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第39話

 私達の元に飛んでくる兎は多分ヒロインちゃんで、リチャード殿下の胸に、飛び込むものだと見ていたが。その兎ちゃんは『お前じゃない!』と、殿下を蹴り飛ばし、私の胸にすぽっと収まった。


 ――え? 私は驚き、手を出して兎ちゃんが落ちないよう、ギュッと胸に抱きしめた。  


「兎ちゃん、大丈夫?」


「はい、大丈夫です。フカフカ……やっぱり女の子はいいな」


 ――女の子がいいな?

 ――私の胸で、兎ちゃんはご満悦になってる?


(あれれ? ヒロインって女の子だよね?)


 兎ちゃんは、私の胸にスリスリしてきた。


「え、兎ちゃん⁉︎」


 驚いていると隣が手が伸びて、兎ちゃんの頭をつかみ。


「おい、おまえ……俺を足蹴にしたな。このすけべ兎! それ以上ミタリア嬢の胸にスリスリしてみろ、俺がお前を食ってやる!」


 と、リチャード殿下は、私の胸から兎ちゃんを強引に引き離した。


「ぎゃ、いたっ! ごめんなさい……僕を食べないでぇ〜」


「いや食う!」


 リチャード殿下はギラリと牙を見せた。

 兎ちゃんは捕まっていて逃げれず。


「あわわわっ……あ、ああ! 貴方様はこの国の第1王子リチャード殿下? ……となると、この可愛い人は婚約者のミタリア様? ごきげんよう、ミタリア様」


「フフ、ごきげんよう」


「なにが、ごきげんようだ! それに、お前はなんで学園の道端で獣化している?」


 それもそう。


 獣化は私達、獣人の中でも特別種となるため、人前で簡単になってはならない。舞踏会のとき大勢の貴族、学生の前でなってしまってけど、あれは緊急だからと陛下から許可された。


 だけどこの兎ちゃんは、自分が獣化することを知らなかったのか慌てだした。


「ええ! これが獣化というんですね? でも、なんで獣化したのか僕にもわからないんです。入学式が始まるまで庭園で寝ていたら、いつの間にか兎の姿になっていて……オロオロしていたら、誰かに声をかけられてびっくりしてしまって、ここまで逃げてきたんです」


「兎は、自分が獣化する事を知らない?」


「……はい、知りませんでした」


 兎ちゃんの言葉に、リチャード殿下はフウッと息を吐き。


「まれにだが――獣化することを知らないまま成長する者がいると、父上に聞いたとこがある。そうか……君に声を掛けたのは学園の警備員だな。庭園で獣化した君を見つけて、保護しようとしたのかもしれない」


「僕を保護……」


 足を止めて立ち話をしている、私達に。


「リチャード様この話は後でしましょう。そろそろ入学式の会場に向かわないと、間に合わなくなってしまいます」


 と、リルが話しかけた。


「そうだな、わかった……」


 本日の入学式には、この国の第1王子リチャード殿下が入学するため。国王陛下をはじめ、大臣などもこの入学式に出席することになっている。


 もちろん、隣国人族のカーエン殿下も学園に入学するので、隣国の国王陛下と王妃様もいらしていると聞いていた。


 その場でリチャード殿下は代表として、祝辞を述べなくてはならない、入学式に遅刻するわけにはいかないのだ。


「この話は、入学式が終わってからにする。リルは俺の側近だから着いてこなくてはならないし、時間がない。すごく嫌だが……兎はミタリア嬢に預ける。お前、ミタリア嬢に手を出すなよ」


「はい、わかっております」


 リチャード殿下と側近リルは祝辞を述べるため、控室に向かい。私は新入生が集まる、学園の会場に兎ちゃんを連れて向かった。




 ♱♱♱




 無事、入学式と殿下の祝辞が終わった。

 リチャード殿下と私、側近リルは集まり、学園の庭園に向かっている。――そして問題の兎ちゃんは入学式の間、いまも私の腕の中で、プスプフと気持ちよさそうに寝ていた。


「この兎……まだ寝ているのか」

「ええ、ズッと寝ていますね」


「クソッ……」


(壇上で祝辞を読むとき、リチャード殿下がチラチラ私を見ていたのは、兎ちゃんのことが気になっていたのね)


「ここが庭園か……」」


 学園の庭園につくと、近くの茂みに学生服が一式落ちていた。リチャード殿下はそれをリルに集めるよう、伝えた。


「かしこまりました、リチャード様の


「ここに制服が落ちていたのなら、この場所で兎ちゃんは獣化したという事ですね」


「……うむ、そのようだな。おい兎、起きろ!」


「ぎゃっ!」


 ガシッと、兎ちゃんの頭を掴んだリチャード殿下。

 殿下の前でプラーンとぶら下がり、リチャード殿下が怖いのか顔を青くした。


「兎、目が覚めたか?」

「……はい、バッチリ覚めました!」


 私はヒロインの兎ちゃんの扱いが悪い、リチャード殿下にオロオロしていた。


(兎ちゃんの話し方が男の子みたいだけど、女の子だと言いたいけど……)


 なぜそれを知っているのかと聞かれて、乙女ゲームでと言いにくい。結局、私はオロオロしかできなかった。


「おい兎、アクセサリーを身に付けていなかったか?」


「アクセサリーですか? アクセサリーなら、両親の形見の指輪を着けていました……そ、それですかね」


 ――両親の形見の指輪⁉︎


「それは大変だわ、早く見つけないと」


(たしか、兎ちゃんの瞳と同じ石がついたシルバーリングだってはず)


「ああ、おやさしいミタリア様〜。あの、僕も自分で探します。リチャード殿下、頭を離してくださいませんか?」


「いいぞ、俺も一緒に探してやろう。リル、探すのは指輪だ。――早くみんなで見つけよう」


「はい」

「かしこまりました」


 みんなで手分けして、兎ちゃんの指輪を探していた。


 そこに。


「さっきから黒猫ちゃんと、リチャード殿下達は庭園でなにをしているんだい?」


 と私を黒猫ちゃんと呼び、庭園にカーエン殿下と側近が現れた。

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