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第34話

 果実水を飲み終わり、リチャード殿下と収穫祭の視察を続けていた。時刻はお昼頃、私は匂いに釣られリチャード殿下の袖を掴んだ。


「ミタリア嬢? 急に袖を掴んでどうした?」


「あの、リチャード様お腹空きませんか? 近くの出店で売ってる、スコップコロッケが気になります」


「ハハッ、いい匂いがしてると思ったら、スコップコロッケか美味そうだな」


 炒めた挽肉、蒸したジャガイモをあえて大きなスキレットに引き詰めて、パン粉をまぶしてオーブンで焼いたもの。


 小さなスコップ似たスプーンで、好きなだけお皿に盛り、重さで値段が変わる。味付けはソースかマヨネーズお好きな方をかけて、シャベルに似たスプーンで食べるコロッケ。


「ミタリア嬢、皿に盛りすぎじゃないか?」


「え? スコップコロッケの匂いに、そのお腹がすいてしまって……やっぱり盛り過ぎですか?」


 匂いに釣られてつい山盛りにしていた。盛り過ぎたと、楽しげに笑う殿下。


「いいや、俺もミタリア嬢と一緒に俺が食べるから、もう少し盛ってくれる」


「リチャード様も一緒に? はい、食べましょう」


 空いているベンチに座り、マヨネーズとソースをかけたスコップコロッケを食べる。シャベル形のスプーンでコロッケを掘ると、サクサクのパン粉の下にホクホクのジャガイモと挽肉が隠れていた。


 見た目にも面白く、味も美味しい。


「熱々で、ほ、ほいしい」


「ほいしい? あははっ、またそんなに口いっぱいに頬張るから」


「あちち、リチャード様も食べますか?」


 新しいスプーンを取り出して、ジャガイモコロッケをすくった。


「ここでか?」


「えっ、あ、そうですね、失礼しました」


 気付けば数人、足を止めてこちらを見ている。

 リチャード殿下と一緒が楽しくて、これが視察だと忘れていた。


「ほんとうは嬉しいが。外では悪いな」


「いいえ、お気になさらないでって、それは私が使ったスプーンです。こちらに新しいのがあります、あっ!」


「んっ、美味いな。これくらいはいいだろ?」


 その笑顔で言うのは卑怯です……リチャード殿下。




 ♱♱♱




「ふうっ、お腹いっぱいです」

「俺も、腹一杯だ」


 その後もたくさんの店を周り、吟遊詩人の愛の歌を聞き、愛を語る演劇、愛を語る書物も見て回った。


 表現豊かな愛の数々、さすがは愛の国。


 最後の出店は1人一回100モノでジャガイモ、ニンジン、サツマイモが袋に詰め放題。その袋が破れるまで、入れてもいいと書いてあった。


「野菜の詰め放題?」


「あの出店はこの前の詫びにと、人族の国王陛下が提供してくれたんだ。店番はカーエン殿下と側近、近衛騎士がやっているんだ」


(えっ、カーエン殿下?)


 これもこの収穫祭に来ていたんだ、そっと出店を覗くと、笑顔で対応するカーエン殿下の姿が見えた。


「ほんとうです、リチャード様の言う通りカーエン殿下がいます」


「フウゥ、向こうが俺達に気付いたな……こっちに手を振っている。はぁ、仕方がない視察だし寄って行こうか」


「はい、リチャード様。私、袋詰めがしたいです」

「それじゃ、一緒にやろう」


 出店に近付くと、カーエン殿下はグリーン色のジュストコールに黒色の付け耳と黒の長い付けて、店番をしていた。

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