王妃様のご出産も気になるけど、リチャード殿下に話す前世の話の事も気になっている。私は栄養が高い、新作カボチャケーキを食べながらボーッとしていた。
「ミタリア嬢、話は落ち着いてからにしよう。――今、父上が城にいない。父上が戻るまで、俺が父上の代理を任されている」
「え、リチャード様が国王陛下の代理ですか?」
私は思いっきり緊張してしまった。
それを殿下は悟ったらしく。
「おい、そんなに硬くなるなよ。無事に母上と子供が産まれたら父上は戻ると言っていた。多分、今日の夜中か明日の早朝には戻ってくる」
いま、リチャード殿下が代理とか言うから。
婚約者の私も何かしなくちゃと、体に力が入ってしまっていた。
「クク、ミタリア嬢は気にせず過ごしてくれ。だが今日寝るのは客間ではなく、俺と一緒に寝てもらう。この理由は言えないが……これは父上からの命令でもある」
「国王陛下の命令? ……ですか?」
リチャード殿下とは普段、お昼寝とかで一緒に寝ているからいいけど……麺と言われると緊張する。
「あの、猫の姿でもいいですか?」
「あぁ、俺もオオカミの姿で寝るからいいぞ。……それと、ミタリア嬢はけして俺の側から離れないように」
「……わかりました」
この夜のリチャード殿下は変だった。
それはベッドの上で猫の私を、オオカミの姿でしっかり抱きしめて眠ったのだ。
いつもなら寝返りをしたり、お互いにへそ天ができるスペースはあったのに……今夜は違った。両足でガッチリ胸に抱えて、片時も私を離さないように眠った。
♱♱♱
今朝、目覚めと同時によい報告がきていた。
昨夜の二十二時過ぎ、王妃様は無事に女の子を出産した。王妃様と赤ちゃんの体調は良好で、国王陛下が王城に戻っとも聞いた。
その報告を受けたリチャード殿下は、どこかホッとした表情を浮かべ、体の力を気を抜いたのがわかった。
昨日の夜から、ずっと気を張っていたリチャード殿下。
国王陛下の命令と言っていたから、どうして? と私は聞けずにいる。
朝食をリチャード殿下の部屋で終えた後。
彼は隣の部屋で、訓練着に着替え。
「今から俺は騎士団の早朝訓練に行ってくる。ミタリア嬢はベッドでのんびり寝ていてもいいし。書庫、庭園に行って好きにしていてくれ」
「好きに? ……はい、わかりました」
昨夜は何処にも行かさないってくらい、抱きついていたのに、この変化は何? と瞳で訴えたのがわかったのか。
リチャード殿下はポリポリ頬をかき。
「そうだよな……昨夜は窮屈だったろ? ごめんな、まだ俺の能力が低いから……ミタリア嬢を守るにはこうするしかなかったんだ」
「私を守る?」
と聞き返すと。
リチャード殿下は。
「おっと、騎士団の訓練に遅れる。昼前には戻るから、それまで自由にしていて!」
慌てて部屋を出ていった。いま、守るにはこうするしかなかった……もしかして私の知らないところで、リチャード殿下は守ってくれたんだ。
♱♱♱
騎士団の訓練後、部屋に戻ってきたのだけど『父上に呼ばれている』とお風呂と着替えを終わらせて、また出ていった。私は帰りを猫の姿で待ちながら、まったり彼のベッドで二度寝を楽しんでいる。
――フワフワ、お布団は潜っても、上に乗っても、転がっても最高〜。
「……おい、ミタリア嬢」
ゴロゴロとお布団を楽しんでいる私の頭の上から、ため息が聞こえた。
「あ、リチャード様……おかえりなさい」
「戻ったよ……まったく、ミタリア嬢はリラックスしすぎだろ」
殿下が、まったりしてもいいって言ったのに。
猫のまま起き上がると、リチャード殿下は私を抱っこして近くのソファに座り、国王陛下に呼ばれた理由を教えてくれる。
「え、舞踏会を開催するのですか?」
「あぁ、そうだ。昨年の秋頃、学園入学祝いの舞踏会が途中で終わったろ?」
「あっ……」
チココを見つけた私が、舞踏会を止めてしまった。
その事に関してはお咎めなしになったけど……いま思えば大胆なことをした。
「それで、父上が最後に『改めて舞踏会を行なう』と宣言したの覚えているか?」
「はい、覚えています」
「その舞踏会を五月ごろに入学祝い、俺の誕生会と母上の出産祝い、妹誕生記念を兼ねて、開催しようという話がいま出ているんだ」
「ステキな話し、舞踏会が楽しみです」
「あぁ、俺も楽しみだ。ミタリア嬢のドレスと宝飾品は俺が準備する。当日のエスコート、ダンスは俺とだけ踊ろうな」
と、リチャード殿下に耳元で囁かれた。