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第51話

 リチャード殿下と、庭園のテラスで日向ぼっこしていた。

 テーブルには王城のコックの新作、焼きカボチャプリンと桃が乗ったミルクプリン、ブルーベリーのシャーベットが置かれている。


「コックの話だと、砂糖を殆ど使わず作ったと言っていた」

「そうなんですか? こんなに甘く、美味しいのに……」


 王城のコックは研究熱心で、私が王城へ来るたびに新作のお菓子を作ってくれる。あまりのおいしさに、毎回レシピを貰って帰るほどだ。


 ひんやりしたブルーベリーのシャーベットを食べながら、リチャード殿下は私の話を聞いている。


「リチャード様は驚くと思いますが、私には前世の記憶があります」


「前世の記憶?」


 この世界が前世……癒しにしていた乙女ゲームに似ていて、私が悪役令嬢だということ。リリネ君のお姉さんがヒロインでリチャード殿下と恋に落ちて、最後に私と婚約破棄をするということを伝えた。


「それはゲームの中での物語だよな……ぜってぇ、ミタリア嬢とは婚約破棄しない。すぐにでも結婚して子供が欲しい位なのに」


「結婚、子供?」


 どうやら殿下は王妃様のお生みになった、妹様が芦原にも可愛いからか、ご自分も結婚して子供が欲しくなったみたい。


「俺とミタリア嬢の子供は、とても可愛いだろうな」


 楽しそうに、リチャード殿下が語った。



 話は進みチココの話になる。


「じゃ、チココが食べてはならない食べ物だと、知っていたのは前世の記憶だったのだな」


「はい、そうです」


「信じがたい話だが、大体のところはわかった。――それでミタリア嬢は、そのゲームとかいう物で誰を推していた?」


「えっ、誰推し?」


 今、前世の話と乙女ゲームの話をして、最初に出た言葉が誰推し? リチャード殿下は私が前世の記憶を持っていることも、さほど驚いていない様子。


 この話をするって緊張していたのに、なんだか拍子抜けしてしまって、こっちから殿下に聞いてしまった。


「色々と、気にならないのですか?」


「前世の記憶を持っていてもミタリア嬢は、ミタリア嬢だろ? 焼きカボチャと桃、どっちのプリンがいい?」


 今度はプリンの話になった。


「私は……両方食べたいです」


「ハハハッ、ミタリア嬢ならそう言うと思っていた。じゃー俺と半分こな。……俺が気になるのは前世のミタリア嬢の推しは誰だった? ってことそれだけだ」


 ど、どれだけリチャード殿下は、前世の私の押しを知りたいの。言えと言わんばかりに、ジッと青い瞳を向けられた。


 そんなに気になるのなら。

 もう、言っちゃえと。


「わ、私の推しは……リ……ド様でしゅ(噛んだ)」


「はぁ? よく聞こえなかった、もう一度言って」


「リチャード様です!」

「聞こえなかった、もう一度」


「……え?」


 嘘だ……リチャード殿下の口元が笑ってるもの。


 ――素敵すぎるよ、リチャード殿下。元々、獣人好きで銀色の髪、青い瞳、耳と尻尾……リチャード殿下を知れば知るほど、大好きになった。




 ♱♱♱




 前世の話をしてから、1週間が経ち。


 出産後の経過がよく、王妃様と王妃様似の可愛いお子様は無事に王都に戻られた。王女誕生祝いと殿下の誕生会などを含めた、舞踏会の日時が私の誕生日の日に決まった。


 リチャード殿下は執務、舞踏会の準備のなどが忙しく、学園に来れない日々が続いている。


 殿下に、ほんの少しの時間しか会えなくて寂しいけど、この間は私も忙しかった。学園からすぐ家に戻りリチャード殿下にプレゼントする、ハンカチにオオカミの刺繍をさしたり。ナターシャに頼んでルピナスの白い花を買ってきてもらった。


 この、ルピナスの白い花を押し花にして、殿下とお揃いの栞を作りたかった。ルピナスの白い花の花言葉『つねに幸福』が気に入ったから。


「リチャード様、ハンカチと栞、喜んでくれるかしら?」


 殿下の笑顔が見たくて、内緒でプレゼントを黙々と作っていた。



 それはリチャード殿下もだった。五月のミタリアの誕生日に婚約指輪を贈りたい、もちろん手作りで。


 リチャードもまた空いた時間を使い、彫金屋に通っていたのだった。

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