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第46話

 側近リルが作った、桃のコンポートは格別だった。

 リリネ君も甘い香りに目を覚まして、リチャード殿下を怖がるかと思ったけど。


『リチャード様の特殊能力って凄くかっこいい。僕も、カッコいい特殊能力が欲しいです』


 殿下を怖がるところか、彼の瞳はキラキラと輝いていた。


『そうか? お前は俺を怖がると思ったが、カッコいいか……フフ。リリネ、俺の様にならないよう誕生日前にしっかり、姉と研究所で検査を受けろよ』


『はい、リチャード殿下』


 と、コンポート食べながら色々話して。

 双子のヒロインに伝えるために、彼は家に帰っていった。




 ♱♱♱




 それから一ヶ月後、学園の三連休。私とリチャード殿下は馬車に揺られて、本を読んでいる。殿下は『あっ』と、反対側のお布団に転がる私を見た。


「そうだ、伝えることがあった。今、向かっている研究所に視察も兼ねて向かうことになった。特殊能力検査前に研究所の所長と、獣化についての話をする。――悪いな」


「いいえ、リチャード様の執務ですもの、謝らないでください」


 私達はお布団付きの馬車に揺られて、王都より離れた場所にある、特殊能力検査を受けに獣化研究所に向かっていた。


(もうすぐ着くけど……あの時のように大勢の研究者の前で、獣化しなくちゃならないのかな?)


 馬車の窓がら見える、研究所を見てため息が漏れる。


「気が重いな……」


 それはリチャード殿下も同じ。しばらくして馬車が研究所の前に停める。息を吸い馬車を降りたすぐ、お互いの手をガッチリ握った。研修所の奥は私達以外立ち入り禁止になる。そのため御者、リルと近衛騎士の2人は研究所の入り口の待合室で、私達が戻るまで待機する事になった。


 私とリチャード殿下は受付係りに奥へと案内されると、奥の応接間にお髭が立派でダンディな白衣を着た、虎の紳士が立っていた。その紳士は私たちに気付くと、胸に手を当てて深く頭を下げる。


 私と殿下はそれぞれ挨拶を、その紳士に返した。


「お久しぶりです、デンス所長。こちらが私の婚約者、ミタリア嬢だ」


「お久しぶりです、リチャード殿下。初めまして婚約者のミタリア様、お2人をお待ちしておりました」


「はっ、初めまして、よろしくお願いしますぅ!」


 緊張して、か、かみかみだ……そんな私に紳士は微笑み。


「ミタリア様、そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。特殊能力検査はすぐ終わります」


 すぐ終わる?  

 前の時は半日も、猫の姿だったのに? 


 今日の訪問は特殊能力検査とは別に、研究所の視察も兼ねているとリチャード殿下は言っていた。


 研究所の所長は。


「立ち話もなんですから、リチャード王子殿下、ミタリア様ご寛ぎください」


 並んでソファーに座ると、テーブルに桃のコンポートと、桃の果実水が用意されていた。


「ミタリアはそれを食べていて、少し所長と話をするね」


 殿下は隣に座る私にそう伝えると、所長と話を始めた。

 なんだか、大事な話の様だけど……私も聞いてもいい話。初めは躊躇したけど、話の内容は私にも関する事だった。


 所長は少しお待ちをと、用意してあった資料をテーブルに広げた。


「リチャード様、獣化する獣人の出生率は昨年とは変わっておりません……ただ特殊能力が現れる前に、何者かに連れ拐われるケースが多発しております」


「その話は父上から聞いている。特に誘拐されているのは小型で、主に猫族と犬族が多いらしいな。稀なケースだと子虎、子ライオンなども拐われていると聞いた、あと隣国、竜属種の子竜も狙われていると」


「竜人ですか? 彼らは20歳を過ぎる迄は子竜のままでしたよね」


「ミタリア様、よくご存知で……そうです、外見は可愛い子竜に見えますが中身は大人です」


(猫族、犬族と子供の虎とライオン……そして竜まで……怖いわ)


 それに竜人族と言えば、乙女ゲームの隠しキャラにいた。

 たしか竜人国、第3王子シック・トルナード、見た目は青いの短髪とサファイアの瞳。1年の終わりか2年に転校してくるはずだ。


(当時、ツイツイで隠しチャラ、キタァーって賑わっていた。リチャード殿下と並ぶ素敵な男性らしい、私は攻略雑誌でシルエットでしか見たことがないけど)


「隣国との話し合いで警備を強化していると言っているが……その警備の穴を突かれてしまい、連れ攫われてしまったと竜人国の国王は嘆いているのだとか」


「リチャード様、裏で大きな組織が動いているのでしょうか?」


「父上もそう考えて、特殊部隊を各地に放っている。しかし、奴らの手口が巧妙なのか……情報を掴めずにいるとも言っていた。あ、かすかに魔法を使った痕跡が、あったとも言っていたかな?」


「魔法ですか? それは厄介ですね」


「あぁ、厄介だ。うちの軍は匂いによる追跡は何処の国にも負けないが……」


「魔法で跡形もなく消えてしまうと、追えなくなりますね。完璧に後を終える『追跡魔法』を持つ者はいませんからね」


「そうだ……だから、いま、魔導具での実験の途中だな」


「はい。この実験が実れば、連れ去り事件が解決しますね」


「だからな、デンス所長。父上が「研究所には期待している」と言っていたよ」


「はははっ、その言葉は重いですね。しかし、大切な仲間を守る為です、私たちの能力を持って解決できるよう協力いたします」


「ありがとう、助かるよデンス所長」


「いいえ、私たちに出来ることは、これくらいですからね」


「大いに期待しているよ。よし、これで父上からの話、俺の話も終わりだ、俺とミタリアの特殊能力検査をしてもらおう」


 ついにきた特殊能力検査。


「移動するのも、なんですから。ここでチャチャっと行いますね」


「ここで、いいのか?」


「はい、すぐに終わります。お茶でも飲んで待っていてください」


 所長は準備しますねと、応接間を出ていった。




 ♱♱♱




 しばらくして所長と、助手らしき人が水晶玉を持って現れた。いま、私たちのテーブルに、台に乗せた水晶玉が置かれている。


「検査は簡単、これに両手で触るだけです」


「触るだけか……わかった、俺から触るな」


 王子が水晶玉に両手を乗せた。水晶玉が光り、赤く光る読めない文字が現れた。助手はその文字を読み、メモを取っていた。


「リチャード王子殿下は立派な特殊能力ですね。さすが王族。国王陛下と同じく、特殊能力が一つではありませんな!」


 自分の特殊能力は人に漏らしてはならない。悪用されたり、連れ去りの原因になるためだ。


(となると、王子は火属性と他にも能力があるんだ)


「リチャード王子殿下、終わりました。次はミタリア様、水晶玉に両手を乗せてください」


 私は闇属性かな? しかし、両手を乗せたあと、所長と助手の2人が目を見開いた。


(まさか闇属性って、そんなに珍しいの?)


「これは特殊の中の特殊。何十年と見て来ましたが……この様な特殊能力は初めてだ!」


 私の特殊能力にデンス所長は物凄く、驚かれたみたいだ。

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