嬢、見ろよ。野菜の他に鳥と豚、牛肉、羊肉……珍しい猪肉があるぞ!」
「どれも美味しそう。私は鳥がいいかしら、付け合わせはジャガイモとカボチャをお願い」
「俺は猪かな? 付け合わせは俺もジャガイモとカボチャよろしく」
テーブルに着き、準備された料理をたいらげた私達は、次にどの料理を食べるか話をしていた。
――そのとき、異様な魔力を感じ取る。
「……なんだ?」
「……?」
私達と同じく勘付いた数人の貴族、騎士は慌ただしく会場内を見渡し。隊長らしい人物は騎士数名に命令を出し、会場を離れ、城内の見回りに行った。
(今、何処かで魔力が膨れ上がった……)
私とリチャード殿下はテーブルから立ち上がり、数名の貴族、騎士は辺り見回す。
「いま、何者が魔法を放つわ!」
「いま、誰かが魔法を使用するぞ!」
リチャード殿下と同時に私の声が被り、私達の足元に会場を埋め尽くす、水色の幾つもの魔法陣が現れた。
「これって……魔法陣?」
「魔法陣だと? 本当かミタリア嬢?」
「ええ……えっと、ゲームで見た事があるだけですが」
「ゲーム? ああ前世の話か」
リチャード殿下がわからない事もわかる。
獣化する獣人が使用する魔法陣には一箇所、種族の模様が入っている。私の場合は猫でリチャード殿下はオオカミ、ほかにも虎、ライオン、犬などある。
この場に現れた魔法陣にはそれがなく、幾何学模様。
だとすると魔法を使ったのは獣人ではなく、何者かが魔法を使ったことになる。
(まさか、人族?)
咄嗟にカーエン殿下を探しで見つけた。
しかし……彼はこの騒動に驚くことなく、舞踏会の会場の中央に平然と立っていた。
(クッ……また何処からか魔力を感じる)
「ミタリア嬢!」
サッと、リチャード殿下が私を背に庇うように立ち塞がり、仕切りに耳を立てて会場内を見渡し始め。小声で『何処た』『何処にいる?』と仕切りに、カーエン殿下ではない誰かを探していた。
離れていた側近リル、近衛騎士二人も集まり、殿下を守るように立ち剣を構えた。
壇上の席に移動していた国王陛下は、王妃様と何か分からない恐怖に、泣き出してしまった王女様を守っている。
すぐ陛下の合図で密偵たちが現れて、王妃様と王女様を守るようにして、会場の外へと連れていった。
(これで王妃様と、王女様は陛下の密偵に守られて安心だ)
「ミタリア嬢、俺の背中から出るな」
「はい、リチャード様!」
ポツリと、冷たい雫が頬に落ちる。その雫はポツ、ポツポツと雨の様に会場内で降り始める。会場内は突然の降り始めた雨にざわつき、皆は動揺し始めた。
「きゃあぁぁあぁ!」
誰かがあげた恐怖の声に周りも反応し、動揺し始める。
「どけ、邪魔をするな!」
「逃げろ!」
「助けてくれぇ!」
あわ目ふためく会場内で、凛とした国王陛下の声が響く。
「皆の者、落ち着け! 各々、大切な者を守り! バルコニーに近い者から順次に外に逃げよ!」
慌てていた貴族達は落ち着きを取り戻し、国王の言葉に皆は従い、大切な者と手をガッチリ繋ぎ、騎士の誘導で外へと逃げていった。