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第37話

 4月となり、乙女ゲーム開始となる学園が始まる。

 サイカの桜の木が咲き誇る、サラーロン学園までの道をリチャード殿下と2人並んで登校する……はず。



「ナターシャ、あったかお布団から出たくない……後5分はいけます!」


 アンブレラ家では恒例の行事が始まった。

 私のお布団掴みから始まり、メイドのナターシャに怒られながら部屋を駆け巡る。そして、ここで両親の登場だったのだが今日は違っていた。


「ミタリア嬢、迎えに来たぞ。朝食は馬車に支度してあるから、一緒に登校しよう」


「え? リ、リチャード様ぁ――⁉︎」


 ここで、両親ではなく殿下が登場したのだ。

 だけど、今日の私は入学式ギリギリで登校したかった。なぜなら、リチャード殿下とヒロインの出会いのイベントがある。学園に登校途中、ヒロインが石に躓き転びそうなところを殿下が助けるのだ。


 ベタベタな展開だけど。ここで2人の出会いのフラグが立ち、ヒロインが今朝のお礼だと言って、リチャード殿下をランチに誘う。婚約者がいる身で断ると思っていたミタリアだが、リチャード殿下は微笑み。


『いいよ、ミタリア嬢もテラスで昼食を取ろう』となる。


 リチャード殿下とヒロインは並んで座り、ミタリアは反対側の席。いつの間にやら本の話題で盛り上がる2人は昼食後、書庫にまで一緒に行くのが段取り。



「さぁミタリア嬢、学園に行くぞ」


「リチャード様、直ぐに制服に着替えるので応接間でお待ちください」


 先にリチャード殿下を応接間に行ってもらい、私はお腹が痛いと言って医師を呼び。リチャード殿下に『医者を呼び、診察するので先に行ってください』と、学園に少し遅れていく。


(そうすればイベントを見なくて済む! 我ながらいい案だわ)


「それは大丈夫、ミタリア嬢の着替えは持ったから」


「へっ? いつの間に私の着替えを、お持ちになったのですか?」


 驚く私を、リチャード殿下は慣れた手つきで、クルッと自分の制服に包んだ。


 ――えっ、私はこのまま登校するの?


「毎朝、ミタリア嬢と登校したくて父上にお願いして、馬車を新調したんだ」


 と見せてくれた馬車は王家の紋章がなく、シンプルな作りで、馬車の中で私が立ち上がっても頭が当たらない。すぐに乗り込めるよう扉が開いていて中が見えた、この馬車にも誘惑のお布団が引いてあった。


(フカフカお布団だぁ……でも待って)


「リチャード様、毎朝一緒に登校とおっしゃってましたが、王都からここまではかなりの距離ですけど?」


「それも大丈夫だ。ミタリア嬢には黙っていたんだが、チココの実績、ジャガイモなど料理の実績、俺の日頃の行いのお陰でミタリアの屋敷近くにというか、隣に父上と母上に小さな屋敷を建ててもらった」


「ウチの隣に小さな屋敷?」


(あ、ウチから馬車で15分の所に秋の頃から建築が始まり、雪解けの頃には工事が終わっていた、あの可愛い真っ白なお屋敷の事?)


「あの、お屋敷ってリチャード様のお屋敷だったのですね?」


「そうだ、今は出産を控えた母上が屋敷に住んでいる。人々が行き交う城より静かで、城より安全だと、城から父上の騎士、メイド、腕の良い医者と産婆も住まわせて、出産の準備をしている」


「では……もうすぐ、王妃様にお子様がお生まれになるのですね、楽しみです」


「ああ、楽しみだ。いっぱい遊んで可愛がって、今後の練習をさせてもらおうな」


 微笑んで、リチャード殿下に頬をスリスリされた。

 殿下と今後の練習? ということはリチャード殿下と私の子供⁉︎


「……私とリチャード様の」


「なんだよ。ミタリア嬢、照れるなよ」


 微笑んだ、リチャード殿下に更にスリスリされた。




 ♱♱♱





「お父様、お母様、学園に行って来ます」


「気を付けていくんだぞ、リチャード殿下、娘をよろしくお願いいたします」


「いってらっしゃい、リチャード殿下、ミタリア」


 もう、両親は私が獣化していても、リチャード殿下に包まれていても気にしない。オオカミ王子に守られているから、安心しているのだろう。


「いってきます、ミタリア嬢行こう」


 両親に挨拶を終えて、屋敷前に止まる馬車の場所に向かった。


「リル、お待たせ」


「リチャード様、早く出発しないと入学式に間に合いませんよ……あ、ミタリア様、おはようございます」


「おはようございます」


 リチャード殿下の側近リルと、御者は屋敷の外に待ってがいた。今日のリルは側近の格好ではなく、私達と同じく学園の制服姿、彼もまた乙女ゲームの攻略対象なのだ。


 乙女ゲームの終わりか。婚約破棄のとき、リチャード殿下の『狼吠ロウホ』が聞かず、逃げ出そうとしたミタリアをリルに捕まえる。


 そんな彼は礼をした後、微笑んだ。


「フフ、ミタリア様は獣化したままなのですね、いつも可愛らしい」


 普段の彼らしくない発言をした後。

 側近リルは私の頭を優しく撫でた。


「ひゃっ?」

「リル、俺のミタリア嬢に触れるな!」


 リチャード殿下の声と、自分のとった行動にリルは驚いた様子。だけど、彼はすぐ表情を変えて頭を下げた。


「リチャード様、ミタリア様、失礼いたしました。馬車にお乗りください」


 殿下と私は馬車に乗り込み、側近リルと御者は操縦席に座り、王都にあるサラーロン学園に向かった。


(……今日、私達は兎のヒロインと会うんだ)

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