舞踏会の会場の入り口で呼び係に名前を呼ばれて、リチャード殿下にエスコートされて、大階段から会場に入場する。
会場の中はこのまえ行われた、学生だけの舞踏会とは違い。多くの貴族が呼ばれて舞踏会へと参加していた。本日の舞踏会はお昼過ぎ開催のため、バラが見渡せるバルコニーも解放されて、中庭に出られる様になっていた。
時折バルコニーから吹く爽やかな風と、中庭に咲く薔薇の良い香りが会場内に香っていた。
「ミタリア嬢、怖気付くな行くぞ」
「はひっ、リチャード様」
「なんだその返事、可愛すぎだろ」
さっきまでの緊張したリチャード殿下とは違い、いつもと変わらない殿下に戻っていた。
(オフトンが効いたのかな? よかった)
会場の中に進むに連れて、私達に貴族達の注目が集まる。年頃の令嬢の視線は騎士団との訓練で、体付きが一回り変わった殿下に向けられる。
「リチャード殿下、素敵だわ」
「なぜ、黒猫族のあの子が選ばれたの?」
「わたくしの方が釣り合いが取れて、お似合いよ」
リチャード殿下の隣にいる私に向けて、鋭い嫉妬の視線を送ってきた。ご令嬢達の気持ちわかる――リチャード殿下は本当に男らしくなった。私は気付かないようリチャード殿下を眺め、隣で胸をときめかせていた。
「ミタリア嬢、桃のジュースだって飲むかい?」
「……は、はい、桃のジュース? いただきます」
「俺の横で、なにを考えていた?」
と、殿下に覗き込む様に見られ反射的に。
「リチャード様が素敵だから……ほら、周りのご令嬢達がリチャード様を見て頬を赤らめているわ」
そう伝えると、チラッとご令嬢達を見たけど殿下は興味がないらしく。私の手を引くと、人混みを避けるように歩いて行ってしまう。
「リ、リチャード様どこに?」
「黙って、着いて来て」
手を引かれて着いたのはリチャード殿下の側近リルと、近衛騎士二人がいる所だった。みんなに合図して彼らの背に隠れた。
「ジロジロ見られるのは好きじゃない……舞踏会の会場に入ってから、ミタリア嬢を値踏みするように見やがって……」
「気付いてらしたのね」
「ああ、今、この会場内で気配サーチを使っている。父上にミタリア嬢を守れと言われた。外の警備は父上の部隊が監視しているが……奴らは今中にいる。部隊は父上、母上、妹を優先的に守る。次は来場者だ。自分の身は自分でと、俺が今奴らの位置をいま把握している」
「その人物はカーエン殿下がですか?」
「ああ……そして、彼を手助けている者がいる。大体の目星は一応ついてはいるが……俺は信じたくない。ミタリア嬢は絶対に俺が、いや俺達で守る」
リチャード殿下は耳をピンと立てて会場を見渡した。
その彼の視線の先には軍服を見にまとった、カーエン殿下と側近がいた。
(こんな、大勢がいるの中で彼らは何をしてかすというの?)
こちらに視線を向けフッと笑ったかの様に見えた、カーエン殿下に緊張と喉がゴクリと鳴った。
(自惚れてはいないけど、私を見て笑った? まだ、彼は私を狙っているんだ?)
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国王と王妃、王女が呼ばれて会場内が湧く。
みんなの視線が向けられる。この場に国王陛下と王妃様、生まれたばかりの王女様が大階段に現れた。本日の舞踏会はリチャード殿下の誕生会を兼ねているから、殿下もそちらに向かうのだと思ったのだけど、彼はこの場を動かない。
「リチャード様は行かれないのですか?」
視線を向けると、首を振る。
「俺は行かないよ。自分の名前を呼ばれたら、この場で挨拶をするから」
と、リチャード殿下は言った。