リチャード殿下と、庭園のテラスで日向ぼっこしていた。
テーブルには王城のコックの新作、焼きカボチャプリンと桃が乗ったミルクプリン、ブルーベリーのシャーベットが置かれている。
「コックの話だと、砂糖を殆ど使わず作ったと言っていた」
「そうなんですか? こんなに甘く、美味しいのに……」
王城のコックは研究熱心で、私が王城へ来るたびに新作のお菓子を作ってくれる。あまりのおいしさに、毎回レシピを貰って帰るほどだ。
ひんやりしたブルーベリーのシャーベットを食べながら、リチャード殿下は私の話を聞いている。
「リチャード様は驚くと思いますが、私には前世の記憶があります」
「前世の記憶?」
この世界が前世……癒しにしていた乙女ゲームに似ていて、私が悪役令嬢だということ。リリネ君のお姉さんがヒロインでリチャード殿下と恋に落ちて、最後に私と婚約破棄をするということを伝えた。
「それはゲームの中での物語だよな……ぜってぇ、ミタリア嬢とは婚約破棄しない。すぐにでも結婚して子供が欲しい位なのに」
「結婚、子供?」
どうやら殿下は王妃様のお生みになった、妹様が芦原にも可愛いからか、ご自分も結婚して子供が欲しくなったみたい。
「俺とミタリア嬢の子供は、とても可愛いだろうな」
楽しそうに、リチャード殿下が語った。
話は進みチココの話になる。
「じゃ、チココが食べてはならない食べ物だと、知っていたのは前世の記憶だったのだな」
「はい、そうです」
「信じがたい話だが、大体のところはわかった。――それでミタリア嬢は、そのゲームとかいう物で誰を推していた?」
「えっ、誰推し?」
今、前世の話と乙女ゲームの話をして、最初に出た言葉が誰推し? リチャード殿下は私が前世の記憶を持っていることも、さほど驚いていない様子。
この話をするって緊張していたのに、なんだか拍子抜けしてしまって、こっちから殿下に聞いてしまった。
「色々と、気にならないのですか?」
「前世の記憶を持っていてもミタリア嬢は、ミタリア嬢だろ? 焼きカボチャと桃、どっちのプリンがいい?」
今度はプリンの話になった。
「私は……両方食べたいです」
「ハハハッ、ミタリア嬢ならそう言うと思っていた。じゃー俺と半分こな。……俺が気になるのは前世のミタリア嬢の推しは誰だった? ってことそれだけだ」
ど、どれだけリチャード殿下は、前世の私の押しを知りたいの。言えと言わんばかりに、ジッと青い瞳を向けられた。
そんなに気になるのなら。
もう、言っちゃえと。
「わ、私の推しは……リ……ド様でしゅ(噛んだ)」
「はぁ? よく聞こえなかった、もう一度言って」
「リチャード様です!」
「聞こえなかった、もう一度」
「……え?」
嘘だ……リチャード殿下の口元が笑ってるもの。
――素敵すぎるよ、リチャード殿下。元々、獣人好きで銀色の髪、青い瞳、耳と尻尾……リチャード殿下を知れば知るほど、大好きになった。
♱♱♱
前世の話をしてから、1週間が経ち。
出産後の経過がよく、王妃様と王妃様似の可愛いお子様は無事に王都に戻られた。王女誕生祝いと殿下の誕生会などを含めた、舞踏会の日時が私の誕生日の日に決まった。
リチャード殿下は執務、舞踏会の準備のなどが忙しく、学園に来れない日々が続いている。
殿下に、ほんの少しの時間しか会えなくて寂しいけど、この間は私も忙しかった。学園からすぐ家に戻りリチャード殿下にプレゼントする、ハンカチにオオカミの刺繍をさしたり。ナターシャに頼んでルピナスの白い花を買ってきてもらった。
この、ルピナスの白い花を押し花にして、殿下とお揃いの栞を作りたかった。ルピナスの白い花の花言葉『つねに幸福』が気に入ったから。
「リチャード様、ハンカチと栞、喜んでくれるかしら?」
殿下の笑顔が見たくて、内緒でプレゼントを黙々と作っていた。
それはリチャード殿下もだった。五月のミタリアの誕生日に婚約指輪を贈りたい、もちろん手作りで。
リチャードもまた空いた時間を使い、彫金屋に通っていたのだった。